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㊳──もう一つのパーティー(後編)

 


 野営に適した場所を探してる頃には日が西に落ち始めていた。



 戦闘の直後は和気あいあいとした雰囲気も見られた一行であったが──



「頭から教えねえとわかんねえのかぁ?こっちの西側に行くんだよ!地図によりゃ原っぱに出られるんだからよ!」

「バカは黙っててちょうだい。このまま真っ直ぐ古道を行けばいいのよ!集落跡があるはずだからそこに泊まるのよ!」

「それよりもこっちの東だ!見ろ、洞窟エリアとなっていると記されている。これで夜を明かすのだ!」

「てめえらはリーダーの言う事も聞けねえのか?!何ランクだ?ルーキーですら言う事くらい聞くぜぇっ!」

「あんたがリーダーなんて初耳だわ~!妄想力だけはAランクねぇ!?」

「黙って洞窟だ!洞窟のあの薄暗さにひんやりとした寝心地は最高だ!」

『それは無い!』



「······はあ~」



 その仲の良さは一時間ともたなかった。

 野営地をどこにするかで早くも揉めていたのだ。


 深く肩を落とすチェニア。目も地図に落とし、ルートや要所を一人考える。


 そして良さそうな案を見出だした。


「左だ!」

「真っ直ぐよ!」

「右だ!」


「あのー、お三方~」


 チェニアが遠慮がちに手を上げて提案する。


「ここから少し戻った所なんてどうかな?ほら、この地図によるとここら辺が水場もあるし、見晴らしの良い高台になってるみたいだよ」


『············』


 三人はチェニアを睨んでいたが、同時に舌打ちを鳴らした。


「しょうがねえな」

「手下の意見に耳を傾けるのもリーダーよ」

「それで我慢してやろう」

「うん。じゃあ出発ー」


 チェニアが先頭に立って歩き出し、三人は渋々とその後に続いた。



 ややして、一行は川の近くの丘に辿り着いた。


「よし。じゃあ役割分担しよー。モブドはモンスター避けの薬剤の散布、ワキーナは薪拾い、エキストはテントの設置ね」

「おいっ、なーに命令してんだよ」

「じゃあ、おねがーい」

「チッ、今回だけだからな!」

「ちょっとチェニア。あたしに雑用やらせる気?」

「ワキーナ、美人~、色っぽい~、カッコ可愛い~、女の中の女~、薪拾いだって完璧なんだろーな~」

「もうっ、仕方ないわね。待ってなさい」

「チェニアよ、我をコキ使うか」

「エキストの作ったお家ですやすや寝たいな~」

「見てるが良い。寝床とはこう作るのだ!」



 こうして役割分担も無事に済み、チェニアも食材を探しに向かった。木々の間を練り歩く。




(もう、三人とも本当脳筋なんだから。食べ物無かったら困るじゃん。私の支給品だけじゃ足りないし。少しでもかさ増ししないとだな)


 食べられそうな木の実や山菜を採集していくチェニア。冒険者四人の腹を満たすには気休め程度であったが、それでも集めていく。


(大体、仲が悪いから私が苦労するんだ。もっと仲良くならないかな~。そういう魔法とかあったら良かったのにー)


 そんな事を考えながらキノコを採っていた時であった。


「ん?」


 ふとチェニアが手を止めた。木の根元に見た事のない風変わりなキノコが生えているのが目に入った。

 傘はピンク色で赤い水玉模様が散らばり、柄の部分は紫色という一目で危険と思われるキノコであった。


「うわぁ。絵に描いたような毒キノコ」


 しかし、今まで見た事のないそのキノコにチェニアは好奇心を覚えた。


(珍しいキノコだなあ。よし、調べてみよ)


 チェニアはポーチから山菜図鑑を取り出した。フルカラー図解解説という、この世界では斬新で珍しいタイプの図鑑で高価な一冊だ。チェニアの愛用品でもある。


(え~っと、傘の色のピンク······あった。ん?『スキスキダケ』?なんじゃそりゃ?)


 色付きのイラストは間違いなく目の前のキノコであった。


 ──解説──


『モロダケ科のキノコ。別名ホレコナダケ、サキュバスマッシュ、イロヨイダケ。シュノール地方から北部にかけて全域に確認されるキノコで、春から夏にかけて生えるとされる。広葉樹林帯の、ブナ、コナラなどの根元に稀に生える事があるが、滅多に見つからない貴重なキノコ。胞子に独特の成分が含まれており、吸ってしまうと泥酔に似た症状と、他人に対して異常に好意を抱くという特殊な症状が発生する。胞子の作用時間はおよそ数時間から一日程とされる。人体の生命活動に致命的な悪影響を及ばす事はないが、幻覚、情緒不安定などの症状も確認されているため、毒キノコとして認定されている。なお、この成分を正しく使えば媚薬にもなるため、古くは惚れ薬の材料として魔女が重宝したという』


「へえー」

(レアアイテムかあ)


 とは言え、食用ではないようなので採取しようかチェニアは迷った。


(······ん?おっ。はは~ん?)


