㊲──もう一つのパーティー(中編)
「······はぁ~」
「おい、どうしたチェニア。ため息吐くなんざ珍しいじゃねえかよ」
「チェニア、疲れてるのならあたしが貴女の面倒を見てあげても良くてよ?」
「ふん。そう気負う事はない。我と一緒のパーティーでは緊張するかもしれんが、気にするな」
即席ドリームチームパーティーの四人は森の入り口にて作戦会議を始めようとしていたが、チェニアがため息ばかり吐いている。
(うう、この三人と一日中一緒なんてやだよ~。絶対揉め事起こすし、勧誘しつこいだろうし、やだよ~。トミー、アイ、コリン、助けて~)
そんな風に滅入るチェニアなのであった······。
今回の交流会の具体的な内容とは、即席のパーティーによってフリー討伐を行い、その成果を競い合うというものである。
フリー討伐とはそのままの意味で、クエスト関係なく個人が自由にモンスターを討伐する活動を差す。依頼が無くとも、何らかの理由で素材を求める冒険者も多いため、こういった俗称がつけられたのだ。
期間は今日の午後から、翌日の午後まで。たった一日の期間ではフリー討伐の成果などたかが知れ、運の要素も強いが、せっかく即席のパーティーを組むのだから目標を持たせておこうというギルドマスターの考えだ。
故に、本気で成果を出そうという者は少ない。どちらかというと、お祭りイベントとして楽しむのを目的とする者がほとんどである。
それに。
競い合うなら、勝負は初めから決まっていると誰もが思っていた。
一つだけ過剰に戦力を有したパーティーがある故に。
モブド。Aランクパーティー『ナイトレイヴン』リーダー。
ワキーナ。Aランクパーティー『グレイハウンド』リーダー。
エキスト。Aランクパーティー『ティタノボア』リーダー。
そして、チェニア。
Sランクパーティー『四葉』リーダー。
この四人はまさにウイードスギルドのトップ4と言えた。チェニアの四葉はSランクなので言うまでもないが、他の三人のパーティーもトップ3なのである。むしろ、四葉が台頭するまではこの三パーティーがウイードス最強のパーティーだったのだ。
故に、この即席パーティーはもはやお祭り気分の寄せ集め集団というよりは、ウイードスギルドが最強の四人を選んで構成するなら?といった具合の組み合わせなのであった。
しかし──
「さて、と。んじゃ、森ん中に入る前に決めなきゃなんねえ事。あるよなぁ?」
「あら、たまには意見が合うわねぇ」
「ふん。まあ、論ずるまでもないが」
モブド、ワキーナ、エキストの三人が口の端を吊り上げる。
『誰がリーダーか』
「·········」
チェニアはそっと知らないフリをした。
チェニアはともかくとして、他の三人は我が強く、己こそ最強と信じて疑わない自信と傲慢の塊のような人格をしていたのである。
そう、彼らにとってこのパーティーが最強であることなど当たり前なのだ。問題なのはそんな最強パーティーで誰がリーダーになるか、なのだ。
当然、彼らがそのリーダーの座を譲り合う訳がなく──
「まあ、てめえらの世話なんざ本来ならごめんだが、今日は特別だ。俺が指示してやるよ」
「あら、お気遣い結構。あんたらみたいな脳筋どもに任せたら一夜でパーティー全滅だもの。あたしがリーダーしてあげる」
「戯れ言ぬかすな。小物は小物らしく我の導きに従えばいいのだ」
『············』
三人は申し合わせたようにニヤリと不敵に笑った。
「ま、てめえらが大人しく従うなんざ思ってなかったけどなぁ?」
「うふふ、どうやらこの辺で白黒ハッキリしといた方が良さそうねぇ?」
「我の力と貴様らの力の差を教えておいてやろう。逃げるなら今の内だぞ?」
場にピリピリとした緊張の空気が走る。森の中から鳥たちが鳴きながら一斉に飛び立った。
そんな三人にチェニアはげんなりした。
