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㉕──滅びた魂(前編)

明日と二本立ての予定です。


※一部名称に誤りがありましたので、修正致しました。引き続きお楽しみいただければ幸いです。

 


「お、お願いしますっ。どうか······!」

「ごめんなさい。その依頼料では······」


 そんな会話が耳に入り、チェニアは掲示板から目を離して受付カウンターへ振り向いた。

 カウンターにはまだ十歳前後の少年が必死な表情で何か訴えており、対応している受付嬢が困ったように苦い顔をしていた。


「お願いです!もう冒険者ギルドに頼むしかないんです!これは村の皆で出しあったお金です!だから、どうか······!」

「しかし············分かりました。こちらの金額で発注書を出しておきます。でも、あまり期待はしない方が良いですよ?」

「ありがとうございます!」


 少年は何度もペコペコと頭を下げていた。



「·········」

「チェニア?どうかしたのか?」

「あ、ううん。なんでもない」



 そんな事があった翌日。


 ギルドでクエストを見ていたチェニアは、昨日と同じ少年の姿を見かけた。テーブルに着いて、何も頼まずにじっと掲示板の方を見ていた。


(······あの子、昨日の·········)


 その次の日も。

 そのまた次の日も。

 またまた次の日も、その少年は同じように居た。


 そして、日々元気が無くなっているようだった。


「あの子、今日も居る」

「そうね。冒険者、じゃないみたいだけども」


 気になったチェニアが受付嬢の元へ事情を聞きに行く。他の三人も後ろに控える。


「すみません、ちょっといいですか?」

「はい、チェニアさん。なんでしょうか?」

「あそこに居る子。この前クエストの発注に来てましたよね。なんだかただならない感じでしたけど」

「あー······はい、そうなんですよね」


 と受付嬢が苦笑する。


「依頼を持ってきてくれた子なんです。まだ小さいのに、サナグ村から単身でここまで来たそうで」

「あんな子供が一人で?」


 そう遠くはない村ではあったが、当然ながら子供が一人でやって来るのは尋常な事ではなかった。


「普通じゃないですね。何か訳ありなんですか?」


 チェニアがそう尋ねると受付嬢は表情を曇らせた。


「いえ、それが······あの子の村は今壊滅状態に陥ってるらしくて。それで、その元凶のモンスターを倒して欲しいと依頼に来たんです。どうも、大人の方々は動けない状態にあるらしくて」

「壊滅?そんなに強大なモンスターが出たんですか?」


 話を聞いたチェニアは思い当たるモンスターを思い浮かべていった。ワイバーン、フェンリル、ミノタウロイ、バジリスク、キマラ、他にも多くの凶悪なモンスター······。


 だが、受付嬢が口にしたのはもっと悪い名前であった。


「実は──『エンド・フォロウ』が出たらしく······」

「!!」


 チェニアの表情が思わず引き締まる。


「それで揉めてたんですか······」

「はい。それもありますが、その、あの子が持ってきた依頼料が······」


 そう言って受付嬢がクエストの依頼書の原本を見せた。そこには依頼者の名前、発注日時、対象モンスター名、目撃地点、そして依頼料と依頼者の一言が記載されている。


「·········10000ゴールドですか」

「ええ」


 10000ゴールドは決して安くはない金額だ。しかし、高難易度クエストの基準は一般的に20000~25000ゴールド以上からとされるため、ギルド側からすればこの依頼料は安過ぎた。


 ましてや、『エンド・フォロウ』の討伐ならば──


「なあ、チェニア」


 後ろに居たトミーが声をかける。


「すまん、話中に。そのエンド・フォロウとかってのは何なんだ?」

「あたしも気になる」

「僕らは戦った事ないよね」


 アイとコリンも興味を抱いて、チェニアを見ていた。

 そんな三人に振り返り、見回してからチェニアがゆっくりと口を開いた。


「エンド・フォロウ。通称はレイス、ゴーストって呼ばれる未知のモンスター。その生態や実態は多くが謎に包まれていて、判っている事はほとんどない。でも──」


 チェニアが声のトーンを落とす。


「有名なのはその能力。肉体が存在しない、まさに幽霊のような存在。あらゆる物理攻撃をほとんど受け付けず、魔法攻撃も上級魔法か光魔法しか効果が望めない。つまり、ほぼ無敵に近い」

「なんだって?」


 受け付け嬢が捕捉するように話に入る。


「現在、ギルドを初めとしたあらゆる機関がその正体の解明に当たっていますが、進展はほとんどありません。分かっていることは戦闘力自体はそこまで脅威じゃないこと。でも、討伐に関して言えば最も難しいことです」


