㉔──アフターフォロー
──高難易度クエストにて──
「しまった!!」
「トミーっ!後退!」
「ぐっ!?」
ゲラムスラの体当たりを何とか受け取めたトミーであったが、そのまま吹き飛ばされて木に背中を強打してしまう。
「アイっ、引き付けて!トミーにヒールする!」
「了解っ!」
アイがスキルを駆使して対象のモンスターの注意を逸らすが、出来るのはそこまで。
「でやぁっ!」
もう何度も試みた攻撃は、やはり意味をなさなかった。
「くっ!」
半透明のゲル状の体を持つゲラムスラはアイに猛進した。
それを軽やかに躱したアイであったが、同時に放たれた毒霧を避け損ねてしまい、吸ってしまった。
「!しまっ······!ゴホッ、ゴホッ!!」
「ア、アイ!くそ!」
コリンが無理して矢を連射するが、突き刺さった矢は、ほぼ水分のその体には何の効果も出せずに終わった。
むしろ、ゲラムスラのヘイトがコリンに向いてしまい、うねうねと伸びたゲル状の触手がコリンに向かって石つぶてを放つ。
アイのスキルの加護を失っていたコリンがモロに食らう。
「うわああっ?!」
「っ?!コリン!」
トミーにヒールを施し、さらにはアイにも解毒魔法をかけていたチェニアがいよいよ覚悟を決める。
「こうなったら!秘術『ライトレイ・ラストレイ』!浄化の光よ、魔を滅せよ!」
天から幾千もの光の刃が降り注ぎ、ゲラムスラとその周囲一帯をズタズタに切り刻んでいった······。
「以上でクエストの報告終わりです」
「お疲れ様でした。四葉のみなさん、ゆっくりお休みください」
クエストは成功し、チェニア達は何時もと変わらぬ体で達成報告をギルドにした。
チェニアのヒールもあり、メンバーらはほぼ無傷であったが、内心はノーダメージという訳でもなかった。
「じゃあみんな、いつもの店行こっか」
『·········』
「あれ?みんな?」
トミー、アイ、コリンの三人は落ち込んだ様子で俯いていた。表情が暗い。
さらに言えば、どこか思い詰めたような深刻な顔をしていたのであった。
「どうしたの、みんな?」
「······ごめん、チェニア。俺少し一人で考えたい事あるんだ」
「え?」
トミーが拳を握り締める。
「今日のクエストは皆の足を引っ張った。だから反省したい。本当にごめん」
チェニアが困ったようにトミーを見上げる。
「そんなに気にしなくていいのに。誰だって調子悪い時くらいあるよ」
「いや、本当にごめん。俺······」
トミーが背を向けてトボトボ歩き去っていく。
その背に声をかけようとしたチェニアに、今度はアイがこう言った。
「ごめん、チェニア。あたしも少し一人になる」
「え?」
「ごめんね·········」
アイも肩を落として去っていった。
「トミー、アイ······」
「チェニア、ごめん、僕も少し······」
「え?コリンまで?」
「うん。少し一人で反省するよ······」
コリンも暗い面持ちのままどこかへ行ってしまった。
「·········みんな······」
すっかり落ち込んで居なくなってしまった三人を心配するリーダーのチェニアであった。
「はぁ」
町の繁華街を一人歩くトミー。
(ああ、俺のせいでみんなに迷惑かけちゃったな。追放されるのは時間の問題だろう)
と、追放されることに怯えてもいたが、純粋に後ろめたさもあった。
(でも、そんなことより。皆には迷惑かけた。なんとかして罪滅ぼししたいけど、どうしよう)
今回の相手は物理攻撃に強いモンスターであり、あらゆる耐性を持った厄介な敵であった。
普段はアイが先制攻撃し、コリンの毒矢などで弱らせ、チェニアの魔法で防御力を削いで、トミーが止めを刺す。と言った流れなのだが、今回はチェニアの魔法とコリンの毒矢の効きが悪かった。
焦ったトミーは無理矢理に攻撃を敢行し、逆に返り討ちに逢い、起点を作ってしまったのだ。
(はぁ。俺のせいだ······)
トミーは責任を感じてすっかり落ち込んでいた。
自分の追放は時間の問題だろう。いや、そもそも実力不足が今まで露呈しなかったのが不思議なくらいなのだ。あるべき運命が訪れるだけだ。
そんな風にトミーが考えていた時だ。
「ひっひっひっ······シケた面してるねぇ、お前さん」
「え······?」
突然、しわがれた不気味な声が彼の意識を呼び戻した。
トミーが辺りを見回すと、すぐ近くの道端に怪しい人物が居た。真っ黒なローブを頭からスッポリと被っており、顔はほとんどは見えないが、不気味なピエロのお面を着けていた。
そんな怪しい人物は小さな机を前に座っており、トミーを手招きしていた。