(あーあー。やーっぱこうなる。だから嫌だったのにー······)
とは言え、ここで同士討ちなどされたらその方が面倒になると考えたチェニアは、とりあえず遠慮がちに手を上げた。
「あの~。お三方~。発言いいかな?」
「あん?」
「あら?」
「む?」
三人がチェニアの方に目を向ける。
「んだよ」
「こんな所で暴れられても困るからさ、直接対決以外で勝負とかどうかな?」
「あら、どんな方法かしら?」
「もうちょっとだけ平和な感じ」
「言っとくが、ジャンケンだとかくじ引きだとかは無しだぞ。貴様はそういう事をぬけぬけと抜かすからな」
「ちぇ。バレてるかぁ。ならー」
チェニアはその場で閃いて提案した。
「ならさ、とりあえず森の中入って一番多くの手柄を夕方までに上げた人がリーダーってどう?」
『············』
「へえ」
「面白そうじゃない」
「貴様にしては上出来だな」
三人は闘志剥き出しの笑みを交わしあった。
『それで──』
「やるか」
「やりましょう」
「よかろう」
──数分後──
「オラオラァ!!死ねやあああ!!」
氷結を纏ったランスが唸りを上げてモンスターを貫き、砕き、殲滅していく。
モブドは身の丈よりも長いランスを自由自在に振り回し、森中を蹂躙した。ランスは特殊な加工を施した特注品で、表面には細い凹凸が施され、貫くだけでなく肉を削ぐ。さらには殺傷力を高めるため、戦闘時には魔法で冷気を纏っている。
中には危険指定モンスターも含まれていたが、あっさりと屠っていった。
「あははははっ!さあ、踊りなさい!死のダンスを!無様に散りなさい!」
ワキーナの笑い声が響く度に、木々の間をつるバラのような刃が閃いた。蛇腹剣。強靭な一本のしなやかな針金で何枚もの刃を繋いだ特殊な得物だ。普段はただの剣のように相手を斬るが、少し手を加えると、たちまち鞭のごとく刀身が伸びて、遠くに居る相手すら切り刻む。
そして、確実に相手を仕留めるように、その針金には魔法で電撃を流しているため、かすっただけで敵は大ダメージを受ける事になる。
普通の冒険者なら敬遠する上位モンスターでさえも、あっけなく亡骸となっていった。
「ぬおおおおお!我が天地鳴動の一撃!食らうがよい!!」
エキストが巨大なハンマーを高く振り上げ、一気に振り下ろすと、森中を揺らすような衝撃が起こり、めくれあがる土砂が木々もろともモンスターらをあっという間に飲み込む。
常人にはとても持てない特大サイズのハンマーは、エキストの怪力に加え、重量はもちろん、特殊な構造により衝撃がさらに増えるようになっている。
そして、エキストの込めた土魔法の力は爆心地に土のつぶてを飛び散らせ、獲物を逃がさない。
手配書常連のモンスターでさえ、その重激には耐えられない。
「おらァ!もっと大物はいねえのか?!」
「雑魚じゃあたしは満たされないわ!」
「手ぬるい!手ぬるい!緩いわ!」
「·········」
三人が勝手にバタバタとモンスターを倒していったので、チェニアは何もする事がなくなり、代わりに三人が投げ捨てた荷物を持って後を追った。いやに軽い荷物であった。
「おいっ!チェニア!」
前で暴れまわっていたモブドが振り返って叫ぶ。
「どうよ、俺の実力はよ!これで俺がリーダーで文句ねえよな!?」
すると近くに居たワキーナが高笑いを上げた。
「カラスって目が悪いわね?!まだ夜じゃないのに鳥目なのかしら?あたしが一番多くのモンスターを倒してるわよ?!」
そこへ、エキストの野太い声が響いた。
「バカをぬかすな!貴様ら小粒の手柄なぞ我の実力の前じゃ塵同然だ!」
「うるせえぞタコども!」
「この自惚れバカ男ども!」
「雑魚が喚くな!」
三人の間に火花が散る。
チェニアはのんびりとした声をかけた。
「まーまー。みんなのおかげで、もうこんなに素材集まったんだし、十分なんじゃない?」
