㊱──もう一つのパーティー(前編)
前、中、後編で構成されています。
番外編的な話となります。
この日、ウイードスギルドは異様な雰囲気に包まれていた。
「ではみなさん。お手元の紙を開いて下さい」
受付嬢がそう言うと、集まった冒険者らは、配られていた折り紙を開いた。冒険者は全員、各パーティーのリーダーであった。
「今から数字を読みあげますので、自分の紙に読み上げた数字が書かれていた場合は名乗り出てください。それでは──」
受付嬢が数字を読み上げていくのを、チェニアはぼんやりと聞いていた。
(交流会かぁ)
遡ること一日前。
「?どういう意味?」
頭にハテナを浮かべたチェニアに、しわくちゃ老人のギルドマスターはニコニコと笑って言った。
「そのまんまの意味じゃよーチェニアちゃん。明日、ギルドでパーティーリーダー同士の交流会を開こうと思ってるでなぁ。参加しとくれ。つうか参加は義務じゃ」
「えー。めんどくさそー」
「だーめーじゃ。これは大事な事なんじゃからな」
ギルドマスターは真剣な表情をしてみせた。
「もう一度説明するぞい。明日、ギルドに各パーティーのリーダーを集めてくじ引きをしてもらう。そしてそれを元にリーダー同士で仮のパーティーを組むんじゃ。そうする事で普段とは違う趣向のパーティーが出来上がる訳じゃ。これはな、リーダー達が初心に帰ると共に、普段は上に立つべき人間がただのメンバーになるとどうなるかというのを試すためのもので──」
「·········」
チェニアのサトリの目が髪の奥で光る。
(つうのは建前で!リーダー同士組んだらなんか面白そうじゃろ!?普段偉そうにしとる奴同士バチバチになるパーティーとか見たいのう!いやー、良い土産話がたくさんあるといいのう!)
(······もう。このお爺ちゃんは本当にイタズラ小僧なんだから)
「分かったよ。でも、あんまり嫌なパーティーになった場合は途中で抜けさせてもらうからね」
「いいぞー。ただし、嫌だった理由とかはちゃんと報告してな」
「ふーん。土産話しろってこと?」
「ギクッ!ち、違うわい。事務報告じゃよ」
ギルドマスターの部屋から出たチェニアはそっとため息を吐いた。
「やれやれー」
『お、出てきやがった』
「ん?」
部屋を出たところで聞き覚えのある声がし、チェニアが振り向いてみると
「げえ」
そこにはモブド、ワキーナ、エキストのAランクパーティー三人衆が待ち構えていた。
「よお、チェニア。遅かったじゃねえか」
モブドがニヤリと不敵に笑う。
「てめえの事だ。今回のふざけたイベントに対してブーブー文句言ってたんだろ」
「ううん。ビービー泣き言言ってた」
「はんっ、素直じゃねえか」
「うん。モブドと組まされたらお嫁に行けなくなっちゃうって泣きついたんだ」
「なんの話だ!」
「ホホッ。いやーねぇ。カラスはうるさくて」
ムキになるモブドの横でワキーナが嫌みったらしく笑う。
「ま、実際あんたみたいなチャラチャラと組まされたら貞操が心配だもの。チェニアの言う通りね」
「ああん?!んだとコラッ」
モブドを無視してワキーナがチェニアににじりよる。
「チェニア、交流会なんて無くとも貴女は今すぐ組みたい別パーティーリーダーがいるんじゃないの?」
「いないよ」
「いるんじゃない?ほら、すごく美しくて、誇り高くて、強い素敵な女性リーダーとか」
「えっ。そ、そんな。そんなに褒められると私照れちゃうよ」
「あんたじゃないわよ!あたしよ!あたしっ」
「え······」
「なによ、その反応!?」
「ふん。どけ女狐」
ズイっと巨体をそびえさせたエキストがチェニアを見下ろす。
「チェニア。交流会には出るのか?」
「うん。仕方なくね」
「出なくていい方法があるぞ」
「どんな?」
「我のパーティーに入るのだ。そうすればリーダーではなくなるからイベント欠席出来るぞ」
「うーん。止めとくよ」
「何故だ」
「怒らない?」
「多分怒る」
「エキストが汗臭いから」
「怒ると言っただろうが!」
モブド、ワキーナ、エキストの三人が歯を剥き出してチェニアを睨む。
「くそっ!このガキんちょが!毎度毎度コケにしやがって!」
「チェニア、あたしの顔も三度までよ?怒らせると恐いわよ?」
「我を侮辱するとどうなるか一度教えてやろうか?」
(わっ。いつになく熱い三人。こうなったら──)
チェニアはその場にしゃがみこみ、両手を目元に当てた。
「え~ん、え~ん。Aランクリーダー達がよってたかっていじめるよ~」
