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㊶──幸運とは

3話続けてとなります。

 

 この日もクエストの依頼を受けたSランクパーティー『四葉』。




 ただ、今回のクエストは少しだけ何時もと依頼の経緯が違っていた。



「ほおん。チミらが四葉か。なる程ね~」


 ギルドマスターの執務室兼応接間にて、四葉メンバーの対面に座った中年男が、でっぷりした腹を擦りながら、無遠慮にチェニア達をジロジロと見ていた。


「ふーん。どいつも若いなあ。頼りになるとは思えんがねえ。本当にここで一番の精鋭なのかに~?」

「まあ、その辺りは保証しましょう」


 ギルドマスターが代わりに答える。流石に長年世を渡ってきただけあって、不快感などおくびにも出さずにニコニコと笑っていた。


 依頼に来たのは王都では有名な有力貴族で、チェニア達『四葉』を直々に指名しての依頼であった。


「まあ、いい。おぅっほん。我輩は美食家でも有名でな。この世のあらゆる珍味を食してきたが、未だにフェニックスの心臓だけは食った事がない」



 フェニックス。別名『不死鳥』。

 モンスターに区分されているが、人に害を成す事はあまり無く、地方によっては聖獣として信仰される事もある。

 個体数も非常に少ないため目撃されること自体稀有な存在で、幻のモンスターとまで言われてる。

 寿命は数千年とも、数万年とも言われており、その血を飲めば不老長寿の力を得られると言い伝えられている。


「だが、古い文献にフェニックスを丸々食べた美食家の記述が残されていてな。心臓の味はこの世のどんな美食にも勝ると書いてあったのだ。これは我輩も食わねばならんと思ってな」

「はあ······」

「見つける事自体困難。おまけに生息してるとされる場所は険しい山脈だと聞く。大体の居場所は噂や目撃情報で分かったが、今まで何人もの冒険者に依頼したにも関わらずことごとく失敗に終わった。そこで、チミらの出番だ」