「んなもんどうでもいいんだよ!」
「誰が一番強いかが重要なのよ!」
「リーダーを決めるための狩りだ!」
(こんなに実績出したなら十分なのに~。というか、やっぱりこの人達は性格こそアレなものの、実力だけならSランククラスだよなぁ)
各個人の純粋な戦闘力だけならSランクリーダーのチェニアと大差ない程であったが、いかんせん連携をとる素振りは微塵も見せなかった。
にも関わらず、すでにとてつもない討伐を果たしているのは凄まじいと言えた。
「ちっ!認めろよ雑魚どもが!俺が一番殺してるだろうが!」
「あ~ら、小物ばかり狙ってるんじゃなくて?」
「ふん、我の屠った数を見ろ!それとも恐れ多くて見れんか?」
『ーーっ!!』
三人がくるりとチェニアに顔を向ける。
「おい、チェニア!」
「貴女はどう思う?!」
「我こそ最強だろう!?」
「え?」
三人の喧嘩に飽きたチェニアは一人でおやつのリンゴを頬張っていた。
「おいっ!何一人で食ってんだよ!」
「あげないよ?」
「いるかっ!」
「えっちー」
「なんでだよ!」
「チェニアっ、あなた真面目に考えてる?!」
「うん。やっぱりみんなで食べるならシチューが良いかなぁって」
「夕飯のレシピじゃなくてリーダーの事よ!」
「そっち~?」
「大事な所を見てなかったのか!」
「見てたよ。エキストの腰の干し肉美味しそうだなあって」
「そこではない!あと、やらんぞ!」
「ケチー」
そんな風に一行が騒いでいた時だった。
『グゴオオオオ』
『!!!!』
森の奥から野獣の咆哮が轟いた。
少し離れた場所に蠢く巨体。ケンタウロイであった。
モブド、ワキーナ、エキストの三人の目が光る。
「良いとこにくるじゃねえかよ大物がよぉ」
「ふふっ、少しは楽しめそうねぇ」
「我の相手に不足はないな」
三人が殺気を纏い、身構えるのを
「あ、待って三人とも。ケンタウロイはかなりの強敵だし、ここはフォーメーションを──」
とチェニアが制止したのも虚しく、すでに三人は駆け出していた。
「こいつは俺の獲物だあ!」
モブドがランスを構えると
──ドンッ──
「いてっ!」
「痛ったあ?!」
ワキーナとぶつかった。
「おい!邪魔だぞ女狐!」
「それはこっちのセリフ──」
──ドゴン──
「ぐぉっ?!」
「きゃあ!?」
「ぬごぉ?!」
二人が避けようとした進路にエキストが割って入ったため三人はぶつかり合い、絡まるようにして転んだ。
「いってー······おい!足引っ張んなよ!」
「それはあたしのセリフよ!というか離れなさいよっこの変態ども!」
「ええい!喚くな!どけアホども!」
『グゴゴゴゴ······』
『あっ······』
地面に倒れてる三人をケンタウロイが見逃すはずもなく、巨体がブルルと震えると、土を弾いて駆け出した。
這いつくばる三人を踏み潰すため。
「のわああああ!?」
「きゃああああ?!」
「うおおおおお?!」
猛然と突進する巨体が今にも三人を撥ね飛ばすかのように見えたその瞬間。
「我が光の力と天の守護よ。彼と我を結び、聖なる力を持って守りたまえ。『ホーリー・クレイドル』」
明瞭とした美しい詠唱が辺りに響き渡り、それと同時に倒れていた三人を光のドームが覆った。
『ゴオオオオ』
ケンタウロイの剛脚がドームにぶち当たると、それは衝撃波を出して恐ろしい追撃を弾き返した。
『グゴオッ』
その威力に巨体が揺らぎ、突進は止まるどころかやや後退した。
驚くモブド、ワキーナ、エキストら三人にチェニアの
「今だよ、三人ともっ。立って」
という声がかかった。
その声を受けて、三人も即座に反応し、体勢を立て直した。
「モブド、左に回ってレンジ外から牽制して」
チェニアが指示を飛ばすとモブドは
「指図すんな!チっ、やってやるよ!」
文句を言いながらチェニアの言う通り動いた。
