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㉖──滅びた魂(後編)

本日中に軽いエピローグ的な部分を投稿します。

 

 サナグ村に着いた四葉一行は、改めて村の凄惨な現状を目の当たりにした。


 村を囲う防御柵のほとんどは壊され、その穴を塞ぐために家具や脳耕具が当てられており、収穫前の畑には女性か子供しな居ない。


 見張り櫓や柵の周りには疲れ果てた顔で男達がうずくまっていた。


 そして、その近くの丘には簡易的に作られた新しい墓がいくつも立っていた。



 まだ日の高い内。チェニアは出発の号令を上げた。


 森の中を進む一行。


「みんな、改めて今回のクエスト──いや、エンド・フォロウについて話しておくね」


 歩きながらチェニアがそう言った。フォロウの居場所は判明していないが、おおよその位置は魔力の流れで分かっていた。


「まずフォロウは普通のモンスターじゃない。これはもう言ったよね」

「ああ」

「それは聞いた」

「不死身、なんだっけ?」

「正確には不死身かすら分からない。と言うよりは()()()()()()()()()()()()()。そういうモンスター」

「うーん、全く想像つかないな」


 四人は常に周囲を警戒しており、何時でも戦えるように構えていた。


「アイのスキルで探せないのもそう。フォロウは特殊すぎてあらゆるスキルの効果に引っ掛からない、あるいは受け付けない」

「それで『探知』しても分からないのね」


 幸いにも、辺りには他の大型モンスターは存在しないようであった。


「コリン、爆弾は何個ある?」

「追加で作ってきたから8個あるよ。でも、小型だから威力は低めかな」

「うん、それで大丈夫。フォロウには殺傷力を高めても意味ないからね。大事なのは瞬間的な揺らぎ」

『·········』


 メンバーらはふと思った。


「なあチェニア」

「ん?なに?」

「チェニアはどうしてフォロウにそんなに詳しいんだ?」

「·········」


 チェニアは立ち止まって面々を振り返った。


「私、みんなと出会う前はソロで冒険者やってたって話した事あるよね?」

「ええ」

「それは聞いたね」

「その時に一回戦ったんだ。フォロウと」

『え?!』


 三人が声を揃えて驚く。


「え、その不死身とかいう奴と?」

「チェニアが一人で?」

「そ、それで勝ったのかい?」

「うん。勝った。倒したよ」


 あっさりと言ったチェニアに三人が安堵の表情を浮かべたが、「だけど──」というチェニアの声が被さった。


「ハッキリ言って偶然。運が良かったというか、私の実力でどうのっていう話じゃなかった。多分、フォロウもだいぶ弱ってたんだと思う」


 いつになく、チェニアは真面目な顔をして言った。


「最初にフォロウが現れた時。ウイードスギルドのパーティーが一つ襲われた。その時に冒険者が三人くらい亡くなった」

『·········』


 トミー達は黙って聞いた。


「それで怒ったギルドの冒険者達が敵討ちって事でフォロウを探し回った。それで何度も遭遇して戦った。だけど──報告に上がったのは増える死者の数だけだった」

「······そんなに強いのか」

「強い、というよりは情報不足だった。エンド・フォロウは目撃例が少なくて生態も能力も謎に包まれていたからね。ウイードスギルド管轄下に現れたのはそれで二回目だった。最初の時はほぼ被害も無くて戦闘も無いまま自然消滅したから、この二回目が実質的な初戦だった」


 チェニアは杖の先のクリスタルをさすった。


「物理攻撃の大半を受け付けない体、魔法攻撃を相殺する魔力波、スキルの大半を無効化する能力。当然、毒や罠も効かない。冒険者達のあらゆる戦闘スタイルを封殺するかのようなその不気味な力から『冒険者殺し』という名前が生まれた」

『·········』


「拡大する被害に終止符を打つためにウイードス最強のAランクパーティーが三つ立ち上がった。みんなも知ってるよね。モブド、ワキーナ、エキストの三パーティーだよ」

「あの三人か」

「あたし達の事は良く思ってないみたいだけど、実力は確かよね」

「当時の最高戦力って事か」


 チェニアが静かに頷く。


「Aランク三パーティーの攻撃でフォロウは倒せると誰もが思った。でも······それぞれのパーティーから死者を何人か出す結果に終わった」

「!あの三人でも······」

「そんな······」

「彼らでも勝てなかったのか······」

「でも、流石にあの三人は強かった。あの人達の猛攻でフォロウに少しづつだけどダメージが蓄積していった。それで、弱点も分かったんだ」

「弱点?」


 チェニアは頷くと、振り返って再び歩き出した。歩きながら話す。


「フォロウは攻撃の瞬間だけ僅かに実体化する。その瞬間に魔法属性を纏った攻撃を与えればダメージを与えられる。それが、あの三人がもたらした報告だった」


 森はだいぶ深い所まで来ていた。


「でも、モブド達も大怪我してて再戦は無理そうだった。それでフォロウを倒そうという冒険者も居なくなっちゃった。そんな時、他のクエストを行っていた私の前に奴は現れた」

