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第13話 完全武装

 安藤と松田は山の中を歩いていた。

 村人から見つかることを警戒し、道のない場所を素早く進んでいく。

 それぞれが持つ拳銃は絶えず周囲に向けられていた。


 やがて二人は鬱蒼とした岩場に辿り着く。

 草木が伸び放題となったそこは死角が多く、遠目には人がいることが分からない地形となっている。

 松田は手頃な岩に座ると、大きく息を吐いた。


「やっと振り切ったようだな」


「そうだね」


 汗だくの松田はジャケットを脱ぎ捨てた。

 彼はうんざりした顔で安藤に尋ねる。


「水持ってねえか」


「ないね」


「ケッ、役に立たねえな」


 悪態をついた松田は黙り込む。

 そして肩の傷にジャケットを巻き付けて固定する。

 血は止まったがまだ痛むらしく、松田は小さく顔を顰めた。


 その隣では安藤が煙草を吸い始めた。

 松田のように座らず、大きな岩にもたれて味わっている。

 煙草を見た松田は手を差し出した。


「一本くれ」


「残り少ないんだ。他人に恵みたくない」


「ふざけんな」


「真剣さ」


 松田に凄まれても安藤は意に介さない。

 ほとんど無表情の彼は淡々と煙草を吸い続ける。

 舌打ちした松田は不機嫌そうに言う。


「松田だ。今は地上げ屋をやってる」


「へえ、そうなんだ」


「お前も名乗れよ。名前が分からねえと呼び辛いだろうが」


 松田が睨むと、安藤は煙草を口から離した。

 少し考えた後に彼は短く答える。


「安藤」


「階級は」


「巡査長だね」


「下っ端じゃねえか」


「まあね」


 嫌味に対しても安藤は表情を変えない。

 なんとなく負けた気分になった松田は話題を変えた。


「どうしてこんな場所にいる」


「……犯人を追跡中でね。巻き込まれたんだよ」


「そりゃ不運なこった」


 安藤が一本目の煙草を吸い終えた。

 二本目を取り出した際、ふと松田を見る。

 彼は無言で煙草とライターを手渡した。

 松田も無言で受け取って旨そうに吸い始める。


「俺は村の人間を追い出すために来た。いつもみたいに簡単な仕事かと思ったが、まさか人間を攫って殺してやがったとは……」


「地上げ屋なんてやってるから罰が下ったんだよ」


「じゃあお前も悪人ってことじゃねえか」


「……どうだろうね」


 数分後、二人は休憩を終えて移動の支度を済ませた。

 安藤は進路を指差して意見を述べる。


「このまま麓を目指せば脱出はできるけど」


「俺は逃げえねえぞ。依頼を放り出したら消されるからな」


「狂った村だから無理だと報告すればいいのに」


「それで許してもらえるなら苦労しねえよ」


 松田は皮肉っぽく笑う。

 彼は依頼主の権力と冷酷非道さとよく知っていた。

 故に大人しく帰還するという選択肢を持たない。

 どんな手段を使ってでも村を確保しなければならないのだった。


 リボルバーの弾を確認しつつ、松田は安藤に問う。


「お前はどうする」


「もちろん逃げさないさ。犯人を生贄にされると困るからね。そもそもあんな村を放っておくわけにはいかない」


「じゃあ協力するしかねえな」


「うん。仲よくしよう」


 そう言って安藤は握手を求めるも、松田は無視して歩き出した。

 安藤は特に気にした様子もなくついていく。

 二人は岩場を抜けて再び森に入った。

 松田は獣のように目を光らせながら言う。


「しかし、たった二人で村に対抗するのは無茶が過ぎる。何か作戦はねえか」


「あるにはあるかな」


「じゃあさっさと教えろ。あいつらをぶっ飛ばすぞ」


「うん、そうだね」


 早足になった安藤が松田を抜かしてさっさと進んでいく。

 湿って滑りやすい地面や微妙な高低差、猛暑による疲労を感じさせない軽快な動きだった。

 負けじと松田もペースを上げて追いかけた。


「どこに行くつもりだ」


「僕の車まで戻る。途中の道に停めてあるんだ」


「やっぱり怖気づいたのか」


「違うよ。ちょっと準備が必要かと思ってね」


 かなりの距離を下りたところに灰色のセダンがあった。

 倒木で塞がった道のそばに停まっている。


 安藤は車のトランクを開いた。

 そこには工具箱が入っているだけで他には何もない。

 すると安藤は工具でトランクの底を外し、丸ごと車外に取り出した。


「これが欲しかったんだ」


 松田はトランクを覗き込んでぎょっとする。

 二重底の下に隠されていたのは、おおよそ日本では見られない光景だった。


 短機関銃と大量の予備弾。

 軍用の分厚い防弾チョッキ。

 パイナップル型の手榴弾。

 その他にも様々な武器が詰め込まれていた。


 異常な光景を前に松田は呆気に取られる。


「お、お前これは……」


「過去の事件の押収品さ。こういう時のために用意してある」


「絶対に違法だろ」


「元ヤクザがそれを言うのかい。それに今は非常事態だからね。手段は選ばないよ」


 安藤は涼しい顔で言う。

 武器の所持に対する罪悪感は一切見られなかった。

 松田は小声で呟く。


「……お前ただの刑事デカじゃねえな」


「想像にお任せするよ。ただ、このことは誰にも言わないでほしいな。死体が一つ増えるかもしれないからね」


 忠告を受けた松田は眉間に皺を寄せる。

 それから大げさにため息を洩らすと、トランク内の武器を掴み取った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 松田はともかく安藤は無線とかで警察呼べるんじゃない? まあ誰も信じやしねえか。
[良い点] おお、前話を読み終わった直後に続きが来た! ありがとうございます! >松田は皮肉っぽく笑う。 >彼は依頼主の権力と冷酷非道さとよく知っていた。 >故に大人しく帰還するという選択肢を持たな…
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