 と、そこで彼女の悪いクセ、すなわち悪戯心が頭をもたげた。


 チェニアはそのキノコを取ると、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら拠点へと戻っていった。


 その頭の中には次のような企みが渦巻いていた。


(ふふふっ~。これをあの三人の鼻面に振りかけてやれば皆スキスキ、好き合いパーティーの出来上がりだ~。仲良くなる魔法、見っけ)



 森を出て、拠点が見えると、三人は既に戻って来ており、また何か言い争っていた。


 チェニアがニタ~っと笑う。


(さあ、争いは終わりだっ。うひひひー)



「おーいっ、三人ともーっ」


 ──タッタッタッタ──


 モブド、ワキーナ、エキストらが一斉に振り向く。


「あん?なんだ?」

「チェニアどうかした?」

「ぬう?」


「三人とも、ちょ~っと面貸して──」


 ──ガッ──


「うぇ?」


 悪戯心に浮き立っていたチェニアは足下を疎かにしており、地面の窪みに足をつまづけた。


「どぅえっ?!」


 そのままバタンと転ぶ。


「おい、何やってんだよ、平気か?」

「チェニア大丈夫?」

「大事ないか?」


「いたたっ······あれ?キノコは?」


 起き上がったチェニアが辺りをキョロキョロと見回していると──


 ──ポフン──


「へ?」


 何かが頭の上に落ちてきて当たった。それは、手からすっぽ抜けて宙を舞っていたスキスキダケであった。

 胞子がチェニアを包む。


「えっ?あ、あわわっ!?」


 足下に転がったキノコを見て、何が起こったか理解したチェニアであったが、時既に遅し。

 たちまに効果が表れ始めた。


「うぇぇ?ふ、ふにゃらふにゃ~······」


 その場にヘナヘナと脱力して座り込む。

 モブド達が怪訝な顔をする。


「おい、どうした?」

「ちょっと、大丈夫?」

「怪我でもしたか?」


 三人が心配して近寄る。

 モブドがチェニアに手を差しのべる。


「ほら、立てよ。大した事ないだろ?」

「···········ふへへぇ~」


 すると、チェニアはモブドの手に絡まるようにしてしがみついた。


「?!?!お、おい!?」

「えへへ~、モブド~」


 トロンとした目つきでチェニアがモブドに迫る。


「モブドしゅき~」

「!!!!????は、はあっ???!!」

「えっ!?ちょっ、チェニア?!」

「な、な、なんだと?!」


 モブドはもちろん、ワキーナとエキストの二人も驚愕のあまりに声を裏返した。


「ちょっ!チェニア!?どうしちゃったの?!」

「おいいい!!カラスっ!貴様チェニアに何したあぁ!!」

「な、なななんもしてねえよ!!お、おいっ、チェニア!?」


「ん~?」


 チェニアはニコニコと笑いながらモブドの腕をギュッと抱きしめた。


「なに~?」

「いやぁ、あ、あのよ、ど、どうした?なんで急にっ······」

「え~?モブドがしゅきだから~?」

「っ?!?!!?!?!」

「と、とにかく!ダメよチェニア!」


 ワキーナがチェニアをモブドから引き離す。


「貴女だって女の子なんだから、男に簡単に体を許しちゃダメよ!」

「ん~······?」


 チェニアは夢見心地の眼でワキーナを見ると、その農満な胸の中に顔を埋めた。


「?!???!!!ちょっ!チェニア?!」

「えへへ~、ワキーナ~」


 チェニアが甘えた声を出す。


「しゅき~。お姉ちゃんになって~」

「!?!?!!!?ほ、ほねぇ!?」

「な、なんだ?!様子が変だぞ!チェニア!」


 エキストがチェニアの肩を付かんで揺さぶる。


「しっかりせい!酒でも飲んだのか?!」

「うんにゃら~ぐらぐら~。あ、エキスト~」


 と、チェニアが潤んだ瞳でエキストを見つめる。


「エキスト、しゅき~」

「?!?!!!?な、ぬあんだとぉ?!」

「抱っこして~」


 そうして、エキストの懐にすっぽりと自ら収まるチェニア。


「ーっ!?~~?!!!!!?ぬ、ぬおおおおお!???」

「おおいいっ!!この猪野郎!何してやがんだあああああ!!?」

「い、いやっ!わ、我は何もっ!」

「コラッ!あんたみたいなむさい男がチェニアに何しようとしてんの?!」