『·········』

「話に聞いていた通りの相手だった。薄い霧のような体で、ぼんやり光ってる。形は不定。人影のようになったり、球体になったり、長い紐のようになったり。本当に捉え所のない相手だった。何より、フォロウは他のモンスターが使えない特殊な魔法を使う」

「特殊な魔法?」

「闇魔法。そう呼ばれてる魔法。純粋に相手を傷つける力。戦った時、身体の底から力を奪われるような、寒気のする攻撃だった」


 そして──とチェニアは言った。


「死闘の末に何とか倒した。幸いにも私の会得していた光魔法はフォロウに効果が大きかったんだ。むしろ、だからこそ私は勝てたんだと思う。でも、今度は勝てるかどうか······」

『·········』




 その後の四葉は特に会話もなく森を淡々と進んで行った。四人の間には独特な緊張感が漂っていた。


 程なくして·········。


「······近い」


 チェニアのその言葉に全員が歩みを止めた。

 魔力の波を敏感に感じ取れる魔法使いのチェニアでなくとも、冒険者として日々修羅場を潜り抜けてきた他の三人にも異様な気配は分かった。


 チェニアが三人に振り返る。


「みんな、戦う前に一つだけ約束して」


 三人は真っ直ぐチェニアを見た。


「フォロウはまだ謎が多い。前回のように上手くいくか分からない。だから、もし危ないと思ったら各自の判断で逃げて。決して、無理して戦わない事。いい?」

「だが······」

「それじゃあ他のみんなが······」

「一人で逃げる訳には······」

「ううん。逆に誰かが逃げないと誰も逃げられなくなっちゃう。だから、勝てないと思ったら逃げて。それで他の人も逃げて。その間は私が何とかする」

「でも、それじゃあチェニアが······」

「私は大丈夫。約束して」


 トミー、アイ、コリンの三人は不肖ながらも頷いた。


「よし。じゃあ、最後の作戦の打ち合わせね」


 手短に作戦の確認をし合う一行。




「じゃあ、アイお願いね」

「ええ。『天翼』!」


 羽のように身が軽くなった四人はフォーメーションを組んだまま走りだした。


 今回のフォーメーションはいつもと異なる。

 トミーとアイは前面に並んで展開しているが、アイのすぐ後ろにコリンが随伴している。


 さらに、チェニアがやや間を空けて追随する。チェニア一人が孤立したような形になる。


「みんな!打ち合わせ通りに!決して無理はしないでっ!」


「おう!」

「ええ!」

「ああ!」


 チェニア以外のメンバーが散会して、クエストの始まりを告げた。


 前方に、不気味で不透明な霧状の影が揺れ動いていた。




 影──件のモンスター、エンド・フォロウは音も無く木々の間を漂っていた。


 しかし、接近する人の気配に反応してか、その不定形な体がピタリと動きを止め、瞬く間に人型に変形していった。


 そこへ、真っ直ぐに肉薄してくる人物が一人。


「おりゃあああああ!!」


 背丈よりもある巨大な剣を振りかぶってフォロウに叩きつける男。トミーであった。


 フォロウの影がゆらりと霧散する。しかし、一つ呼吸をする間に、霧は集約して一個の塊に戻る。


 フォロウの影がぼんやりと光った。


「!!」


 不穏な気配を察知したトミーが大きく後退するのと同時に


 ──ピイイィンンッ──


 という張りつめた鉄線を弾くような音が辺りに鳴り響き、近くの樹木がズタズタに切り裂かれた。


「これがチェニアの言っていたっ······!」


 木を盾にしながらトミーがフォロウを牽制する。


 十分に注意がトミーに行った所で──


『影縫い!』


 というアイの声が響いた。


 フォロウのすぐ近くまで接近したアイがスキルを発動していた。相手の動きを封じる『影縫い』。相手の視覚認識を曖昧にする『陽炎』。


 これらのスキルにより、フォロウは動く事も出来ず、トミーを見失い、アイにも気づかないはずであった。しかし──


 ──ピイイィンンッ──


「!!」


 飛び退いたアイの足元に幾つもの亀裂が走った。まるで鋭利な刃物で斬りつけたかのような痕であった。

 同時にトミーのすぐ横の木も大きく切り裂かれる。木を盾にしていたトミーは無傷であった。


「やっぱり、スキルの効果が無いっ······」


 アイの判断は早かった。他にも展開していた行動阻害スキルを全て止め、仲間の強化スキルに集中した。


「でやあああっ!」


 そして自身は得意の高速をもってフォロウの懐に入り込み、刃を閃かせた。一度や二度ではない。枯れ葉が枝から落ちる間に五十は斬りつけていた。


 フォロウの体はまた朝霧のように霞んで曖昧になったが、すぐに集約されて戻った。形が代わり、長い大蛇のような輪郭になる。


 ──キイイイィンッ──


 今度は薄い金板を鉄棒で叩いたかのような高音が鳴り響いた。


「っ!トミー!隠れて!」

「!!」


 咄嗟にアイが叫び、トミーもアイも木の裏に回った。間髪入れず、フォロウを中心とした木々の幹にボコボコと小さな穴が無数に空いていった。


(!まるで銃を乱射したかのような······)


 と、トミーもアイも背中に冷えた汗を覚えた。


 しかし、二人がフォロウから距離をとって隠れたのが次の連携の合図となった。


「行くよ、二人とも!」


 離れた所に隠れていたコリンが叫び、矢を放つ。先端には小型の爆弾が付いていた。


 放たれた矢はフォロウの体をすり抜けて地面に落ちた。瞬間、小規模な爆発が起こり、森をビリリと震わせた。


 フォロウの体がうっすらと辺りに細切れになって漂い、また元の形に戻ろうとする。


「アイ!」

「ええ!トミー!」


 完全な塊に戻る前に二人が駆け出し、フォロウの霧を分断するように攻撃する。何の手応えもない剣先は、それでも相手の体を拡散させた。


「おりゃあ!!」


 トミーの剛剣一閃。フォロウの光は激しく波打った。


「せいやあっ!!」


 アイの高速斬撃が元に戻ろうとするフォロウの体を撹乱する。


「避けて!二人とも!」


 そしてコリンの放つ爆弾矢がその体の形を激しく揺るがす。


 絶え間無い三人の連携攻撃によってフォロウはなかなか形を戻せずにいた。


(よしっ!)

(チェニアの言った通り!)

(形が霧散してればフォロウは攻撃出来ない!)


 前回の戦闘において、チェニアはフォロウの特性を良く観察した。他のパーティーリーダー達のもたらした情報とも統合した結果、フォロウは無敵だが、体が薄く霧散してる時は反撃に移れない事が判明していた。


