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㊸──『四葉』

これが最後の予定です。

 


 四葉の帰還の報せを受けて、依頼者の男が早速ギルドに駆けつけた。



「おおっ、待ちくたびれたぞい!まったく、空腹で死ぬかと思ったぞ!」


 待機する四葉の四人に男は一睨みだけ与え、直ぐに依頼していた品を要求した。


「さあっ!フェニックスの心臓だ!早く出さんか!」


 言われてチェニアは無言のままビンを男の前に置いた。中にはおどろおどろしい臓器が入っていた。


「ほう!これがフェニックスの心臓か~!むほほう!楽しみにょ~!おいっ、早速作れ!」


 男は連れきていたお抱えのコック達に命令し、コックらはギルドの厨房に入って調理を開始した。



「はっはっは!この日のためにおやつを抜きにしといたのだ!やっと満たされるほっ!」


『············』


 トミー、アイ、コリン、そしてチェニアの四人は気取られない程度に薄く笑った。




 ややして、スパイスグリルと、スープに仕上げられた料理が運ばれてきた。



「うほほっ!来たぞ来たぞ!美食家の誉れが!」


 もう待ちきれない男は、グリルにした肉を手掴みで取った。


「ああっ!至福の瞬間だにょ~!」


 そう言って豪快にかぶりついた。




「グチャグチャッ、うまっ······い゛?!」



 すると、どうだろう。


 それまでのニタニタと脂の乗っていた笑いがサーッと青く黒ずんでいったではないか。


「ぐぅごごおぉうう?!」



 これは本人にしか分からないが······。


 その味は悲惨極まりなかった。


 苦味、渋み、エグ味。それらが何の深みやコクも携えずに徒党を組んで、男の口の中で暴れまわっているのだ。腐った魚介の生臭さや、極限にまで達した菜の物の青臭さ、質の悪いロウのような脂の質感。


 まるで、腐った生ゴミと廃棄処分するインクを混ぜ合わせたかのような形容しがたい味であった。



「ぐぼおおええええ!!?」


 悶える男。激烈な不快感が彼の口の中を支配している。


「ぐ、ぐごおお!な、なんだ、こんな──」


 不味い料理は!と叫ぼうとした男の声に被せるようにしてチェニアが笑顔でこう言う。


「わあっ!そんなに美味しいなんて流石でございます!私らには分からない味を分かるなんて!」

「な、なに?!」


 チェニアがニヤリと笑う。


「私も文献で読みました。フェニックスの心臓は、それはもう極上の味なのだそうですが、それは賢くて優秀な人間でなければ分からないそうじゃないですか」

「な、なんだと?」

「いやはや、実を申しますと私も万一の事を考えて一口毒味をしたのですが、もう不味いのなんの。ですが、有力貴族であり、世界一の美食家である貴方様なら極上の味が分かると信じておりました。いや~、飛び上がって叫ぶほど美味しいとは」


 チェニアが目配せすると、(かね)て打ち合わせ済みのトミーらも口々に同意と称賛の声を上げた。


「流石!出来る男は分かる!」

「本当よね!ここで不味いなんて言ったら愚かで軟弱って判明するのに!」

「美味しすぎて飛び上がるなんて、本当に賢くて強い貴族なんだろうな!」


『いよっ。貴族の中の貴族っ。漢の中の漢っ』



 四葉の四人に囃し立てられた男は、喉までせりあがった『不味い』という言葉と、吐き気を辛うじて堪えた。

 そして、虚勢を張る。



「も、もちろんだ!こんな美味い物は食った事がないっ!あ~!最高だにょー!」


 そうして無理やりに口に詰め込んで一気に喉へと流し込んだ。



「ぐぼぼぼぼおおおっ!?」






 そして、男は泡を吹きながらほうほうの体で帰って行った。




「おやおや、チェニアちゃんも悪よの」


 貴族とその関係者が全員撤収したところで、ギルドマスターが初めて口を利いた。


「ありゃ、ゲラムスラの心嚢じゃろ?」

「あ、バレた?」


 指摘されてチェニアがペロっと舌を出す。


「別に毒は無いし、珍味なのは本当だからあれでも良いかな~って。まあ、食材ってよりは薬の材料なんだけどね。でも、あれじゃフェニックスの心臓食べたいなんて二度と言わないし、噂も広がるだろうねえ」

「やれやれ。困った子じゃのう。あんまし悪戯するもんじゃないぞ」


 そう言うマスターの顔も悪戯っぽい笑みを浮かべていたが、それがふっと真面目になる。


「で?本物のフェニックスはどうしたんじゃ?」

「魔法で跡形も無く吹っ飛ばしちゃった」


 あっけらかんと答えるチェニア。


 マスターはじっと彼女の顔を見ていたが、何か推察したのか呆れたように首を振った。


「まったく。本来ならランク降格もののペナルティじゃぞ。偽造報告なんて」

「あれ?私偽造なんてしたっけ?」


 とぼけるチェニアに苦笑しながらもマスターはこう宣告した。


「まあいいわい。四葉のこれまでの功績と、今回の依頼の違法性なども加味して『クエスト失敗』で手を打とう。初黒星じゃな」

「うげげ~。なんてこった~」





 非公式ながら、四葉は初めてクエスト失敗という汚点を残した。



 ギルドを後にした四人は町外れのなだらかな丘の上に来ていた。


 のんびりと並んで座る。良い天気であった。青空に白い雲がぽかりぽかりと浮いて漂っている。



「みんなごめんね」


 チェニアが空を見上げたまま言う。


「クエスト失敗しちゃった」

「俺は構わないよ」

「あたしも。むしろ清々しい」

「僕も同じく。達成感あるよ」


 やはり期待を裏切らない三人の返事に、チェニアは小さく笑うと、おもむろに立ち上がった。


「ねえ。今日はクエスト初失敗の残念会やろうか」


 その提案に三人も笑う。


「良いな、それ。楽しそうだ」

「反省会だから何か罰ゲームでもする?」

「ならゲラムスラの心嚢を食べようか?」


 どっと笑い声が沸いて、四人の影が並ぶ。



「さ、行こ行こ。落ち込んでる暇は無いよ。私達は生きてる限り冒険する冒険者なんだから」

「おう」

「ええ」

「うん」



 トミー、アイ、コリンの三人も大きく頷き、リーダーの後に続いて、丘を下りて行った。





 三人がどうしてこの世界に来たのかは分からない。なぜ、チェニアと巡り会えたのかも知りようがない。


 運命という言葉で済ませるなら簡単だが、少々味気ない。




 やはり、そこは幸運(ラッキー)だったと言う方が彼女達らしくて良いのだろう。




 冒険は今もまだ続いている。





 ──おわり──



大変お疲れ様でした。


ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。

もう少し続けようかとも思ったのですが、ネタが底を尽きてしまったので終わりという形にしました(スピンオフ的な作品は今後もあるかもしれませんが)


もしかしたらいつか続きを出すかもしれませんが、目処は立っていないので多分終わりです。



最後までご愛読していただき、本当にありがとうございます。


またどこかでお会い出来れば幸運です。

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