「そこの兄さん、こっちおいで。占ってやるよ」
「え、いや······」
と、躊躇いかけたトミーであったが、今日の失敗やこれからの自分の方針を考えたいという事もあり、つい誘われるがまま立ち寄ってしまった。
「えっと、いくらだい?」
占い料金を最初に尋ねるトミー。しかし、占い師は手を横に振った。
「ひっひっ。タダだよ。あたしゃ占いたいと思った人間しか占わないのさ。その代わり、占いたい人間はタダで見てやるよ」
「マジか。でも、なんで俺を占いたいと?」
「ひーっひっひ!そりゃ、お前さん。シケた面してたからだよ。あたしの大好物さね」
ムッと眉をしかめるトミーにはお構い無しに、占い師が水晶を取り出す。
「さ、始めようかねぇ。この水晶に手をかざして日頃の悩みとか頭に思い浮かべな」
言われた通りにするトミー。彼の脳裏には今日の無様な失敗の光景が展開されていた。
「ほほう。なる程ねぇ」
占い師が意味ありげな笑いを忍ばせる。
「ひひひ。お前さん、冒険者だね?」
「······」
トミーは答えなかった。背中にある剣を見れば、当てずっぽうでも冒険者だと当てる事も出来るからだ。的中しても驚かない。
しかし、占い師の次の言葉はトミーを激しく動揺させた。
「強いパーティーに居るようだねぇ。そんでもってお前さんはそこに居るのが場違いなような気がして毎日悩んでるねぇ」
「っ!なんでそれを?!」
「ひーっひっひ!まあ、待ちなよ。ふんふん。それでもって今日はどうやら大きなミスをしたと」
「!!」
占い師はトミーの内心も、今日の事もピタリと言い当ててみせたのであった。
「ひひっ。つまりお前さんは、元々自分の実力に自信が無くて、そこへ来て今日大きくやらかしたせいでいよいよ仲間から見捨てられるんじゃないかとヒヤヒヤしてるんだね?」
「そ、そうなんだっ!まさにその通りっ!」
(この婆さんすげえぞ!?当ててやがる!)
占い師はまたひひひと笑った。
「よしよし。ならこれからもそのパーティーで円満にいく良い行いを占ってやろう」
「良い行い?」
「お告げ、みたいなもんだわさ。さ、待ってな。むむむむ······。ひーっひ!出たわさ」
占い師はビシッとトミーの鼻面に指差した。
「ずばり、お前さんのラッキーアイテムはクッキーだわさ!お茶菓子にピッタリなクッキーを買いな!」
「お、お茶菓子?」
戸惑うトミーを他所に、占い師は机やイスをマジックポーチに吸い込んでいった。
「ひひーっひ!占いはここまでだわさ。後は自分でどうにかしなっ!」
「あ、なあ、待って──」
しかし、占い師は一陣の風の如くあっという間に居なくなってしまった。
「······な、何者だ?あの婆さん?」
トミーはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて我に返ったように歩きだした。
「はぁ~。あたし、ダメだなぁ」
小川のほとりで座り込んでいたアイは、手元の小石を川に放り込んだ。チャポンと小さく波立つ。
(はあ。一番手なのに何も出来なかった······)
この日のアイはあまり良い所を見せられなかった。と言うのも、今回の相手は物理攻撃にとにかく強く、トミー程の火力は出ないアイの攻撃では全くの無意味であったからだ。
とは言え、アイが同時に複数発動してたスキルのおかげで互角に戦えていたのだ。
しかしながら、肝心のアイ自身は後半に相手の毒にやられてスキルを一時的に解除してしまい、結果として他のメンバーへの被害が増えてしまった。
最終的にはチェニアの大火力魔法により戦局は打開出来たのだが、アイはすっかり自信を失くした。
(あたしのせいでコリンはケガしたし、トミーだって急に体力奪われた。それにチェニアだってあんなにカバーに回ったからすごく負担大きかったろうし。はぁ~。あたしがザコだから······)
今回の件で自分の実力は周囲に気づかれたに違いない。と言うことは追放まで秒読みだ。
そんな悲観的な考えがアイを支配していた。
(追放も怖いけど、それよりみんなに謝らなくちゃ。あたしが足引っ張ってたって。ごめんねって。でも、そんな言葉だけ済む話かな······)
もう一度石を投げる。川面に映った自分の落ち込んだ顔がゆらゆらと歪んだ。
「はぁ~~······」
「ひっーひっひっ。ここにも居るねえ、萎びた顔の輩が一人」
「えっ?」
アイが顔を上げる。いつの間に来ていたのか、すぐ後ろに奇妙な黒装束に身を包んだ人物が立っていた。
(何?この人。それにピエロのお面?)
