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㊴──小さな一時

前話の後日談、おまけです。


本日は5本投稿の予定です。

 


 交流会(※前話参照)から戻って数日後。



 チェニアは一人でギルドに来ていた。



「あら?チェニアさん」


 テーブルで一人席に着いてビールを飲むチェニアの横を受付嬢が通りがかり、軽く驚く。


「珍しいですね。チェニアさんが一人で、しかもビール飲んでるなんて」

「ええ、まあ······」


 チェニアは言葉を濁すように頷いた。




 今日はクエストに来たのではない。


 他の三人──トミー、アイ、コリンの三人にも休みにすると言ってあり、自分も出掛けるから帰りは遅くなると伝えてあるチェニアだった。




 では何故一人でこんな所に居るのか?



 しかも、彼女の手には普段飲まないビールのジョッギが握られている。



「······」


(ふう。何を緊張してるんだ私は。別に、悪い事しようって訳じゃないのに)



 チェニアは落ち着きなく、そわそわとギルドの入り口へ何度も視線をやっていた。



 そんな風にしていると。




『おいっ、テメエらの馬車が邪魔だぞっ!女狐!』

『うるさいカラスねっ!少しはレディーを優先しようと思わないのかしら?!』

『ええいっ!喧嘩はあっちでやれっ!邪魔だ!』


「!」


(来た······)



 ギルドの外が騒がしくなり、間もなくしてドアが荒々しく開かれた。



「このタコども!ビィービィー喚きやがって!」

「それはこっちのセリフよ!」

「くそっ!小物どもめ!」


 ドタドタと慌ただしい足音がいくつも入ってきた。


 ウイードスギルド三大Aランクパーティーの登場である。

 モブド、ワキーナ、エキストのリーダー三人とその配下のメンバーが受付カウンターへと雪崩れる。


 受付嬢がにっこりと取り合う。


「お疲れ様です。では報告を──」


「ああ、ほらよ──」

「ちょっと!順番抜かさないでよ!」


 ──ドンッ──


「痛てっ!」

「あたし達が先に来たんだからあたし達が先よ!」

「ああん?!目ん玉ついてんのか?!俺らが先だったろうが!」

「ええいっ!どけっ!」


 ──ドガッ──


「うおっ!」

「きゃあっ?!」

「先は我らに決まってるだろう!貴様らは後ろで待っていろ!」

「んだとコラァッ!」

「この蛮族のデカブツ!」

「なんだとおお?!」


 取り巻きらも騒ぎ始める。


「ヒャッハー!ウチらのリーダーに喧嘩売るなんてなあ!?テメエら死んだぜー?!」

「オホホホッ!アンタら軟弱野郎どもなんてあたし達のお姉様がぶちのめしますわっ!」

「ええいっ!控えおろう下衆どもめ!うぬらなど、我らが長に踏み潰されて終わりだ!」




 といった調子で、乱闘すら起きそうなくらいに過熱していた。




 そんな熱い騒ぎへ──


「あの~······」


 声を掛ける者が居た。


 Aランクパーティーの面々が一斉に振り向く。そこに立っていたのはチェニアであった。



「あん?」

「あら······」

「む······」


 モブド、ワキーナ、エキストの三人も気づく。


「あっ、チェニア」

「チェニア?」

「ぬ······チェニアか」


「あ~、えっと······ども~······」


 顔を背けてチェニアが頬をポリポリと掻く。



 チェニアはあの交流会での一件の後、三人とほとんど話もせず、しかも会っていなかったのだ。



 チェニアとしては、死ぬほど恥ずかしい思いをしたので出来れば関わりたくはなかったのだが、三人に迷惑をかけた事と、世話になった事の詫びと礼は果たそうと決心していたのだ。



「······え、えっと······」


(うう、なんでこんなに気まずいんだろう?)