『はあ?!』
騒ぎを聞き付けたギルドマスターが部屋から出てくる。
「むっ!なにしとるんじゃお主ら!チェニアちゃんをいじめとるんか?!」
「ち、ちげえよ!」
「あたしがそんな事する訳ないでしょう?!」
「我は怒っているだけだ!」
「だまらっしゃい!チェニアちゃんを苛めるような輩は説教じゃ!こっちに来なさい!」
「ぐっ!」
「もうっ!」
「おのれぇ!」
マスターの部屋に連行される三人に向かって、チェニアは泣き真似を止めてからペロっと舌を出した。
『むっかつく!!』
そんな小さな騒ぎを経てからチェニアも自分達の家に戻り、交流イベントの事について話した。
「という訳で明日から居なくなるから」
『えっ?』
「言い方悪かった。明日からちょっとの間留守にするね。すぐ帰ってくるからみんな好きに過ごしててね」
チェニアがそう言うとトミー、アイ、コリンの三人はそわそわした様子で頷いた。
(交流会ねえ。どんな人と組む事になるかは分からないけど、良い経験かも。普段は皆の力に頼りっぱなしだから改めて自分自身の力量を測れるかも)
そして、今日。当日。
ギルドでは組分けが行われていた。一つのパーティー四人構成として分けられる。
「次の方ー。23ですねー」
「げえっ!てめえとかよ!」
「俺だって願い下げだ!」
「えーっ!?あたしマッシュ君と一緒のパーティーがよかった~!」
「おいっ、俺ん所平均年齢が五十越えてんぞ!おかしくね?!」
「ワシはピチピチ女子と組みたいの~」
組み合わせの数字が読み上げられる度に会場は阿鼻叫喚にさらされていた。
(私の番はまだかな)
「よおー、チェニア」
(わ、またこの声だ······)
チェニアが振り向くと、もはやお馴染みの三人が立っていた。
「お前の番はまだか?俺もまだだぜ?くく、一緒になるかもなあ?」
「······ストーカー?」
「ちげえよ!お前が俺の部下になるって言ってんだよ!」
「チェニア、あたしもまだなのよ?ふふ、あたし達の運命はどうなるかしらね?」
「占いちょっと出来るよ。やる?」
「いらないわっ」
「チェニア──」
「怒らない?」
「何も言っとらんだろう!」
「やっぱ怒ったー」
三人が苦々しくチェニアを睨む。
「けっ。まあいいさ。こんな所で組まなくたってお前はいずれ俺ん所に来るんだからな」
「チェニア。覚えておきなさい。貴女がどう考えようと、貴女の居るべき所はあたしのパーティーよ」
「ふん······貴様の方から頭を下げに来るだろう」
「えー、では次のパーティーです」
そうこうしている内に次の組み合わせが発表される時間になった。
チェニア達が受付嬢の方に注目する。
「次のパーティー最初の一人は──40番です」
その数字に
「あん?」
とモブドが反応した。
「ああ、俺だ」
モブドが手を上げる。
「俺だわ。40」
すると周りの冒険者らがざわついた。
「おい、モブドの居るパーティーだってよ」
「なんだかんだ言ってあいつクソ強えからな。正直一回組んでみてえな」
「わ、私、モブド君の事ちょっと好み······」
モブドは自信に満ちた笑いをニヤリと浮かべた。普段はチェニアとのやり取りのせいで小物臭さを出しているが、彼もウイードスギルドではトップパーティーのリーダーなのだ。
受付嬢が手元のメモに目を落とす。
「それでは次ですね。えっとー。二人目は8番の方ー」
「あら?」
その番号を聞いてワキーナがピクリと眉を動かした。
「あたしだわ······」
「はあっ?!」
モブドが驚きの声を上げ、周囲にも動揺が走った。
「お、おいおいマジかよ!」
「モブドとワキーナのパーティー?」
「またトップパーティーのリーダーじゃねえか!」
「クソっ!羨ましい!俺もワキーナちゃんの脇をペロpr」
「お、お前とかよ!?」
「あ、あんたみたいなカラスと?!」
モブドとワキーナが睨み合う。
「お断りだな!おめーみてぇな我が儘女と一緒じゃあ、俺の身がもたねえぜ!」
「あたしだってあんたみたいなチャラ男願い下げよ!オチオチ寝れないもの!」
「んだと、コラ!」
横で見ていたチェニアがニタ~っと笑う。
「プププ。お二人さん、仲の良くてよろしい事ですな~」
『むかつく!』
「え、えっと、で、では次の方の番号読みますね」
困った笑顔を浮かべて受付嬢がまた読み上げる。
「次の方は、26番の方ー」
「ぬっ?!」
その番号にエキストが巨体を揺らした。
「わ、我の数字だ」