「な、何もせん!!!た、多分······」

「いいから離れろテメエ!!」


 モブドが二人を引き離し、チェニアをワキーナが受け止める。


「チェニア?!貴女どうしちゃったの?お、おかしいわっ。あ、あたしの事、す、好きだなんてっ······」

「んへへ~、ワキーナしゅき、しゅきしゅき~」

「ほ、ほわああっ!?!」

「と、とにかくだ!女狐、チェニアを少し押さえてくれっ!」

「わ、分かったわ!」

「おい猪っ!チェニアの奇行に何か心当たりねえか?!」

「わ、我を好き、好き······チェニアが我を······」

「おいっ!聞いてんのかっ!?」

「っハ!!う、うむ!ん?」


 エキストが地面に落ちてるスキスキダケに気づく。


「なんだ?何か妙な物が······」

「あ?んだそれ。毒キノコか?」

「ふむ。もしかしてこれが原因か?」

「ちょ、ちょっと!早くしてよ!あたしももう限界っていうか、理性が危ないっていうか?!」

「うへ~、ワキーナ可愛い~しゅき~」

「~~~っ!は、早く原因突き止めないとあたしがチェニアを妹にしちゃうわよお?!」

「わ、分かってるって!お、おい、猪。お前、図鑑とか持ってねえか?」

「わ、我は持ってないが、チェニアが持ってたような······」

「よ、よし。おい、女狐、チェニアのやつ図鑑持ってないか調べてくれ」

「え、ええ。チェニア?ちょっとだけまさぐるわよ?」

「ふぇえ?えっちーっ」

「ちょ、じっとしなさいっ。あ、あった!」


 ワキーナが図鑑をモブドに投げ渡す。


「えーっと、キノコの欄は······」


 そしてモブドはスキスキダケのページを発見した。


「あ!あったぞ!これだ!」

「何?!見せろ!んん?スキスキダケだとぉ?」


 男二人、その解説を読んで納得。


「チェニアのやつ、間違って胞子吸いやがったな······」

「ど、どうするのだ?」

「ど、どうするったって······」

「ちょっと、野郎ども!あたしにも見せなさいよ!その間チェニアを見てなさいっ!」

「お、おう」

「う、うむ」


 ワキーナもその欄を読む。


「はあ?!こんな破廉恥なキノコがあったの?!なんで、そんなん生えるのよ!」

「いや、俺はそれよりなんでそんなもんチェニアが持ってたのかの方が······」

「モブド~、しゅき~」

「~っ!!」

「カラスぅぅ!!何ベタベタ触っとるんだああ!!」

「い、いや、俺は別にっ」

「そこ代われ!貴様になど任せてられん!」

「あ?エキスト~?うへへ~、ぎゅー」

「?!?!!う、うおおおおお!!」

「興奮してんじゃねえ!!このバカ猪!!」

「だ、だが、どうするのだ?」

「どうするったって、そらよぁ······」

「あーっ、もう!あんたら野郎はバカね!ちゃんと解説読んだ?効果は長くても一日なんだから時間が経つまで待てばいいのよ!」

「な、なるほど」

「う、うむ」

「えへへー。モブド、ワキーナ、エキスト、みーんな大好きー、しゅき~」

『············』


 三人は顔を見合わせた。


「問題は······」

「少なくとも朝まで耐えなきゃいけないのね······」

「り、理性がもつかどうか······」


「しゅき~!」




 こうしてモブド、ワキーナ、エキストの三人は喧嘩は中止し、役割を分担してキャンプの用意を慌ただしく済ませた。日はすっかり落ちていた。



「あちちっ!ちくしょう!スープなんざ俺の性に合わねえ!」

「黙って作りなさいっ!あたしは薄口好みだからね!加減しなさいよ!」

「ぐぬぬ、ノブタの丸焼きが食いたい」

「アホ言うな。いいから、そっちのキノコ早く切れ」

「むぅ」


 ワキーナがチェニアをあやし、男二人が料理をする。


「ワキーナー、今晩のごはんはなに~?」

「スープよ、チェニア~。沢山食べましょーねー」

「えへへー。ワキーナと一緒に食べる~」

「ぶふぉう!?い、いいわよ勿論!!」

「うおい!ワキーナ!なにたらしこんでやがるんだ!?」

「チェニアに馴れ馴れしいぞ貴様あ!」

「はあ?女の子同士なんだからいいじゃない。問題ないでしょうが」

「ぐっ、このアマぁ。ここぞとばかりに性別特権使いやがって~!」

「しかし、ワキーナではなぁ。正直女でも信用ならんというか······」

「はあっ?どういう意味よ!」

