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㉞──不審なチェニア

 


「こんなのでどうかな?」

「お、良いじゃんか。アイ、そっちは?」

「うん。買ってきたよ。こういうのが流行りだって聞いたから買ったんだけど······」

「お?ははは。なんかシュールだな、それ」

「や、やっぱりそうよね」

「でも、不思議と愛嬌あるね」

「そうだな。うん。これでプレゼントも揃ったな」



 トミー、アイ、コリンの三人は町の一角にある酒場のテーブルにて互いに頷きあった。そこはいつも四人で行く馴染みの店ではなく、その場にいるのは三人のみ。チェニアの姿はない。


 テーブルの上には、アロマセットにコーヒーの入った袋。そして、やたらとぼけた顔をした猫のぬいぐるみが置いてあった。


「よし。あとは当日の準備だけだな」


 トミーがほどけた笑みで言う。


「チェニア喜んでくれるかな」

「きっと喜んでくれる」


 アイが強く頷く。


「今の内からチェニアの好物を買い揃えとかないとね」

「うん、そうだね」


 コリンが懐からメモを取り出す。


「えっと、ブドウジュースはもう買ってあるし、スペアリブの予約もとってあるし、当日のスープはその日に材料を買えばいいよね」

「そうだな。みんなで腕によりをかけて作ろう」

「うん、任せて」


 三人は互いに見合ってニッコリと笑った。


(最初はどうなるかと思ったけど······)

(良かった。勇気だして)

(二人とも同じ気持ちだったのが嬉しい)


 その後も細かい打ち合わせや、今後の用意についての意見交換が談笑とともに進行した。とても和やかな空気であった。




 三人が画策している事。それはチェニアの誕生日パーティーだ。


 異世界から転生転移してきた三人はともかくとして、現地人のチェニアにはちゃんとした誕生日が存在しており、三人ともその日付けは知っていた。


 一年前にも四人が揃った状態でチェニアの誕生日があったのだが、当時は出来立ての新生パーティーであったため、忙しかったという事と三人がガチガチに緊張していたのが原因で、お祝いをするどころの話ではなかったのだ。


 そして、四葉結成から一年以上が経過した今。トミー、アイ、コリンの三人は誰ともなく、ふとチェニアの誕生日を思い出した。


 普段からパーティーの柱になってくれる彼女に恩返しという意味も兼ねて、誕生日を祝福しようとそれぞれが思い立ち、互いに持ちかけたところ全員が同じ気持ちだったのだ。


 サプライズな誕生日会にしようと考えた三人は、チェニアにはこの事を告げず、密かに準備を進めた。プレゼントの用意も終わり、当日のご馳走の手配もほぼ終わっていた。



「さて、そろそろ帰るか」

「うん」

「だね」


 ワクワクと楽しみにしながら三人は四葉の家へと帰ったのであった。





 そして三日後。チェニアの誕生日当日となった。


 トミーら三人は居間に集まり頷きあった。


「よし、今日だ」

「運良くクエストも無い休日だし」

「チェニアも今朝から出掛けた。今の内に用意しよう」


 役割を仲良く分担し、誕生日会の準備は滞りなく進められていった。


「よし」


 三人が満足そうに居間を見回す。

 可愛らしく、煌びやかな飾り付け、室内に漂う良い匂い。テーブルの上に揃ったご馳走。


「二人ともお疲れ様。すごく良い感じだ」

「うん、トミーもお疲れ様」

「こんな素晴らしい会場が作れるなんてびっくりだよ」


 三人はウキウキしながら外へ出た。


「じゃあチェニアを呼びに行こうっ」

「うんっ」

「よしっ」


 アイのスキルによってチェニアの居場所はすぐに判明し、三人はその場所に向かった。

 そこは武器屋であった。


「武器屋?」

「新しい杖でも買うのかな?」

「プレゼントに用意しとけば良かったかなぁ」


 首を傾げつつ三人がこっそり入ってみると、店の奥で棚を漁っているチェニアの姿があった。


「お、いたいた」

「あ、ちょっと驚かせてみる?あたしのスキル『陽炎』で姿消してさ」

「いいね、初めからサプライズで」


 ゆらりと姿を消した三人が音も立てずにそっとチェニアに近づく。チェニアは気付いていなかった。


(ずいぶん真剣に選んでるな)

(ふふ、チェニアの一生懸命な横顔かわいい)

(びっくりさせ過ぎないよう気を付けなきゃな)



「すいませーん」


 と、そこでチェニアが店員を呼んだ。


「はい、いかがしましたか?」

「この剣なんですけど、こっちのと値段が違う理由は何ですか?」

「ああ、それはですね······」


『?』


 トミーら三人は一様に首を傾げた。


(剣?チェニアは剣なんか使わないはずだが······)

(ジョブチェンジってやつかな?)

