㉟──チェニア倒れる
本日は4本投稿の予定です。
単話1本、スペシャル1本(三話編成)
『ギャオオオッッ』
「フリーズショット!クラスター!」
──ズドドドドドドッ──
『ギイイイイッ』
「!!まだっ······」
「チェニア下がって!」
──ズバッ、ザシュッ──
『ギャギイイイイッ』
「止めだ!!」
──バシュッ、ドッッッ──
コリンの放ったその一矢が唸りを上げてキマラの首に刺さり、そこで決着はついた。キマラは唸り声を一つ上げて倒れた。
「コリン、ナイス!」
「やったね、コリン!」
「い、いやあ、まぐれだよ」
連携を讃えあいながら、トミー、アイ、コリンの三人がチェニアの方へ向く。
「チェニア、大丈夫か?」
「え?ああ、うん」
「お疲れ様。チェニア大丈夫?」
「え?何が?」
「いや、何て言うか······」
トミーら三人は互いに顔を見合わた後、もう一度チェニアの方を向いて言った。
「何て言うか、今日のチェニアちょっと変だったと言うか······あ、いや。俺がそんな生意気な事言うのもどうかと思うんだが······」
「あたしも他人の事言える立場じゃないんだけどさ、チェニアの動きが、その、何て言うか······」
「えっと。気のせいかもしれないんだけど、魔法の力が何時もより弱かったり、正確性に欠けてたような気がして······」
「······そうだね」
チェニアが頷く。
「確かに、私ダメダメだったね。ごめん、みんな」
「いやっ、違うんだ!別にチェニアを責めてる訳じゃないんだ!」
「そうそう!ただ、どうしたんだろうって······」
「心配だったからさ······」
三人が気遣わしげにチェニアの事を見ていたが、本人は何も言えなかった。
(うーん。どうしてだろ?確かに、今日は私がパッとしなかったなあ)
この日の四葉は何時ものごとく高難易度クエストに挑んでいた。討伐対象はキマラ。上級モンスターではあるものの、攻略自体は比較的簡単で、四葉は今までに何度も倒してきた。
しかし、この日は何故か苦戦し、普段よりも倍近く討伐に時間がかかった。
その理由はハッキリしていた。チェニアの不調だ。
四葉のメンバーの一人一人を解き明かすと、単体でSランクの実力を持つのはチェニアだけである。
だが、四葉の強さはメンバーの単体性能ではなく、その連携にあり、その連携を支えるのはチェニアの魔法と指示なのだ。
この日のチェニアの魔法と指示はどちらもイマイチで、何時もの四葉らしくなかった。
「ごめんね、みんな。今日は私が足引っ張ってた」
と、謝るチェニアに三人は慌てて首を横に振った。
「何言ってんだよ、そんな事全然ないぞ」
「そうよっ、チェニアは何も悪くない」
「たまたま相手が強かっただけさ」
「うん。みんなありがとう。でも、明らかに今日の私は不調だった」
目を閉じてふうっ、とため息を吐くチェニア。
「リーダーなんだからしっかりしないと」
『············』
「さ、クエストは終わった事だし、証拠の素材を回収して引き上げようか」
「ああ」
「ええ」
「うん」
若干の不安を残しながらも、四人は回収を手早く済ませ、早々に撤収した。町までは丸一日かかる予定だ。
(うーん······)
歩きながら、チェニアはボンヤリとする頭を働かせていた。
(なんか集中できないというか、体に力が入らないというか、今日は調子悪いなあ。魔法当てても相手がピンピンしてるから私も焦って無駄撃ちして余計に魔力を消耗しちゃったし。らしくないなあ)
前を行く三人の背中をボーッと見るチェニア。
(みんな何時もは、やれ追放だー、クビにされるー、自分は無能だー、とか言ってるくせに······三人だけでも良い連携出来てたじゃん。おまけに私の事慰めてくれるし······ふふふ、生意気だぞー)
そんな風に心の中でほくそ笑んでる時であった。
──ガッ──
「あっ」
途端に足がもつれ、木の根につまづいてしまい、そのまま転ぶ。
前を歩いていた三人が気づいてすぐに駆け寄る。
「チェニアっ?」
「大丈夫?」
「平気かい?」