「んへへぇ、ワキーナ~」

「な、なあに?チェニア?」

「ワキーナいい匂いする~。吸わせてー」

「えっ?!あっ、ちょっ、チェニア?!」

「あったかーい。やわらかーい。いい匂い~」

「あっ!そ、そこはっ!ちょ、チェニアどこ触って!あ、あんっ!あふっ!あっあっ!んんっ?!」

『·········』

「!!?な、何見てんのよ!」

「っ!お、おうエキスト、湯加減どうだ?」

「お、おう、ちょうど良いぞモブド」


 モブドとエキストの二人は鼻血を拭きながらシラを切った。


 少しして。乾燥させた野菜類、干し肉、キノコなどを茹でて作った簡単なスープが出来上がった。


「よーし、出来たぞ。ほら、ワキーナ。チェニアとお前の分」

「あら、レディーファーストなんて珍しいわね」

「今晩だけ特別だ。今回だけだからな」

「ふふ、じゃあ、遠慮なく食べてあげるわね」

「んにゅにゅ~、おいしそーな香りー」

「はい、チェニア。召し上がれ」

「わーい~、ワキーナしゅき~······すすっ······あちゅっ!」

「あ、大丈夫?熱いから気をつけなさい」

「んにゃ~、熱いよー」

「もう、ふーふーしてあげるわ。ふー、ふー」

「んへへ~。ワキーナ優しー、しゅき~」

「ぐぐっ、作ったのは俺なのによぉっ」

「我も作ったぞ!」

「はいはい、ご苦労様。ほーらチェニア~、こわーいお兄ちゃん達が沢山作ってくれたわよ~」

「えへへ。モブド、エキスト、だーい好きっ」

「~っ!も、もう一品何か作るか?!」

「うむっ!よかろう!」

「なーに言ってんのよ。もう材料無いでしょ」

「くそーっ!食材持ってくりゃ良かったぜぇ!」

「ぐぬおう!一生の不覚!」



 そうして食事も終わり、三人は火を囲いながらチェニアの一挙一動に気を配り続けた。


「う······うう~」


 ワキーナが落ち着きなくモジモジする。


「ん?どうかしたのか?」

「~。ね、ねえ。モブド、エキスト。ちょっとの間チェニア見ててくんない?」

「あん?もちろん良いが、何でだ?」

「あ、あたしさ、ほら。少し用があって······」

「何の用だ?我も付き合うぞ」

「ああ、全員で済ませようぜ」

「はあ?!もう!少しお花摘みに行きたいの!」

「はあ?花だあ?」

「そんなもん要らんだろう」

「あーっ!もうっ!トイレよ!トイレ!これだから男ってのは!」

「んだよ、ションベンか」

「それとも大きい方か?」



 ──バチィンッ──



「チェニア~、ちょっとだけ待っててね。すぐ戻るから~」

「行っちゃやーっ」

「ああっ、もうっ。すぐ戻るわよ」



 チェニアの頬をなで繰り回してからワキーナは藪の中に入っていった。

 後にはチェニアと、頬に真っ赤なもみじ型のハンコをもらったモブドとエキストが残された。


「······いってえ」

「な、何故だ······」

「うにゅ~、うへぇ~。モブド~」


 チェニアがモブドににじり寄る。


「モブド~、モブドは私の事好き~?」

「ええっ!?い、いやっ、えっと!?」

「しゅきだよねー。なら~、ちゅーしよ~」

「?!??、!!??!!!!、!??」

「はーい、ちゅー」

「まっ、待て待て待て待てっ!待てっチェニア!」

「んー?」

「そ、それはよ、流石にというか、ほら、もっとちゃんとした時によっ、ていうか?!」

「ううっ、モブドは私の事嫌いなんだ······」

「ええ??!!ち、違っ!」

「うえ~んっ、エキストーっ」


 チェニアがエキストに抱きつく。


「エキストは私の事しゅきだよね?」

「ぬ、ぬなぬなぬぬな何をいきなりっ!?」

「嫌いなの?」

「!?そ、そんな訳ではないがっ!」

「じゃ、ちゅーしよー」

「!?!!??、?!!、?!うおおおっ!我はっ、我はー!こ、堪えるんだあー!」

「エキストも私の事嫌いなの······?」

「そ、そんな事あるわけなかろう!?」

「ひっく。二人とも私の事嫌いなんだっ······わ~んっ!ひどいよ~っ!」


 途端に泣き出すチェニアにモブドとエキストの二人はすっかり狼狽えてしまった。


「お、おい!なんだかまた変な風になってねえか?!」

「も、もしかしたら図鑑にあった情緒不安定とかいう奴では?!」


「こら~!あんたら~!!」


