第1話 とある村の因習について
数コール目の着信音の後、安藤は通話に応じた。
耳にスマートフォンを立てた彼は物静かな声を発する。
「こんにちは。今度はどうされましたか」
相手は少し興奮している様子だった。
まくしたてるような口調で用件を伝えている。
しばらく黙って聞いてから安藤は答える。
「取材ですか。別に構いませんが、あまり関わるべきではないと思いますよ。あれから二年が経ちましたが、色々と禍根は残っていますので」
電話の相手は必死に何かを主張していた。
安藤は僅かに眉を寄せるも、それを声に出さずに納得する。
「なるほど、自己責任と言うなら止めません。ただし僕のことは匿名にしてください。上に見つかると問題になりますから……当時の顛末はご存じですよね。熱心に調べていらっしゃったのは把握していますよ」
最後の言葉には若干の皮肉が込められていた。
何かを感じ取ったのか、相手は無言になる。
微笑した安藤は煙草をくわえながら話を続ける。
「僕が体験したのは事件の一面に過ぎません。すべてを知っているわけではありませんので悪しからず」
安藤が煙草に火を点ける。
紫煙がうねり、天井へと流れて広がっていく。
その様子を眺める安藤の目は燻ぶっていた。
「発端は豊穣の儀でした。あの恐ろしい因習が惨劇を呼んだのです」
電話の相手が息を呑む。
安藤は懐かしそうな顔で語り始めた。