第31話 違和感
テレビは行方不明者に関する報道をしていた。
画面には三人の女の写真が載せられている。
右から順に路上パフォーマーのピエロ、財閥の令嬢、占い師らしい。
同じ地域と時刻にいなくなったとのことで、番組は情報提供を呼びかけていた。
三人の顔写真を見た平野は首を傾げる。
「変な組み合わせだな」
彼は行方不明者の容姿に既視感を覚える。
しかし、記憶に靄がかかっているように何も思い出せなかった。
釈然としない気持ちを抱きつつ、平野はカップ麺を完食する。
空の容器を捨てようと立ち上がった際、平野はタンスの角に小指をぶつけた。
その拍子に体勢を崩し、派手に転んで膝を強打する。
強烈な痛みに平野は動けなくなった。
「いってえ……」
痛みが落ち着いたところで平野はぶつけた箇所を確認する。
小指の爪の先が割れて尖っていた。
平野は机にあった爪切りで割れた部分を丸く整える。
ついでに他の指の爪も短くしたが、切りすぎて深爪になってしまう。
手元が狂って血が滲む指もあった。
「ツイてないなあ……」
ぼやく平野はテレビに注目する。
ニュースが終わって現在は星座占いの結果を発表していた。
かに座の平野は最下位だった。
「残念ですが、かに座のあなたは人生最悪の一日です。ただし自分を変える転機でもあります。臆病にならず、勇気を出して踏み出してみましょう。ラッキーアイテムは火炎放射器です」
流暢に解説するのは、行方不明のはずの占い師だった。
荒唐無稽な内容も相まって平野は画面を凝視する。
星座占いのコーナーはすぐに終了し、キャスターがニュースを読み始めてしまった。
「……放送事故?」
平野はテレビをじっと見つめる。
特に不審な点はない。
しばらく警戒して観察するも、退屈なニュースが延々と流れるばかりだった。
そのうち平野はテレビの電源を消すと、億劫そうに立ち上がる。
(コンビニでも行くか)
財布を持って玄関から外に出る。
アパートの二階から見える景色は一面が田んぼだった。
駅からは非常に遠く、バスも一時間に一度しかやってこない。
これだけアクセスが悪いため、家賃も相応に安いのだった。
平野は駐車場に停めてあるバイクへと向かう。
バイクは樹木にチェーンで繋いであった。
普段とは違う停め方に平野は不審がる。
「誰かのイタズラか?」
幸いにもチェーンは簡単に外すことができた。
平野はバイクに乗ってアパートを出発する。
形容し難い違和感を抱きながらも、彼はその正体に気付かなかった。




