表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
岬ノ村の因習  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/100

第25話 人間狩りの罠

 夕闇に染まった森。

 獣道すら存在しない斜面を、地上げ屋の松田が全力で駆け下りていく。

 細かな枝をへし折り、地面の窪みに躓きつつも突き進む。

 彼はほとんど減速せず、滑り落ちるように走り続ける。


 後方には三人の村人がいた。

 村人達は銃や刃物を掲げ、しきりに怒鳴りながら松田を追跡している。


「待てやコラ!」


「安心せい! 楽に殺しちゃるから!」


「生贄! 新鮮な肉っ!」


 松田はひたすら前方に集中して走る。

 振り向く余裕などなかった。

 村人の声から距離を予測し、背中を撃たれないように注意する。

 徐々に迫る日没とあちこちに生える樹木が銃撃の妨げとなっていた。


 斜面を下りる途中、松田は樹木に貼られた赤いテープに気付く。

 刹那、彼は目を見開き、大きく悪態をつきながら跳んだ。


「くそったれがぁっ!」


 陸上選手のような跳躍を見せた松田は着地に失敗し、そのまま斜面を派手に転がり落ちていく。

 獲物の転倒を目にした村人達は喜び、彼を逃がさないように急いで走る。

 この時点で自らの勝利を信じて疑わなかった。


 テープの貼られた樹木を通り過ぎる瞬間、村人達は突き飛ばされるような抵抗感を覚えた。

 そして三人同時にひっくり返って倒れる。

 拳銃を持っていた男は後頭部を強打して叫ぶ。


「うごぁっ」


 猛烈な痛みを感じるのは後頭部だけではなかった。

 いつの間にかシャツの袖やズボンに裂け目ができており、奥の皮膚まで切れて出血している。

 じわじわと赤い染みが衣服に広がっていく。


 隣では仲間の村人が悶え苦しんでいた。


「うおおおおおおお! いてえええええっ」


 苦しむ村人の指が何本か欠損していた。

 失われた指の断面から血が噴き出している。 

 衣服も同様に裂けているが、指が明らかに重傷だった。

 手を押さえる男は子供のように泣きじゃくっている。


 さらに隣ではもう一人の村人が仰向けに寝転がっていた。

 顔面蒼白の村人は口をぱくぱくと開け閉めしている。

 首筋には大きな裂傷ができており、そこから夥しい量の血が流れ出している。

 明らかな致命傷だ。

 もはや動く力も残っていないらしく、その村人はぼんやりと夕空を眺めていた。


 二人に比べて軽傷だった男は大いに混乱し、周囲を見回して怒鳴る。


「ぐっ、罠かぁ!?」


 間もなく男は気付く。

 進路上の空中に、幾本もの赤い線が横に伸びて浮かんでいる。

 それは人間の顔くらいの高さまで等間隔に並んで血を滴らせていた。

 ちょうど三人が転倒した場所だった。

 よく見ると赤い線は二本の樹木の間に張り巡らされている。

 二本の樹木には赤いテープが貼られている。


 呆然とする男は恐る恐る顔を近付けた。


「な、なんじゃこれは……」


「ワイヤートラップだよ」


 木陰から声がした。

 音もなく姿を現したのは、短機関銃を構える安藤だった。

 安藤は素早く発砲する。

 銃撃は指を切断された村人と首が裂けた男に命中し、二人を一瞬で蜂の巣にした。


 死体となった村人を脇に、軽傷の男だけが無事だった。

 運が良かったのではない。

 安藤の冷徹な眼差しは、わざと狙いを外したことを暗に示している。


「聞きたいことがあるんだ。教えてくれるかな」


 短機関銃の照準が男に定まる。

 失禁した男は半泣きで頷くことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! ……トラップによる身体部位欠損の描写エッぐぅぅ。  被害に遭ったのが村の人非人どもだったのはむしろ拍手喝采ものですが、(以下、「気になる点」に続く) [気になる点] …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