第21話 禁断症状
平野が拷問を受ける頃、ミヒロ、有栖川、星原の三人は大部屋で追い詰められていた。
連行係の二人の村人は、欲望に駆られた顔で告げる。
「孕み袋に服はいらん。さっさと脱げ」
村人はそれぞれ手斧とナイフをちらつかせる。
刃に付いた古い血は、逆らえばどうなるかを言外に示していた。
ミヒロは脅迫に怯えず、舌を出して笑う。
挑発気味に衣服の裾をめくって「どんな下着だったっけなー」と呟いていた。
星原はどこか遠くを眺めていた。
澄まし顔で「ああ、従う必要はないのですね」と言って動かない。
有栖川は甲高い声を上げて座り込んだ。
彼女は肩を抱いて震える。
呼吸は荒く、全身から滝のような汗を流していた。
他の二人と大きく異なる反応だった。
テレビを観る女達がくぐもった声で文句を言っている。
顔を見合わせた村人達はニヤけた顔で頷く。
そして猫撫で声で有栖川に語りかけた。
「最初は苦しいかもしれんがすぐに慣れる」
「そうじゃそうじゃ。優しくしてやるから安心しろ」
村人達は有栖川の肩や背中に触れる。
次の瞬間、その手が勢いよく振り払われた。
顔を上げた有栖川は、血走った目で懇願する。
「や、野菜……野菜をください……ッ!」
有栖川は獣のように唸って涎を垂らす。
縛られた両手は激しく地面を掻き、頭を何度も打ち付ける。
額が切れて血が滲むも、本人は一向に気にしない。
半狂乱になって野菜を渇望している。
有栖川は脅しに恐怖したわけではなかった。
それを察した村人は舌打ちし、移動中に預かっていた野菜入りバッグをひっくり返す。
地面に散乱した野菜を執拗に踏み潰し、村人はわざとらしく嘲笑する。
「こんなもんゴミじゃ! 栄養にもならん! 人肉最高!」
鎖に繋がれた女達が芋虫のように這って群がり、野菜の残骸を食らう。
互いを押し退けながら必死に奪い合っていた。
普段からおぞましい食事を強いられる彼女達にとって、踏み潰された野菜すらもご馳走だった。
一連の光景を目にした有栖川は、絶望に満ちた表情で固まる。
彼女は地面に突っ伏して動かなくなった。
村人が有栖川のドレスを脱がせようとしながら励ます。
「分かったか。野菜より肉だ。豊穣の儀は人肉を食い放題だから存分に――」
村人の発言が途切れる。
有栖川がいきなり立ち上がったことで、顔面に頭突きが炸裂したのだ。
「うぎゃっ」
仰け反った村人は顔を押さえる。
折れた鼻からとめどなく血が溢れ出していた。
痛みのせいで涙も出てくる。
悶える村人に対し、有栖川が助走なしのドロップキックを繰り出す。
吹っ飛ばされた村人は、壁から生えた鉄の棒に胴体を貫かれた。
位置的に心臓を貫いているだろう。
串刺しとなった村人は、血を吐きながら驚愕する。
「ぐ、が……あぁっ……!?」
もがき苦しむ村人は、どうにか鉄の棒をどうにか抜こうとする。
しかし、それも叶わず絶命した。
口から溢れ出した血液がびちゃびちゃと音を立てて落ちる。
死体を見たミヒロが「にひっ」と笑った。




