表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/100

第11話 青天の霹靂

 山道を進むミニバンの中は混沌としていた。

 運転手の堤田は村の歴史を延々と語っている。

 ピエロメイクのミヒロはゴム風船を弾ませて遊んでいた。

 ドレス姿の有栖川は野菜を頬張り、占い師の星原は水晶と会話している。


 助手席の平野はげんなりした様子で外の景色を眺める。


(頭が痛くなってきた……)


 好き勝手に振る舞う四人の声や音が、平野の不安をじりじりと煽る。

 いっそ村に着くまで眠ってしまいたかったが、それを実行に移せるほど彼の神経は図太くない。

 結局、堤田の村自慢を聞くくらいしかできなかった。


 蛇行する山道を上る最中、遠くで乾いた破裂音が鳴り響いた。

 反射的に身をすくめた平野は堤田に尋ねる。


「あ、あの。今のって……」


「村の花火だ。五年に一度の儀式があってな。祭りみたいなもんだから、あんな風に盛り上がってるんだ」


「なるほど……」


 平野は納得していなかったが、とりあえず頷いておいた。

 彼は「花火ではなく銃声では?」と訊いてみたかったが寸前で堪える。

 何か恐ろしいことになる予感がしたのだ。

 その考えを読んだかのように、星原が「口は災いの元です」と呟く。

 平野はもう顔を上げず、堤田の話にも反応しなかった。


 しばらくするとミニバンが減速した。

 誰も聞いていない話を中断した堤田は、前方に向けて手を振りながら言う。


「さあ、着いたぞ。ここが岬ノ村だ」


 家屋の周りを村人達が慌ただしく動き回っている。

 剣呑な雰囲気が漂っており、ミニバンに向けられた目線も鋭い。

 彼らのそばに停車させた堤田は声をかける。


「どうした」


「生贄が逃げた。男と女が一人ずつ……男は拳銃を持っとる。女は吉蔵を半殺しにして牢を抜け出した」


「ったく、吉蔵め。あいつは女に油断しよるからな」


 平野はやり取りを見守る。

 彼は状況を理解していなかったが、嫌な予感が的中したことを確信した。

 聞きたくない単語の数々に震えがぶり返す。

 漠然とした不安は今や明確な恐怖へと変貌しつつあった。


 堤田は助手席で凍り付く平野を一瞥する。

 それから会話していた村人に訊いた。


「こいつらはどうする」


「どこかに放り込んでおけ。逃げた生贄の捜索が優先だ」


「分かった」


 堤田が運転を再開する。

 ミニバンは村の中をゆっくりと進み出した。

 平野は恐怖と緊張で頭が混乱する。

 それでも勇気を振り絞り、やっとのことで発言した。


「えっと、これはどういうことですか……?」


「すまんな。ここまでじゃ」


 ミニバンが停車する。

 その直後、近くにいた村人達が殺到し、平野と後部座席の女達を縄で拘束した。

 平野は必死に抵抗したが、顔面を殴られた痛みで動けなくなった。

 それから乱暴に引きずられた挙句、家屋の地下にある木製格子の牢に放り込まれてしまう。


 堤田はこれまでと同じ様子のまま告げる。


「少し待っといてくれな。すぐに戻ってくる」


 村人達はさっさと地上に上がっていなくなる。

 見張りなどが不在なのは、それより生贄の捜索が大切だからだろう。


 平野は牢の扉に触れる。

 南京錠でしっかりと閉じられており、素手では開きそうにない。

 何度か体当たりしても肩が痛くなるだけだった。


 突如として訪れた絶望的な事態に、平野は顔面蒼白になる。

 身体の震えは病的なほどに悪化していた。


「そんな……」


 平野は一緒に閉じ込められた三人の様子を確かめる。


 ミヒロはトランプをばら撒いてケラケラと笑っていた。

 有栖川は玉ねぎの皮を剝いて豪快に齧っている。

 星原は落ち着いた様子で水晶に手をかざしていた。


 三人それそれが自分の世界に没頭しており、閉じ込められた状況を気にしていない。

 その光景を見たことで、平野の絶望感はますます高まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >女は吉蔵を半殺しにして牢を抜け出した  あらら、てっきり殺したもんだと。ツメが甘かったようで。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