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第14話 悪意と欲の伝播

 岬ノ村では逃げた生贄……地上げ屋の松田とセクシー女優の佐伯の捜索が行われていた。

 村人達は数人のグループを作り、手分けして周辺地域を調べていく。

 鬱蒼な森の中をくまなく探すのは手間がかかるものの、彼らは血眼になって人影を探す。

 既に松田を取り逃すという失態を犯しており、万が一にも見逃さないように気を張っていた。


 一方、村長宅では緊急会議が開かれていた。

 捜索に参加していない男達が集い、現状について話し合う。

 狭い室内で肩を並べる彼らは大いに焦っていた。


「よそ者はまだ見つからんのか」


「大丈夫なのか? 早くしないと通報されるぞ!」


「吉蔵の馬鹿はどこにいる! 女を逃がした責任を取らせねば!」


「あいつは役立たずだから殺した!」


「よくやった!」


 弱音や文句、そこに怒声や歓声も混ざって場は混沌としていた。

 刹那、乾いた音が鳴り響いて全員が沈黙する。

 村長が手を打ち鳴らした音だった。

 注目を集めた村長は落ち着いた物腰で述べる。


「逃げた二人の生贄じゃが、別にそう慌てることでもなかろう。麓に辿り着くまでに最低でも半日はかかる。まだ猶予は十分にある」


「途中で車やケータイを手に入れたらもっと早いぞ」


「好きにさせたらええ。通報があれば、真っ先に加納に連絡がいく。あいつが上手く誤魔化してくれるじゃろう」


 加納とは最寄りの交番の警官のことだった。

 岬ノ村の人間であり、情報収集や隠蔽工作を担当している。


「対策は完璧じゃ。この村の秘密は一度も明るみに出たことがない。今回も大丈夫じゃよ」


 村長は自信満々に宣言する。

 動揺していた者達の顔に冷静さが戻ってきた。

 そして残忍な本性が見え始める。

 煮え滾る悪意が外へ飛び出す瞬間を心待ちにしていた。

 場を掌握した村長は、壁に貼った古い地図を指でなぞる。


「村の外に繋がる道は見張らせておる。生贄がどこへ逃げようといずれ見つかるじゃろう。出てこないなら山で遭難して餓死するだけじゃ。どのみち奴らに逃げ場はない」


「村に戻ってくる可能性はないのか。仕返しに来るかもしれないぞ」


「逃げた生贄は二人じゃ。何の問題もない」


 村長がその場の人間を見回した後、にんまりと笑った。

 欲に満ちた目で村長は命じる。


「豊穣の儀は続行する。生贄を捧げる準備をせよ」


 雄叫びを上げた村人達は一斉に動き出した。

 迷いが払拭されたことで生き生きとしている。

 農具を担いだ彼らは「生贄を! 殺せ! 犯せ!」と陽気に合唱しながら出ていった。


 そんな中、村長は痩せた白衣の男を呼び止める。


「伊達。お主は孕み袋の管理をしとれ……余計なことをするでないぞ」


「分かりました」


 伊達と呼ばれた男は小さく頷いてから立ち去った。

 それを見届けた村長は胡乱な目つきで鼻を鳴らす。


「…………」


 男達がいなくなった自宅で、村長はふと部屋の隅を見やる。

 明かりの届かない暗がりから、くちゃくちゃと音がしていた。

 何かを啜るような音もする。

 じっと注視しているうちに、それの輪郭がぼんやりと浮かび上がってきた。


 極彩色の鱗に包まれた異形が死体を食っている。

 皮膚の剥がれた顔を晒すのは、佐伯を逃がした吉蔵という名の男だった。

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