「······」

「まあ、Sランクなら何とかなるだろう!はっはっはっ!楽しみだにょ~!」


 いくつかのやり取りを終えた後、男は意気揚々と帰って行った。


 残されたチェニア達には何とも言えない微妙な空気が漂っていた。


「ほほっ、チェニアちゃん。嫌そうな顔しとるの」

「まあね」


 チェニアがため息を吐く。


「全く必要性も緊急性も無い依頼だもん。大体、フェニックスの討伐は禁止されてなかったけ?」

「貴族の決めた法でな。だが、依頼してきたのも貴族じゃ」

「······ふーん。超法規的措置ってやつ?」

「そんなとこじゃ。だから討伐しても罪には問われんし、ギルド側としてもペナルティは出さんよ。安心しとくれ」

「安心ねぇ」



 気乗りしなかったが、指名依頼という事もあり、チェニア達は早速遠征の準備に取りかかった。




 そして、数日後。



「では出発」

『おおー』


 何時ものごとく四葉は難関クエストへと旅立った。

 何時もと違う点を挙げるとするならば、全員の士気がイマイチであるという事だろう。


「チェニア、まずは山脈に行くんだよな?」

「うん。それで、しばらくは地図のこの辺りを探す。アイのスキルで探査して見つける予定」

「ええ、頑張るわ」

「結構長いクエストになりそうだね」


 四人は大森林を歩き、目的の山脈を目指した。



 四葉の冒険は何時もと変わらなかった。


 獣道を進んで、森を抜け、川を渡って山を登り、道中に遭遇したモンスターらと戦う。


 実に順調。何も問題も無い。粛々と目的達成まで順調に歩を進める。



 そして、目的の山脈には予定よりも早く到着した。


「さて。この辺りだって言う噂らしいけど。アイの出番だね」

「ええ」


 数日間。四葉は山岳のあちこちを調査してフェニックスの痕跡を追う事にした。




 何日か経ち──


 進展は思ったより早く訪れた。


 ある山の山頂付近にフェニックスの物と思われる羽を見つけたのだった。チェニアが愛用の図鑑で調べる。


「······うん。形も色も一致してるし、何より火に当てると羽が鮮やかな色彩に色変わりするからフェニックスの物だね」

「おお、やったな」

「じゃあ、後はあたしがスキルで追跡してみるね」


 スキルを複数使いこなし、アイが羽の持ち主の行方を探す。


「ここら辺の山頂を転々としてるみたい。テリトリーって事かしら」

「なるほどー。一々山登りするのは大変だし、どうしようか」

「あ、それと気になることがあるの」

「ん?」


 アイが地図を取り出してペンを立てる。


「追跡、鑑識スキルの結果なんどけど、このフェニックスは山頂を行き来してるんだけど、もう一つ頻繁に行ってる所があるみたいなの。それが、ここ」


 アイがある一点を円で囲う。そこは別の山の中腹辺りであった。


「ここか。何かあるのかな?」

「分からないけど、かなりの頻度で来てるみたい」

「······フェニックスの生態はハッキリしてない事も多いからね。行けば何か分かるかも。とりあえず、私らの次の目標はここ」


 チェニアが荷物を背負う。


「さ、れっつらごー」

『おおー』



 四葉は山を下りて、また別の山を登った。

 設定した目的地には思ったより早くたどり着いた。


「この辺りよ」


 羽を持ちながらアイが告げる。


 そこは山の中腹に出来た小さな湖がある場所であった。のどかな風が漂い、麗らかな陽射しが野花に元気を与えていた。



「良い所だねえ」


 と、チェニアが言う。他の三人も同意して頷いた。


「ん?」


 そこでチェニアが気づいた。湖の畔にひっそりと小屋が立っている事に。


「あれ?あんな所に。誰か住んでるのかな」

「あ、本当だ」

「こんな所に?」

「無人じゃないかな?」


 四人が小屋に近づいてみると、洗濯物が干されているのが見えた。女性物の衣服であった。


「誰か住んでるね」




 そうチェニアが言った時であった。


「!!みんな、上!」


 突然アイが叫んだ。


 他の三人もその声に反射的な反応を見せ、アイを始めに全員が回避行動を取った。

 空からは灼熱の炎を纏った羽が、一行の立っていた地点に降り注いでいた。


「これは······」



 チェニアが視線を空に向ける。青空の中に、紅蓮に燃え盛る怪鳥が翼を広げているのが見えた。


「フェニックス!」


 さっと杖を取り出し、手を掲げる。これは緊急時のフォーメーションの指示であり、トミー、アイ、コリンの三人も即座に動いた。


 一糸乱れない連携は、直ぐに戦闘体勢を整えていた。


『ヒュイイイイッ』


 燃え盛るフェニックスは急降下して、四葉に襲いかかった。大きさは人よりも三回りは上回っていた。


「フリーズショット・クラスター!」


 詠唱と共に杖から氷の弾丸が乱射される。フェニックスが翼をはためかせ、それらを防ぐ。


「っ!」


 そこへコリンが麻痺矢を放つ。矢は命中したが、すぐに燃え尽きて灰になってしまった。


「アイ!」

「ええ!『虚空』!」


 アイの声と共にフェニックスの動きがガクリと止まった。今、彼の周囲は一時的に真空状態になっている。


 はためく事の出来なくなったフェニックスの体が落ちる。そこへ──


「永久なる氷結の刃よ、焔をも断ち切れ『フリーズ・ザンバー』!」


 チェニアの詠唱と共に巨大な氷の大剣が現れ、それは唸りを上げてフェニックスを打った。


 火の鳥は地上に砂煙を上げて落とされた。


「トミー!」

「おおっ!」


 力を溜めていたトミーが駆け出す。

 それで最後となる。彼の剛剣の一撃で止めとなり、クエストは終わる──かと思われた。




『ウィンドショット!!』

「!!?」


 あと一歩でフェニックスを間合いに入れていた所で、突如何者かの詠唱と共に風の弾丸がトミー目掛けて飛んだ。


「うおっ?!」


 寸での処で避けたトミーが思わず尻餅をつく。


「トミーっ、大丈夫?!」

「あ、ああ。だが、今のは······?」



 風魔法が飛んできた方向を四人が振り向くと、少し離れた所に一人の少女が立っていた。

 服装は普通の村娘と変わらなかったが、手には冒険者が使うような実戦用の杖が握られていた。年はまだ十代前半か。


 少女は激しい敵意をみなぎらせた目で四葉の面々を睨みつけ、杖を構えた。


「現れたわね、この死神どもっ!ピューイは渡さないわよっ!」


 今にも次の攻撃に移りそうな少女の剣幕に、トミー、アイ、コリンの三人は狼狽えた。


 この少女は何者か?なぜ敵対しているのか?


