第30話 日常
平野は自宅のワンルームで布団に寝転がっていた。
だらしない顔でテレビのニュース番組を眺めている。
どこかの動物園の特集らしく、芸能人がオーバーリアクションで紹介していた。
「腹減ったな……」
起き上がった平野は台所へと向かう。
台所で醬油味のカップ麺を開け、鍋に入れた水をコンロで温める。
沸騰するまではまたテレビを観て時間を潰す。
ペンギンの行列がよちよちと可愛らしく歩いていた。
数分後、鍋の水が沸騰した。
平野はコンロの火を止めると、カップ麺に湯を注いでいく。
その際、勢い余って溢れた熱湯が指にかかった。
平野は反射的に跳び上がる。
「熱っ」
平野は慌てて水道で指を冷やした。
ついでに冷凍庫の氷を押し当てておく。
熱湯がかかった指は真っ赤になり、じりじりと嫌な痛みを訴えてくる。
平野は肩を落としてぼやく。
「薬とか塗った方がいいのかな……」
しばらくすると痛みが引いてきたので、平野は気を取り直してカップ麺を食べる。
火傷の処置で放置したせいでスープがぬるく、麺も少し伸びていた。
ただ、食べられないような味でもない。
微妙に不味いカップ麺を啜りつつ、平野はニュース番組を観る。
スープを飲んでいると、窓の外から威勢の良い声がした。
「不健康な食事ですわね。野菜も食べるべきですわ!」
「えっ」
平野はぎょっとして箸を止める。
声はもう聞こえてこない。
(変な人が引っ越してきたのかな……?)
平野の住む安アパートは壁が薄い。
隣人の生活音も丸聞こえなので、こういったことも珍しくなかった。
きっと別の部屋の住人が口喧嘩でもしているに違いない。
そう結論付けた平野は窓を閉めてニュース番組に意識を戻す。
番組は地方の村で起きた大規模殺人について取り扱っていた。
村の人間が被害者を食べていたのだという。
その様子を想像した平野はげんなりとした顔になる。
(なんかゾンビ映画みたいだな)
平野は数年前に出演した映画を思い出す。
いわゆるB級ホラーに分類される作品のエキストラとして参加したのだ。
当時はゾンビ役で出番は数秒にも満たなかった。
肝心の映画も酷評に次ぐ酷評で、出来の悪さをインターネットで揶揄される始末だった。
それでも平野にとっては貴重な出演作であり、映画のDVDは自宅に保管してある。
(タイトル……なんだっけ?)
平野はテレビ下の棚を漁ろうとして顔を顰める。
火傷した指の痛みが強まっていた。
赤くなった皮膚の爛れを見て、平野は小さくため息を吐いた。