「ひっーひっひっひひ。お嬢ちゃん、ずいぶんとお悩みだねえ。失恋でもしたのかい?」
「······いえ、そういう訳じゃ·········」
「おやおや、そうかい。何か悩み事かい?だったなら占ってやるよ」
「え?占い?」
「ひっひっひっ!占い好きだろう?若い娘はみーんな占い好きなんだよ」
その不可思議な占い師は躊躇うアイには構わず、自分もその場に座り込むとサッサと占い用の水晶を取り出してアイの前に置いた。
「さ、手を出しな。そんでもってこの水晶にかざすんだよ。そうすりゃアンタの考えてる事悩んでる事みーんなお見通しさ。もちろん、好きな男のタイプとかもねぇ、ひーっひっひっひ!」
「え、ええ~······」
(どうしよう。なんか変なのに絡まれちゃったなぁ。今気分も乗らないのに)
しかし、逆に気を紛らわすのにも良いかもしれないと思い直したアイは言われた通りにした。
占い師が気味の悪い笑い声を出す。
「ひーっひっひっひ!待ってな待ってな。今アンタのあられもない姿が見えるよっ!」
(うえぇ······)
やはり逃げようか。と、思ったアイの耳に占い師の思いもよらない声が届いた。
「おや~?アンタは冒険者だねえ。それもかなり強いパーティーに属してるようさね。ほうっ!Sランクパーティーかね」
「!分かるの?」
「ひっひっひ!当たり前さね。ふーん、そんでもって、自分はそんな中では役立たずのザコだと思ってると。周りにバレたらクビにされるかもと怯える日々か。しかも今日は大きなミスしちまったと出てるねぇ」
「?!!?」
(す、すごっ?!全部当たってる?!)
驚くアイの顔を見て占い師はまたしゃがれた声で笑い立てた。
「ひーっひっひっひ!どうだい?信じる気になったかい?私の占いを」
「う、うん!お婆ちゃん凄い!」
「ひっーひっひ!なら聞きな!アンタにはラッキーアイテムがあるよっ!今から言う物を買ってから家に帰りな!」
「う、うん」
「この近くにお菓子屋がある。そこで新しく出たチョコレートセットを買いな!」
「え?ちょ、チョコ?」
「そいじゃ頑張りな!ひーっひっひっひっひっひ!」
「あ、ちょ──」
と、呼び掛けるアイの前にはもう占い師の姿は無かった。
「·········な、なんだったんだろう?」
首を傾げつつも、お菓子屋に足を向けるアイなのであった。
公園のベンチでボーッとするコリン。その頭の中ではグルグルと今日の失態が渦巻いていた。
(ああ、とうとう僕の無能さが白昼の下に晒された。きっとすぐにパーティー会議が始まってクビが決定されるだろう)
今回の相手は特にコリンと相性が悪かった。あらゆる毒の耐性を備えたゲラムスラはコリンのデバフ攻撃をものともしなかった。
しかし、冷静なコリンは、毒以外にも属性石を組み込んだ特性の矢を順に打ち込んでいき弱点を探っていた。
弱点が見つかったのは終盤。しかし、それが判明した時には前衛のトミーとアイが崩され、焦ったコリンは意味もなく敵の注意を引いてしまい攻撃をモロに受けてしまった。
「はぁ······サポートで貢献出来ないんじゃ僕の存在意義無いじゃないか」
結果として、チェニアの魔法攻撃の力押しで戦況は覆せたが、その後も目立った活躍も出来ないままのコリンなのであった。
(トミーとアイも自分のせいだと思ってたみたいだけど······)
それはSランクとしての自覚と意識からきた誇り高い責任感なのだろうとコリンは考えた。二人は自分に厳しいからそう考えてるだけだ。しかし自分は本当にミスをしている。といったように。
(だけど、本当に足を引っ張ったのは僕だけだ)
コリンはまた空を仰いだ。すでに青さが深まってきていた。もう午後が深まり始めている。
「······どの面下げて帰ろう」