 チェニアの泣き声を聞きつけたワキーナが藪の中から走って戻ってきた。


「ちょっと、何チェニアの事泣かしてんのよ!?あんた達まさかいやらしい事しようとしたんじゃないでしょうね!?」

「し、してねえよっ!」

「むしろ逆だ!我慢したのだ!」

「はあっ?!我慢?!」

「わ~~んっ!ワキーナー!!」


 チェニアがワキーナに飛びつく。


「二人が意地悪するのっ!私の事嫌いだって!」

「まあっ、可哀想にチェニア。よしよ~し。あたしはそんな事ないから大丈夫よ~」

「ほんと?なら、ワキーナ~ちゅーしよー」

「は、はいぃっ?!」

「ちゅ~」

「あ、ちょちょっと駄目よチェニア!あ、あたし達女の子同士なのよ?!」

「うぅ、ワキーナも私の事嫌いなの······?」

「っ!!??も、もう性別なんてどぅーおでもいいわーっ!!チェニアーっ!」

「お、おいっ!しっかりしろ!ワキーナ!」

「しょ、正気を取り戻せっ!」



 こうして。


 潤んだ瞳や上目遣い、甘い吐息や猫声の波状攻撃に翻弄されつつも三人はなんとかしのぎ、やっとの事でチェニアを寝かしつけたのであった。


「すぅー、すぅー、すぅー······」

「や、やっと寝たか······」

「つ、疲れたわ······」

「ク、クエストより酷だ······」


 モブドら三人はどっと疲れを覚え、互いにもたれあった。


「おい······無事かよ」

「······なんとかね」

「峠は越えたな······」


 三人は示し合わせたように小さく笑った。


「なんだかよ。こんなに疲れたのずいぶん久しぶりな感じするぜ」

「ええ、ほんと。ルーキー時代思い出すわ」

「そうだな。あの頃はとにかくがむしゃらだった」

「へへ、猪突猛進だったんだろ?」

「ま、そんなとこだ」

「あんたみたいなゴツいのにも初々しい時代あったのね」

「当たり前だろう」



 三人は静かな会話を交わしながら、焚き火の小さな揺らめきを眺めた。その脇でチェニアが小さく丸まっている。


「······不思議だぜ」

「何が?」

「ん。いや、なんつうかよ······」

「『まるで前からこんな風にしてたような』か?」

「おっ?なんで分かったエキスト」

「我も同じように考えてたからだ」

「あら?あんたらも?」

「お前もか?」


『············』


 三人はまた小さく笑った。


「おい、見張りならやってやるぜ。寝とけ」

「あら、あんたらに任せてたらチェニアが心配だわ。あたしがやるわ」

「我がやってやる。リーダーだからな」

「······へっ、強がりやがって」

「そっちこそ」

「貴様もな」




 そして──



 夜が明けた。



「ん······んん~······」


 朝もやの漂う中、チェニアがゆっくりと目を覚ます。


「ん~······あれ?ここは······」


 チェニアがまだ寝ぼけた眼をパチパチと瞬く。


「あ、そうだ······私はスキスキダケの胞子吸っちゃって······」


 しかし記憶はそこまでであった。


「む、むむ······な~んも思いだせない」


「······よお、起きたか」

「え?」


 チェニアが振り向くと、いやに疲れた様子のモブド、ワキーナ、エキストの三人がぐったりともたれあいながら見ていた。


「あれ?三人ともどうしたの?」

「······チェニア、貴女何も覚えてないの?」

「へ?」

「まあ、それならそれで構わん······」

「???」


 三人の様子が理解出来ないチェニアは考えた挙げ句、サトリの目でそっと事情を伺った。



「······························!!!!??!?」



(へ?え?へ····················っ!!!???)


 チェニアは今にも燃え上がりそうな程顔を真っ赤にした。


「おい、俺は少し寝るぜ······」

「あたしも······」

「我も······」


 そんなチェニアの様子に気づく余裕もない三人はそのまま沈むように眠りに落ちた。


 三人の寝息を前に、チェニアはいつまでも上気して赤い顔のままうつむいていた。


お疲れ様です。次話に続きます。

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