 よって、体の霧が激しく揺らいで定まらない状態を維持すれば、倒せずとも反撃されることもなくなる。


 だが、それでは戦いは終わらない。むしろ、トミー達三人は常に攻撃を加えなければならないため体力は確実に削れていく。コリンの爆弾にも限りがある。

 一方のフォロウは力尽きる事はないのだ。


「はあっ、はあっ、はあっ!」

「はあっ、ふっ、ふっ······!」

「くっ、ぐぅ······!」


 常に全力、一瞬たりとも気を抜く事も出来ない連続攻撃。いくらアイのスキルでスタミナを強化していても、三人に疲労が見え始めていた。


 トミーの剛剣も衰え始め、アイの剣速も鈍り、コリンの爆弾はとっくに尽きて、風属性矢の連射が強硬されていた。


 絶妙なコンビネーションにより、息の合った三人の攻撃は互いをフォローしあい消耗を極力抑えていたが、限界が見え始めた。


「くっ······!」


 トミーの剣が薄靄を払ったが、その切り払いは甘かった。

 フォロウの形が元に戻りかける。


「せいやぁああ!!」


 猛進したアイが縦横無尽に切付ける。しかし、やはり剣先が鈍い。霧はすぐに濃くなり始めた。


「ぐっ······っ!!」


 渾身の力を込めてコリンが特大槍矢を放つ。が、連射に欠けたそれではあまり意味を成さなかった。


 フォロウの影が再び大きな一つの塊に戻る。そして、その形は形容しがたい不気味な輪郭へと変貌した。

 例えるなら、悪魔が手を一杯に広げて爪を天に掻き立てている。そんな姿であった。


 フォロウの体がぼんやり光る。


『!!!』


 ──リイイィンッ──


 無音の宇宙の底から突き抜けてきたかのような鋭い鈴の音の如く高音が辺りを弾いた。


 途端に、周囲一帯に凄まじい衝撃波が生まれ、トミー、アイ、コリンの三人も吹き飛ばされた。


「ぐわあっ!」

「きゃあっ!」

「うわあっ!」


 ただの衝撃波ではない。不可視なナイフが無数に仕込まれていたかのように三人の身体中に細かい切り傷が走っていた。鮮血が小雨のように草木を汚す。


「くっ!アイ!コリン!大丈夫か?!」

「なんとか!」

「まだ大丈夫っ!」


 血に汚れた三人。身体の底から体力を奪うような不気味な感覚を感じていた。


 そして──


 ──ピイィンッ、キイィンッ、リイィンッ──


 連続して鳴り響く奇怪な音は、周囲を滅茶苦茶に破壊していった。

 既に疲れきっている三人に反撃の余裕はなく、木々を縫って上手く躱すしかなかった。


 そんな時だ。


 ──ピロン、ピロロン──


『!!!』


 アイの懐からオルゴールの音色が鳴った。懐中時計の仕掛けだ。

 三人は目を合わせると、一つ大きく頷いて同じ方向に走った。


 フォロウの霧の如く影が、ゆらりと動いて三人を追いかける。



 何度も不可視の攻撃を放ち、三人を追い詰める。トミー達は木々を盾にしながら逃げ続けた。


 そして。


 森が一気に開けた。


 鬱蒼とした木の陰が途絶え、頭上から陽の光が降り注いだ原っぱが現れた。


 トミー、アイ、コリンはその遮蔽も何も無い場所に飛び込むと、左右に飛んで別れた。


「今だ!」


 誰ともなくそう叫んで身を伏せる。同時にフォロウが木陰から飛び出す。