「ご、ごめん。ちょっと躓いただけだよ」
そう言って弱々しく笑うチェニアの顔を見てアイが何か気づいてハッとした。
「ねえ、チェニア顔色悪くない?大丈夫?」
「え?そう?」
「うん、ちょっといい?」
アイがチェニアのでこに手を当てて、あっと声を上げた。
「あっ、熱い!チェニア熱あるじゃん!」
「へ?」
アイがびっくりする横で、トミーとコリンも驚いてチェニアのでこに手を着けた。
「あ!本当だ!」
「かなりの熱だよ、これ!」
チェニアが高熱を出していると知った三人は慌てた。
「ど、どうしよう。そうだ、とにかくチェニア、俺がおんぶするよっ、さ!」
と言ってトミーが背中を向けてしゃがむのをチェニアが赤い顔をして手を振る。
「い、いいよ。恥ずかしい」
「そんな事言ってないで。あたしが荷物持つから。はい、チェニア下ろしてっ」
「ぼ、僕はトミーの荷物を持つよ!」
「ほら、チェニア早くっ」
「う、うん」
ボーッとした表情でチェニアが頷く。足元を少しふらつかせながらトミーに垂れかかるようにおぶさる。
「よっと。よし!急ごう、みんな」
「ええ、お願いねトミー」
「了解っ」
一行はあたふたと先を急いだ。
しかし、どう考えても今日中に町に着くのは不可能であった。
「どうする?町には間に合わないぞ」
「医者に診てもらいたいけど、夜中に無理して行く訳にも行かないし······」
「そうだね。今は一刻でも早くチェニアを休ませてあげたいけど······」
三人が次の行動に迷っている間にも、チェニアの容態は悪化していった。
「はあっ、はあっ、はあっ······」
「チェニア、しっかりっ」
ぐったりとして力の抜けたチェニアをトミーが背負い直す。
トラブルや不足の事態にはいつもチェニアが指示を出していた。
その当人が病に倒れてしまったので、他の三人はさらに焦燥に駈られていた。
「どうすれば······あ、ポーションあるか?」
「あるけど駄目だよ。ポーションは怪我を直したり、一時的に筋力を高める効果の増強剤とか傷薬だから。病気には効果ないよ。むしろ弱ってる時に使うと体に負担が大きいんじゃないかな」
「そうか······」
「ね、ねえ、とりあえずさ」
そこでアイが提案した。
「たしか、この近くに山小屋あったじゃない?そこに連れてくのは?」
「うん、それがいいね。トミー、行けそう?」
「ああ、大丈夫だ。急ごう」
以前のクエストで利用した事のある山小屋が近くにある事を思い出した一向は、急いで向かった。
ややして、目的地に着いたが──
「なっ、これは······」
小屋は無人であった。食糧を初めとし、あらゆる生活用品が無くなっており、もぬけの殻であった。
「無人だ」
「もしかして辞めちゃったのかな」
「明らかに放置されてるね······」
一縷の望みを託していた小屋の予想外な有り様に三人は途方に暮れていたが
「はあ、はあ、はあっはあっはあっ······」
「と、とにかく、チェニアを休ませよう!」
苦しげに喘ぐチェニアで我に返り、急いで床の準備と宿営にとりかかった。
幸いにも綺麗な布団の一式が残されており、その上にチェニアを寝かせた。
「はあっはあっ······」
苦しげに呼吸するチェニアの額にアイが手を置いて顔をしかめる。
「すごい熱い。チェニア、しっかり」
「よ、よし。俺、川から水汲んでくるよ」
「じゃあ、僕は······そうだ、手持ちの薬草がいくらかあったから医湯(この世界で言うところの漢方。自然免疫力を高める)を作るよ」
「うん、お願いね。あたしはチェニアの看病してるね。あ、あとチェニアの服を着替えさせたいから······」
「あ、ああ。俺はちょうど外行くし」
「ぼ、僕も火は外で起こすから」
「ごめんね。それじゃあ、入る時はノックお願い」
こうして、三人はそれぞれの役割を分担してチェニアの看病が始まる事となった。
「はあ、はあっはぁ、はぁ、うぅ······」
「大丈夫。大丈夫よ、チェニア」
アイはゆっくり丁寧にチェニアの服を脱がしていき、濡らした手拭いで軽く体を拭いてやり、その後は肌触りの良い寝巻きに着替えさせた。