「ワキーナ、モブドの斜め後ろへ、エキスト、反対側で大技の用意」
次なる手を伝えるチェニアに、ワキーナもエキストも
「もうっ、生意気!後で覚えておきなさい!」
「ぬうっ!貸し一つだぞ!」
と言いながらその指示に従った。
「おらぁ!」
モブドのランスの切っ先がケンタウロイの体を薄く削る。氷を纏った先端にケンタウロイが怯む。
ケンタウロイが足に力を込めるのをチェニアは見逃さなかった。
「ワキーナっ、足下っ。絡める?」
「あたしを誰だと思ってるの?!」
跳躍により後退しようとしたケンタウロイの四肢にワキーナの蛇腹剣が蔓の如く絡み付く。
ケンタウロイが一気にバランスを崩し、そのまま地面に手をつく。
「エキストっ、いけるよっ」
「言われるまでもない!」
エキストが渾身の力を込めて、ハンマーの巨大な一撃を叩き込む。
『グゴオオオオッ』
流石のケンタウロイもその一撃に相当なダメージを受けてよろめいた。
「光よ、時の呪縛となりて嘶け!『チェインクロス』」
チェニアの声と共に光子の鎖が巻き上がり、ケンタウロイの体を縛り上げた。
すでに弱っているケンタウロイはその束縛を振りほどく事が出来ずに、完全に棒立ちとなった。
「今だよっ」
『っ!!!』
チェニアの合図と共に三人が走りだす。
「オラア!!」
モブドのランスがケンタウロイの心臓を貫く。
「せいやあ!!」
ワキーナの無尽の刃が首の頸動脈を切断する。
「ぬおおお!!」
エキストの振り下ろした一撃がケンタウロイの頭部を割る。
ケンタウロイは一瞬で絶命したのであった。
(いやー、どう考えてもオーバーキル。止めを譲る気は無いんだなー)
チェニアが杖を下ろす。他の三人も武器を下ろして、今しがた仕留めた巨体に目を落とした。
「四人で勝っちまったな······」
「こんなにあっさり······」
「我の攻撃が当たるとは······」
三人はそれぞれ手応えを噛みしめるように自身の手のひらを見つめていたが、ハッとしてチェニアに振り向いた。
「おい、チェニアっ。てめえ指図しやがったな?」
「指図じゃないよ。指示」
「おんなじだっ」
「ふん。ま、的確だったから許してあげるけど以降は気をつけなさい」
「えー」
「まあ結果は良かった。今回は大目にみる」
「ぶーぶー。私だって協力したのにー」
『·········』
モブド、ワキーナ、エキストの三人はマジマジとチェニアを見た。
チェニアが首を傾げる。
「どーしたの?」
「お前、光魔法使えたんだな」
「うん。言ってなかったけ?」
「知らないわよ。あんたの得意属性は炎でしょ?」
「うん。得意なのは炎。でもとっておきは光だよ」
「なぜ使えるのだ?普通の魔法使いには使えんはずだが」
「あれ?私、元々は聖女候補として修行してたって話した事なかったけ?」
『えっ!?聖女?!』
「うん」
チェニアはコクリと頷いた。
「だから教会のとっておきの光魔法のいくつかは教えてもらったんだ。門外不出のもあったからそれは教えて貰えなかったけど、聖女として必要な技は最低限教えてもらったー」
『·········』
三人は神妙な顔をしていたが、やがて同じように苦笑した。
「はっ。そんくらい規格外な方が誘い甲斐があるってもんよ」
「ふう。ますます私の所に来て貰わなくちゃね」
「チェニアよ。その力はやはり我と共にあるべきだ」
こうして貴重な素材を採集した一行はこの日のキャンプ場を探す事にした。
「え~!みんな支給品の食材置いてきちゃったのー?」
「あんな邪魔な荷物なんか持てるかよ」
「荷物持ちなんて美人のやる事じゃないもの」
「我は戦う将だ。荷など運ばん」
「もーっ。そんなんだからSランクになれないんだーっ」
『やかましいわっ!』
まだまだ波乱はありそうなものの、パーティーの雰囲気は随分和やかになっていたのであった。
お疲れ様です。次話に続きます。