「はあっ??!」
「なんですって?!」
会場が再びどよめく。
「おいおい、嘘だろ?!またトップパーティーのリーダーだぞ!」
「ナイトレイヴン、グレイハウンド、ティタノボア。ウイードスの誇る三大Aランクパーティーのリーダーが揃い踏みかよ!」
「うわー、すげぇー。正直最強じゃん」
「ああ、理論値で言えば最高の組み合わせだな」
「でも、あの三人仲良くないよね······」
「オイ!この猪野郎!なんでてめえまで俺んとこに寄ってきやがるんだ!」
「それは我のセリフだ!カラスごときが我のパーティーに入るな!」
「あ~っ、もう、最悪!なんでこんなチャラ男とむさ男の二人と一緒なの?!」
そんな剣幕の三人の横で、チェニアの満面の笑みがニヤ~と浮かんでいた。
「おい。チェニア!」
「なんなの、その顔!?」
「我らを馬鹿にしとるな!?」
「うーうん~。ただ~、仲良いな~って。よ、お似合いの三人~」
『やかましいっ!』
当の本人達三人は罵りあいながら、互いを睨んだ。
「クソが!俺は下りるからな!てめえら二人でやってろ!」
「あたしだって下りるわよ!あんたらと居たら美しさが台無しだもの!」
「我は下りる!小物同士で徒党を組んでろ!」
ツンっと背中を向け合い、三方向に向く三人。
(あーらら。まーた喧嘩してる······)
周りが微妙に気まずい空気になりながらも、受付嬢が愛想笑いを保ったまま続ける。
「え、えっと。では、最後の方ですね」
最後の一人の番号が読み上げられる番になり、チェニアはチラリとモブドら三人を見やった。
(誰になるかは知らないけど、この様子じゃあ三人とも本当に棄権しそうだなあ。そしたら一人きりのパーティーだ。かわいそうに)
「えー、最後の方の番号は······4番です」
「············え?」
チェニアは自分の手の中にある紙に目を落として言葉を失った。番号はまさしく4であった。
「·········」
「4番の方ー。あら?おかしいですね。4の数字の紙をお持ちの方ーっ」
チェニアはそっとモブドらの方を伺った。
(······無理。絶対めんどくさい事になるもん。もんもん)
「4番誰なんだろうね、チェニアちゃん」
と、そこでチェニアとわりかし仲の良い少女がそっと耳打ちした。
「あの三人と一緒なんて、ある意味罰ゲームだよ。実力はともかく、絶対面倒だも······ん?」
そこまで言い、少女はチェニアの手にある紙の数字に気づいた。
「あっ、あああー!!」
「!?」
「チェ、チェニアちゃんが4番っ──」
「あ、ちょっ、コレット!」
「あっ!」
慌てて口を押さえる少女コレットであったが、時既に遅しであった。
受付嬢が驚愕の表情を浮かべる。
「えええ?!最後の一人はチェニアさんなんですか?」
そして、会場の冒険者らも一気に動揺の声を上げた。
「オイオイオイオイ!嘘だろ!最後の一人はチェニアかよ!」
「そんな事ってある?!」
「もうあの三人の時点で最強パーティーなのにそこへSランク冒険者かよ!」
「即席パーティーどころか、これじゃあただのドリームチームだ!」
「すごいわね。この四人だけでウイードスギルドの戦力の半分を担うんじゃない?」
驚きと期待の渦がうねり、外野は口々に好き勝手な感想をあげていた。
「·········」
チェニアはモブド達の方を見ないようにしながら、そっと手を上げて受付嬢に申し出た。
「あの~······」
「はい、何ですかチェニアさん?」
「さっきの三人は棄権するっぽいんで、とりあえず私はソロパーティーという事でいいですか──」
ポン。
と、誰かがチェニアの肩に手を置いた。
「おい、俺は気が変わったぜ。仕方ねえからこのまま参加してやるよ」
スッ。
と、誰かがチェニアの手を取った。
「あら、女は気まぐれなのよ?チェニア、あたしやっぱりこのパーティーに参加してあげる」
ガシッ。
と、誰かがチェニアの頭に手を乗せた。
「ふん。よく考えれば男が背を見せるのは言語道断だ。やはり参加してやろう」
『チェニア。よろしく』
「············」
(さ、最悪だぁ······)
ガックリと項垂れるしかないチェニアなのであった。
そして、全ての組分けが終わり、ギルドで一通りの説明と支給品の譲渡が行われた後。
チェニア達は森の前に来ていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