 日の下でも、その薄霧のような体は不気味な淡い光を発しており、あまりにも異質であった。


 フォロウの体がぼんやり光る。攻撃の前触れであった。


 そこに、朗々たる詠唱の声が響き渡った。


「天よ、光よ、我が血潮よ。時は今。聖なる波動を受けるがいい!」



 フォロウの前方に小さな人影が立っていた。

 それは、今まで魔力を溜め続け、時を待っていたチェニアであった。杖をフォロウに向けていた。



 チェニアがフォロウを倒せるだけの魔力を溜めてる間にトミー達は時間を稼ぎ、出来るだけフォロウの力を削っておく。

 そして、セットしておいた懐中時計のオルゴールを合図にこの場所に逃げ込む。

 そこには固定砲台と化したチェニアが待ち構え、光属性の大火力をもって一気に勝負を決める。



 これが四葉の作戦であった。


「聖魔法!『オーロラ・バースト・マキシマム』!」


 天をつんざく程の轟音と共に巨大な光の波動が放たれる。

 光の洪水はフォロウを飲み込み、その後ろに広がる森をも飲み込んだ。

 光は触れた物全てを輝きに変えていった。何もかもを無に返す究極の浄化。あらゆる存在を掻き消す光の力。


 その光の放射が終ると、フォロウの揺らいだ影が震えていた。

 チェニアの詠唱は続いた。


「秘技!『ライトレイ・ラストレイ!』」


 天より降り注ぐ光刃がフォロウの体を切り刻む。それまでの霧散とは違い、切り裂かれた靄から光子のような煌めきが飛び散る。


 フォロウの体が激しく点滅する。


「光よっ、時の呪縛となりて嘶け!『チェイン・クロス』!」


 光の束縛が、フォロウを捕らえる。その体は妖しい光を帯びたままであった。


「今だよっ!今なら実体化してるっ!」


 チェニアが叫ぶ。すでに、その顔には冷や汗が滲んでおり、激しい体力の消耗を物語っていた。


 トミー、アイ、コリンの三人が転身して一気に飛び出す。


「聖なる光の力よ、我が名の元に、彼と我の光を繋げよ!『フォトン・ブレイズ』!」


 チェニアが叫ぶように唱えると、トミー達三人の体を光が包み込んだ。


 本来は剣聖が使用する光属性付与の魔法。負担が大きいため、普通なら自身の持つ剣一本にのみ光の加護を与える技であったが──チェニアはそれを三人の全ての武器にやってのけた。


「おりゃああああああ!!」

「えいやあああああ!!」

「はあああああ!!」


 コリンの光の矢がフォロウを貫いた。

 アイの双剣がフォロウを切り裂いた。

 トミーの大剣がフォロウを薙ぎ払う。



 ──ィィイイイインン······──


 フォロウの体が一際激しく光をほとばしり、無数の光の粒子が吹き出る。


 そして、それが徐々に薄れていくと、後には霧の一幕も残さずに静寂が戻っていた。



「っ!!」


 チェニアが思わずその場に膝を着く。

 他の三人も同様であった。


 しばらく、四人は動けずにその場にじっとうずくまっていた。



 それでも、その心の中では高らかに叫んでいた。




 ──『勝った!!』──と。

お疲れ様です。次話に続きます。

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