「あの~······お三方ともさ。この後時間あるかな?その······良かったらなんだけど四人でちょっとご飯でもって思って······もちろん私の奢りで」


 そのチェニアの誘いに反応したのは取り巻き達であった。


「ああんっ?!んだと?!」

「何言ってるのっ!アンタ!」

「おのれっ!白々しい!」

「毎度毎度、俺らのリーダーコケにしやがってるクセしてよぉ?!ああんっ?!ボコすぞ!」

「このチンチクリンのおませ娘っ!アンタみたいな生意気な子とお姉様が食事する訳ないでしょ!」

「油断させといて毒でも盛るつもりであろう!なんと小賢しい!」



 息巻くメンバー達。それを



「やめろ」

「やめなさい」

「やめるがよい」


 というリーダーらの言葉が止めた。


 配下のメンバーらがどよめく。


「だ、だけどよリーダー!」

「お姉様、だって!」

「しかし長っ!」


「先帰ってろ」

「先帰ってなさい」

「先に帰れ」


『············』


 他のメンバーは渋々と帰って行った。




 こうして、残ったのは三人のリーダーとチェニアになった。


「······えっと、じゃあ」


 チェニアが四人席を指す。


「そこで良いかな?」


 すると三人は


「良いぜ!」

「良いわよ!」

「良いぞ!」


 と同時に満面の笑顔になって答えた。






 しばらくの間、ギルド内はざわついていた。


 あの、犬猿の仲と思われていたAランクパーティーのリーダー三人と、その三人の因縁の相手であるSランクパーティーリーダーのチェニアが一緒のテーブルに着いて酒を飲み交わしているのだから。


 奇妙な光景であったろう。



「んでよぉ!チェニアが言ったんだ!『モブド、貴方のパーティーに入りたいの。お願い、私を入れてっ』てな!」

「言ってなーいっ!絶対言ってないもん!」


 酒に程よく酔ったモブドがチェニアをからかう。


「そう恥ずかしがんなよチェニア。お前からのラブコールは熱烈だったぜ?」

「~っ!それはキノコのせいっ!」

「そうよっ、アンタのはただの妄想っ!」


 こちらも上機嫌にジョッギを振り回すワキーナ。


「チェニアが来たがってたのはあたしのパーティーよ~。何て言ったって『ワキーナお姉様、好きですっ、私を妹にして下さいっ』て言ってたんだから」

「もうっ!それも脚色してる~!」

「そうだ、この変態女め!」


 エキストは赤ら顔を愉快そうに震わせた。


「チェニアが望んだのは我のパーティーへの加入だ!『エキスト殿、貴方様に愛の忠誠を誓います!だっこしてくださいまし!』とな!」

「それも言ってな~いっ!」



 チェニアはと言うと。酔いもあったのか、何時もと違って三人にいいようにからかわれていた。

 顔を真っ赤にして大声を上げるその姿に、ギルドに居合わせた他の冒険者や、受付、ギルドマスターまでが驚いていた。



「チェニアの奴、あんなに声出せたんだな」

「チェニアちゃんも焦る時あるんだ」

「まさかチェニアさんがあの三人にやり込まれてるなんて······ふふ、少し面白いかも」

「おーおー。チェニアちゃんにも勝てない時があるもんなんじゃな」



「はっはっは!そう恥ずかしがんなよ、チェニア!あの時のお前はちっとは可愛げあったぞ!」

「キノコのせいっ!毒だったからしょうがないじゃんっ!」

「ふふふ、とか言って。本当はあの時が貴女の本音だったんじゃないの~?」

「!!そ、そんな事ないもんっ!」

「がははは!チェニア、何時もあのくらい愛嬌があれば我も可愛がってやるぞ!」

「~~!あー!もーうっ!だから嫌だったんだ~!」



 羞恥と酒に真っ赤になったチェニアが一気にジョッギを煽るのを見て、三人も大きく笑った。


「はーっはっはっ!良い飲みっぷりだぞチェニアー!おーいっ、もっとツマミと酒持ってこーいっ!」

「あははっ!チェニア、つぶれたらあたしの部屋で介抱してあげるわ~!」

「がっはっはっは!今日は酒が美味いな!チェニア、もっと飲み明かそうぞ!」





 この宴会はしばらくウイードスの冒険者の間で大いに噂され、見られなかった者達には都市伝説として語られたと言うそうな。






「うぅ。あのキノコめ~······あれさえなければこんな事には~·········」



 それでも、楽しい気持ちもあるチェニアなのであった。


お疲れ様です。次話に続きます。

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