「そりゃお前さん、その情けない面さね」
「?!」
突然近くから発せられた受け答えのような言葉にコリンが思わず辺りを見回す。すると、すぐ近くに簡易的な台と席を用意した占い師らしい人物が居るのに気が付いた。
「ひっひっひっひ!そんなに若いのに悲観的な面してるとはねぇ、世も不景気だわさ」
「·········」
(怪しいお婆さんだ。変なお目着けて。今はあまり気分も良くないんだ。無視しよう)
と、立ち上がって背を向けたコリンに
「ひひひっ。悩みがあるんだろう?大方冒険者でクエスト失敗したとかみたいなねぇ」
「?!」
コリンが振り返る。占い師は手招きしていた。
「ほれ、取って食いやしないよ。占ってやろう。おいでな、ひーっひっひ!」
その怪しい占い師に誘われるがままコリンは目の前の椅子に座った。
「ひっひっひっひ!悩む人間ってのは面白いねえ。怪しいと思ってもつい寄りたくなっちまうんだからよお」
「·········」
「ひーっひっひ!警戒しなさんな。ほれ、この水晶に手をかざしな。んで、悩んでる事とか考えな」
トミーやアイがしたように、コリンもそうした。
やがて占い師が甲高く笑った。
「ひーっひっひっひっひっ!お前さん、凄い所にいるねぇ。Sランクパーティーかね」
「!」
「でも自分の実力に自信が無いようだねえ。いつかそれがバレて追放されると怯えてる。そんでもって今日は大きなミスをしちまって責任を感じている。ってとこかねえ」
「!!?!」
「ひーっひっひっひっひっ!当たるだろう?あたしの占いは」
「す、凄い······」
占い師がビシッと指を差す。革の手袋をはめていた。
「あんたのラッキーアイテムを教えてやる!この先にあるお菓子屋でクラッカーとジャムのセットを買いな!」
「クラッカーとジャム?」
「塗って食べると美味しいんだ。じゃ、買った後は自分で頑張んな!ひーっひっひっひっひっ!」
コリンが何か聞き返そうとした時には占い師の姿はどこかへ溶けるようにして消えた。
「······な、何者だ?」
しばらく呆然としながらも、コリンの足はやがてお菓子屋に向いたのであった。
四葉のシェアハウスにて。
『???』
トミー、アイ、コリンの三人はお互いの買ってきたお菓子に首を傾げていた。
(あれ?二人もお菓子買ってきたのか)
(お菓子買ったのあたしだけじゃなかったんだ)
(たまたま皆でお菓子買ってきたのか)
偶然にしては奇妙な偶然である。そんな風に三人が不思議に思っていると──
「ただいま~」
と、チェニアが帰ってきた。
チェニアは三人の姿を確認すると、ニッコリと安堵したように笑った。
「みんな帰ってきてたんだね。良かった~。元気無かったから心配したよ」
「あ、ああ」
「ええ······」
「······うん」
シュンと項垂れる三人。
しかし、チェニアが明るい声を上げる。
「わあっ、お菓子が沢山っ。皆で買ってきたの?」
そう言ってテーブルにお菓子を広げていく。
「おいしそーだね。うん、ナイスタイミング。実は私も美味しいお茶買ってきたんだー。せっかくだから四葉のティータイムにしよっか」
三人は戸惑いながらも嬉しそうに頷いた。
それぞれが持ち寄ったお菓子が皿に盛られ、チェニアがお茶の準備をする。
(それにしてもタイミング良かったなぁ)
と、トミー、アイ、コリンの三人は思った。
「うん?チェニア、その荷物は?」
「え?おっと、なんでもないよ。ただの買い物袋」
「そうか」
三人の目の届かない所に風呂敷を置き直すチェニア。
その袋からピエロのお面が少しだけ出かけていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