「はあっはあっはぁっ」
「大丈夫よ、チェニア。あたしが······トミーやコリンもついてるから」
不安な気持ちを振り払うように、アイはチェニアの手を握って言った。
ややしてノックの音がしてトミーが入ってきた。
「アイ、冷たい水汲んできた。使ってくれ」
「うん、ありがと」
「外でコリンが調合を終えたみたいだから、残りの水を渡してくるよ」
「うん」
そう言ってトミーが一旦外へ消える。
アイはコップで水を掬ってチェニアの口元に持っていった。
「はいチェニア。頑張って飲んで······」
「はぁはぁ、う、うう」
すぐにコリンとトミーがやってくる。手には湯気の立つ鍋を抱えていた。
「出来たよ。アイ、これをチェニアに」
「うん。チェニア、お薬よ」
「うぅ、ケホッケホッ······」
「偉いわ、チェニア。さあ、後はゆっくりやすんでてね」
水分補給と医湯の投薬を終え、後は自然に回復するのを待つだけとなった。
「じゃあ、看病はあたしがしとくね」
「すまんなアイ」
「ううん、気にしないで」
「トミー、僕らは夕飯の支度しよう。アイ、負担かけてごめんね。他の事はやっとくから」
「ありがとう。こっちは任せて」
アイがチェニアを看病し、トミーとコリンは他の仕事をする事となった。
看病は日が落ちて、真っ暗な夜になっても続いた。トミーとコリンの二人が交代に夜の見張りと水汲みに出て、アイは水で冷やしたタオルを何度も絞り直してチェニアの額に置いて、熱を冷ましていった。
「はぁ······はぁ······う、うぅ······」
そうして、一晩が過ぎた。
「·········う、ううん······」
うっすらと瞼を開けたチェニアの目に、見知らぬ天井が映った。
「············あれ?ここは······?」
(そうだ、私は確か熱出して、フラフラになってトミーがおぶってくれて······)
そこからの記憶は曖昧であったが、熱にうなされている間に三人があっちこっち走り回っていたのは何となく覚えていた。
まだボンヤリとする頭を働かせ、チェニアは思考と記憶を繋げていった。
(そっか。みんなが看病してくれたんだ······)
チェニアは自分の額に手をやった。
(熱は······下がった。まだ少し体は重いけど、だいぶ良くなった······)
昨日の高熱が嘘のように引いており、倦怠感もずっと軽くなっていた。
(そうだ、みんなは·········)
チェニアが周囲を見ると、すぐ横で座ったまま小さく寝息を立てているアイの姿があった。手にはタオルが握られたままであった。
アイだけではなく
「グウ、グウ······」
「クー、クー······」
トミーとコリンの二人が入り口でもたれ合うようにして武器を抱いたまま眠っていた。
その傍らに桶やら薬草やら薪やらが散乱しているのを見て、チェニアはクスッと小さく笑った。
(みんな疲れてたろうに。私のために······)
チェニアはまたゆっくりと寝ると、首を窓に向けた。外はすっかり朝日の光で真っ白であった。
「·········ありがとう」
そんな夢見心地の呟きと共に、チェニアはもう一度静かな眠りについた。
──3日後──
「うう~ん······」
「ケホッ、ケホッ······」
「う、うう~······」
「風邪ですね」
診療所にてトミー、アイ、コリンらを診察した町医者がそう言う。
「疲れが溜まっていたんでしょう。無理しすぎたんですね。薬を出すので家でゆっくり療養させて下さい」
「はい」
チェニアは三人を連れて帰り、それぞれに水や薬を運んでいった。
「はい、トミー。ゆっくり飲んでー」
「うぅ、す、すまん······」
「アイ、あーん」
「ケホッ、あ、ありがとう······」
「コリン、タオル替えるねー」
「うぅ、ご、ごめん······」
うなされる三人を心配しつつも、チェニアは何とも言えない微笑ましいような、困ったような感情を覚えずにはいられなかった。
「三人ってば、本当に息ぴったりだね······」
お疲れ様です。次話に続きます。