 そして──と付け足すように


「もし討伐依頼をクエストとして出すなら70000ゴールド以上が相場でしょう。それでも低いくらいですが」


 つまり、少年が提示した依頼料は全然足りない。

 当然と言えば当然だが、内容の割に報酬金が低いと冒険者は受けたがらない。

 ましてや、フォロウには恐ろしい通り名があり、そのせいでほとんどの冒険者は討伐しようとも思わない。



「······事情は分かりました。少し考えます」

「え?考える?」


 驚く受け付けに軽く会釈してからチェニアはトミーらを率いて、座ったままの少年の元へ赴いた。


「あの、君。ちょっといい?」

「え?」


 チェニアが声を掛けると少年はハッと顔を上げた。その顔には疲労が滲んでいた。


 チェニアが向かいに座る。他のメンバーも近くの椅子に座る。


「さっき受け付けで話を聞いたんだけど、君、エンド・フォロウの討伐依頼を出したんだって?」

「!!」


 少年が切羽詰まったように息を乱す。


「そ、そうなんです!ぼ、僕の村がっ、で、でも、もう誰もどうにも出来ないから!だから、ここにっ······」

「落ち着いて。大丈夫だから。ちゃんと話聞くから」


 軽く興奮状態の少年をチェニアが諭すように言うと、落ち着きを取り戻した少年が語りだした。


「すみません、取り乱したりして。僕はサナグ村から来たワスと言います。あの、それで今言われたように僕はエンド・フォロウの討伐を依頼しに来たんです」


 チェニアは黙って頷き先を促した。


「現れたのは5日前の事です。村の裏山で山菜を採っていた大人達が襲われました。五人居たのですが、逃げられたのは二人だけでした。最初は一体なんのモンスターか分からず、大人達だけで対処しようとしました。でも、全く歯が立たず、また何人も亡くなりました。これはただのモンスターじゃないと思った村長が町の衛兵に要請を出して討伐作戦が実施されたんですが、これも失敗しました。その後も二回程行われたのですが······」

「なるほど······」


 チェニアには納得出来た。フォロウは普通の相手ではない。人数を増やしてどうにかなる相手ではないのだ。数が強みの衛兵では事態は好転しないのは必然であった。


「それで衛兵も匙を投げてしまって······正体はその時に判明したんですけど、どうにもならないって。時間が経てば自然に消えるからそれまで待つか避難しろって······」


 これもチェニアには解る話であった。フォロウは実質不死身に近く、討伐は至難を極めるが、危険度はワイバーン等よりも低く位置づけられている。

 その理由は二つあり、一つは攻撃能力と殺傷力はそれ程ではないという事。一般的な上級モンスターとあまり変わらない。


 しかし、もう一つの理由が特異である。フォロウは一定期間経つと自然に消滅するのだ。

 これは未だに詳細が判明しておらず大きな謎であるが、目撃情報のほとんどが『途中で消えた』と報告されるのであった。


 そういった二つの理由からしてもフォロウの討伐は優先されない。


 倒すのは困難。しかし、それ程甚大な被害は出ない。放っておけば消える。

 このような理由から、フォロウは無理に討伐する相手ではなく、ひたすら耐え凌ぐか逃げるのが最も有効とされる。


「でもっ、今こうしてる間にも村は危機に晒されているんです!防御には限界があるし、避難だって行く当てもないし老人や幼い子供がいて簡単に出来る事じゃないんです!」


 村と人は一種の運命共同体。離れて暮らすのは現実的ではなく、またフォロウだけではなく様々なモンスターが闊歩(かっぽ)するこの世界では、移動も安易ではない。


「村中からお金を集めてギルドに依頼を出しました。でも、相場からかけ離れてるから期待は出来ないそうで······」


 ワス少年はそこで言葉を詰まらせた。

 少年の話を聞き終えたチェニアはじっと天井を見上げて睨んだ。


 そんなリーダーを他の三人とワスが見守る。


 ややして、チェニアがトミー、アイ、コリンらに振り向いた。


「みんな。少し相談があるんだけど──」

「分かってるよチェニア」


 トミーが笑った。


「クエスト受けてもいいか。だろ?」


 隣のアイも笑った。


「顔に書いてあるわよチェニア」


 続くようにコリンも笑った。


「最初から受ける気だったんだね?」


 屈託なく笑う三人の仲間を見て、チェニアの胸にも思わず込み上げてくるものがあった。


(サトリの力が無くてもこの人達は私の心を分かってくれるんだ······まだ、何も話してないのに)


 チェニアがワス少年を振り返る。


「ねえ。私達で良ければこのクエスト受けさせて欲しいんだけどいいかな?」

「!!ほ、本当ですか?!」

「うん。勝てるかは正直なところ分からないけど、やるだけやってみようかなって」

「あ、ありがとうございますっ!!ほ、本当に!」



 感極まったワスが涙を流しながらテーブルに額を擦り付けた。



 その日。

 四葉がエンド・フォロウ討伐の依頼を受けた話がウイードスギルド中に知れ渡った。


 だが、彼らの反応は何時ものような期待と称賛の声ではなく、不安一色であった。


 何故なら、エンド・フォロウには不吉で有名な通り名があるのだ。





 それは──『冒険者殺し』·········。



お疲れ様です。次話に続きます。

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