(あ、他にも何か見てる)


 次にチェニアが盾を手に取ってみた。


「これ、軽くて良いですね」

「はい、扱い易いよう軽量化した一品でして」

「あ、こっちの槍は?」

「はい、そちらも扱い易さ、手入れのしやすさを重視した物となりまして······」


 その後、チェニアは剣を二振りに盾を一つ、槍を一本購入した。


「では、こちらが引き替え用の札になります。十日以内に引き取りに来られるようお願いします」

「分かりました」

「毎度ありがとうございました」


『············』


 チリリンっとベルの音を鳴らして扉が閉まり、チェニアの去った店内には立ち尽くす三人が残された。

 チェニアの購入した武具はどれも『初心者コーナー』と書かれた棚の商品であった。ついでに『新しく冒険者パーティーを作るならこの棚の商品を!!』と広告の文字も書かれていた。


『············』


 三人は互いに顔を見合わせた。


(え······)

(どういう······)

(初心者用って······)


(『まさか!!!』)


 三人の中で、バチリと直結型の思考回路が弾けた。


(も、もしかして······!)

(新しくパーティーを作ろうと?!)

(僕をクビにして新人を入れようと?!)


(『あり得る!!!』)


 焦燥感に駆られた三人はそのままチェニアの後を追った。




 次にチェニアが立ち寄ったのは雑貨屋であった。


「······うーん」

『············』


 本のコーナーの前で何やら物色しているチェニアを、三人は姿を消したまま近くに寄って観察した。チェニアは本を指先で傾けて選んでいる。


「これかな······いや、こっちにしよ」

『!!!』


 本のタイトル。『明日から始める冒険者活動』


「あ、そうそう、これも」

『!!?』


 タイトル。『クエストの手引き~初心者10の心得』


「あと、これかな」

『!?!?!?』


 ベストセラー。『新生パーティーを作ったなら』


「うん。こんなとこかな。さ、お会計」

『·········』


「まいどありー」


 本を三冊購入したチェニアが店を後にする。

 トミー達はすぐにその後を追った。


(まま、まままさかな)

(き、ききっと初心を忘れないように買ってるんだよねっ、うんっ!)

(ぼぼぼ、僕へのプレゼントかもしれないしっ!うんっ!そうだそうだ!)


 次にチェニアが向かったのは、ギルドのすぐ横に併設されている交易所であった。

 モンスターの素材から、マジックアイテム、戦闘に役立つ消耗品、キャンプ用品やサバイバル道具などなど。冒険者に必要な基本アイテムが取り揃えられるようになっている。


 あれやこれやと並ぶ品々をチェニアが見て回る。


「うーん。まずはこのスターターキットでしょ。それとこっちの医療品の詰め合わせに······」


 次々に初心者用の道具を買い揃えていくチェニア。


(ききききっと、俺みたいな半人前のためにかかか、買ってくれてるんだろう!)

(そそそ、そそうだよね!ちょうどあたしもスターターキット欲しかったっし!)

(は、は、はははっ!な、ななな懐かしい物を買ってくれるのかなななな!)


「おう!これはSランクのお嬢ちゃんじゃねえか!」


 厳つい商人がチェニアに声を掛ける。


「今日は一人なんだな。何をお探しで?」

「初心者用の道具を。予算はこれくらいで。あ、あとテントも欲しい」

「ほう、初心者用?まさか新しいパーティーでも作るのかい?」

「ん。そんなとこ」


『?!??!!!~~っ!!?』


「うそ。冗談」


(冗談キツいぜチェニア?!)

(し、心臓止まるかとっ!!)

(一瞬気失いかけてたっ?!)


「とりあえずテント買おうかな。三人用で良いのある?」

「おう、ならこいつが良いんじゃねえか?」

「あ、良いねそれ。お値段手頃だし。それで」

「へい、まいどっ」


 少し大きめの荷物を背負ってチェニアが再び移動を始める。



 その後を、三人は暗澹たる思いで追った。


(さっきは冗談って言ってたけど······)

(実際のとこどうなんだろ······)

(本当に新しいパーティー作るんじゃ······)


 そうこう考えている内に、チェニアの姿がとある路地へ曲がったので、三人もその後を追った。


 路地は小さな空き地へと続いていた。チェニアの目的はそこのようだぅた。


(ここは?)

(空き地?)