 おおよその事は状況と発言から推察出来たが、突然の人間からの攻撃には面食らっていた。




 しかし、チェニアだけは冷静に一歩前へ出て少女に呼び掛けた。


「ねえ、貴女。貴女は何者?」


 そのチェニアの問い掛けに少女は噛みつくように答えた。


「あんたら冒険者に答える義理は無い!」

「······」


 チェニアは少しの間じっと少女を見つめていたが、やがてこう言った。


「私達はただそこのフェニックスを狩りに来ただけだよ。貴女に危害を加えるつもりはない」

「っ!!ふざけるな!」


 少女の全身に魔力がみなぎる。


「そんな事絶対させないっ!帰れっ!帰らないと······次は本当に当てる!」

「ふーん」


 途端にチェニアが冷笑を浮かべた。平時の彼女が見せる表情ではなく、仲間の三人はその表情に困惑した。


 チェニアが杖を構え直す。


「私らの邪魔するんだ?言っとくけど、貴女じゃ万に一つの勝ち目も無いけど?」

「何だと?!」


 憤る少女をせせら笑ってから、チェニアは後ろの三人に指示を出した。


「三人とも下がっててよ。今から邪魔者をちゃっちゃと片付けちゃうから」

「え?」

「チ、チェニア?」

「本気かい?」


 三人に答えず、チェニアがそろりそろりと、少女を取り巻きながら歩き出す。



「フェニックスはしばらく動けそうにないねえ。逃げる事も出来ないね。貴女がそのモンスターを助けたいんなら私を倒すしかない訳だ」

「······上等っ!」


 少女が魔力を溢れさせた。


「恨まないでよね!!」


 杖が赤く輝きだす。


「フレイムショット!」


 火の玉が放たれ、一直線にチェニア目掛けて飛ぶ。


 チェニアは微動だにせず、軽く自分の杖で薙ぎ払った。火の玉はフッと消え失せた。


「!!まだまだっ!サンダーアロー!」


 電光が矢の形になって放たれる。

 チェニアが杖を軽く振ると、たちまち地面が隆起し、岩の壁が展開される。

 電光もまた、消え失せた。


「くっ!!でやあーっ!!」



 風、水、火、土。全ての属性の基本攻撃魔法が途切れる事なく放たれる。


 しかし、基本魔法攻撃程度ではチェニアの作り上げた防壁にひびを入れる事すら出来なかった。


「真っ向からぶっ放すだけなんて、バカの一つ覚えってこの事だね」

「くっ!黙れっ!」


 チェニアの挑発で少女が杖を構え直す。


「風よ!集いて岩をも打ち砕け!ガスタ・ブロウ!」


 大量の魔力を消費した中級魔法が放たれる。

 風の(つい)が土の防御壁に衝突する。初めて壁が小さく崩れた。


「や、やった!」


 思わず喜びの声を上げる少女。しかし──


「何を喜んでいるの?」

「!!」


 すぐ後ろから声がした。慌てて振り返ると、そこには前方に居たはずのチェニアが立っていた。


「いつの間に!?」

「甘いね。貴女の魔法は全部放出系。しかも真正面から打つだけ。そんな技は冒険者に通用しない」


 言葉が終わらない内に、チェニアが鋭く肉薄した。素早い動きであった。


「?!」


 少女が咄嗟に杖を盾にする。次の瞬間には強烈な衝撃が襲った。


「ぐうっ?!」


 少女の体が軽々と浮かんで、後方に吹き飛ばされる。辛うじて踏みとどまった彼女の目の前にチェニアが迫っていた。


「!!?」

「肉体強化魔法を使えば非力な人間でもこのくらいは出来る。本職の前衛はもっと強くて速い」


 チェニアの杖の先端に、氷で作られた棍棒が付いていた。それで打たれたらしいと少女は理解した。


「遅いね」


 チェニアが棍棒と化した杖を振るう。瞬く間に数発の突きを入れる。


「きゃああっ!!」


 また吹き飛ばせれる少女。今度は地面に叩きつけられた。


「うぅ······あぐっ······」


 痛みを堪えて立ち上がる少女に電光の矢が飛んできた。


「うわあっ!?」


 最初のは躱した。しかし、その次に飛んできたのは躱せなかった。

 鋭い衝撃が全身を駆け抜けた。


「あああああっ!!」


 倒れる少女から離れた所で、チェニアが杖を弓のように構えている。


「そして、魔法は応用すれば多彩な攻撃パターンを産み出す。やりようによってはアーチャーのような戦闘だって出来る」

「う、ぐぐっ······!」

「もっとも、これらはあくまで物真似の域を越えない。魔法使いの本当の戦い方はその時の状況に合わせて魔法の種類を使い分ける事」


 チェニアがゆっくりと少女に近づく。


「っ!!う、ウインドショット!!」


 その小さな抵抗は、目の前の魔法使いによって無感情に振り払われた。


「アクアショット!フレイムショット!サンダーアロー!ロックフィスト!」


 全てが虚しかった。まるで何一つ意味を成さない。

 次第に少女が息を切らし始めた。


「はあっ、はあっ、はあっ······」

「魔力切れ。短時間に撃ち過ぎたからだね。考えの無い魔法はあっという間に魔力を尽きさせる」

「う、うぅ······」

「魔法使いは常に冷静に魔法を使い分けて操る。それが出来ない人間は負ける······今の貴女みたいにね」

「っ······!」

「今の貴女みたいになっていれば、例え基本魔法でも······ウインドショット」


 ──バシュッ──



「あっ──」



 ただの基本魔法であった。


 しかし、その威力も精度も少女のとは比にならなかった。


 少女の体は不思議なくらい簡単に宙を舞い、哀しくも無力に大地に投げ出された。


お疲れ様です。次話に続きます。

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