(一体なんの用で······)



「おーいっ」


 三人が首を傾げる中、チェニアは少し離れた所で座り込んでいた人影達に声を掛けて走り出した。


『!!!???』


「あ!チェニアさんっ」

「お待たせー」


 座り込んでいた人影達は、チェニアの姿を見ると立ち上がった。三人居り、いづれも随分と若い少年少女であった。


「ま、まさか本当に?!」

「うん、買ってきたよ」


 走り寄ってきた少女らにそう言いながら、チェニアが背負っていた荷物を下ろす。


「はい、これ一式ね」

「ほ、本当に買ってきてくれるなんてっ······」

「あ、ありがとうございます!」

「うおっ?!しかも食料品まで?!」


 チェニアの荷物を確認しながら、少女達は感極まったようにチェニアへ何度も礼の言葉を述べた。


「ほ、本当に助かりました!」

「何とお礼を言えばいいかっ······」

「これで私達は晴れてパーティー結成ですっ!」

「ぶい」


 ニッコリと笑ってピースするチェニア。


 そんな和気あいあいとするチェニア達に背を向けて、トミー、アイ、コリンの三人はフラフラと立ち去って行った。






 それからややして。




「うわぁっ······!」


 家に帰ったチェニアが感嘆の声を上げる。室内に溢れんばかりの装飾、ご馳走、その他もろもろ。


「すごいっ。あっ!もしかして、今日は私の······」


 と、そこまで言いかけてチェニアがふと首を傾げる。


「て、みんな?」


『············』


 トミー、アイ、コリンの三人が生気の無い目を天井に向けて、魂の抜けたような顔で座っている。その場に用意された会場の雰囲気とあまりにかけ離れた三人の様子。話しかけても上の空の返事しか無く──


(一体どうしたんだろう?)


 謎を解くため、さっそくサトリの目で三人の記憶を覗いたチェニアは「あちゃあ······」と、額に手をやった。

 そして、大きくタメ息を吐いた後、三人を呼び集めた。


「あ、三人ともー。今日こんな事あったんだー。聞いて聞いてー」





 ──十分後──



「うおおお~ん、チェニア、誕生日おめでと~!」

「えええ~ん!おめでと~~!!」

「うわあぁ~~ん!おめでとうチェニア~~!」

「あ、ありがと、みんな」



 涙で顔をグシャグシャにした三人に、若干引きながらも、チェニアは照れながら頷いた。


 三人はチェニアの行動の真相を知り、安堵のあまりに泣いていたのだが、そこはチェニアの誕生日に感動した(?)という話で済まされている。


(いや、しかしまあ、そんな事になっていたとはね)


 チェニアはそっと一人で苦笑した。




 チェニアが空き地で会っていた例の三人は、いわゆる駆け出しの冒険者、ルーキー達であった。

 駆け出しと言っても、実際はまだクエストに行った事も無く、ギルドに正式な登録すらしていなかった。登録直前だったのだ。


 彼女らとチェニアが知り合ったのは昨日の事。ギルドに用事があり出掛けていたチェニアは、隅のテーブルで落ち込んでいる三人に気づいた。

 事情を聞いてみると、三人は幼馴染み同士で、田舎から出てきて一緒にギルドへ登録しようとやって来たのは良かったものの、宿屋の前で休んでいたら何者かに荷物を盗まれてしまったのだと言う。


「せっかく村の皆がカンパしてくれたのに······」


 村の代表的な三人は、村人の集めたお金で初心者装備一式を揃えていたが、それらを一瞬で全て失ってしまったのだ。


「私がドジだったから······どうしよう、村の皆に合わせる顔がありません」


 その事に同情したチェニアは彼女らの装備一式と、必要物資を肩代わりしてやることにしたのだ。ついでに、駆け出し冒険者の役に立ちそうな指南書やアイテムもサービスした。


 そして、一通りの調達を済ませたチェニアはあの空き地で待ち合わせしていた三人に報せに行ったのだ。



「じゃあ、武器は自分達でお店に取りに行ってね。はい、これは引き替え用の札」

「ありがとうございます!本当にっ!本当に何から何まで!!」

「うん。困った時はお互い様。じゃあ、またね」

「はいっ!あ、あのっ、チェニアさん!」

「ん?」

「自分のパーティーって·········どうですか?」




 そうして、それらの経緯をトミー達に説明したところ、三人は安堵泣きしたのであった。



(まったく。私も気が利かないなぁ。最初から話しておけば皆も心配しなかったのに)


「チェニア、楽しんでるか?」

「うん?うん、もちろん」

「はい、チェニア、プレゼント」

「わぁっ、これ欲しかった“イカれニャンコポルーニャ”のぬいぐるみっ。あ、アロマセットとコーヒも!」

「皆で買ったんだよ」

「みんな·········」


『自分のパーティーって·········どうですか?』


「······最高に決まってる」

「え?」

「ううん、なんでもない。みんなありがとう!」




 その日は楽しい誕生日会が夜遅くまで続いたそうな。




お疲れ様です。次話に続きます。

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