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㉓──輝かしさの裏で

 


「えー、つきましては、冒険者諸君の日々の活躍の素晴らしいこと貴族の間でもしばしば話題に上がり、んー、その度に我らは感心と感謝の念に絶えず、えー、つきましては労りの場を設け、日頃の疲れを癒してもらおうかと思い、あー、このような席を用意し──」



 壇上で自慢のヒゲを指ですりーっと撫でながら、オティケット伯爵は延々と長話を垂れ流していた。その話を集まった冒険者らが全員つまらなさそうに聞いていた。



「たくっ。話下手すぎねえか?」


 と、Aランクパーティー『ナイトレイヴン』のリーダーのモブドが舌打ちするのをチェニアは聞き逃さなかった。


 すぐ隣の席ではAランクパーティー『グレイハウンド』のリーダーのワキーナが眉をひそめており、その横の席では同じくAランクパーティー『ティタノボア』のリーダーエキストが苦い表情をしていた



(まあ、気持ちは分からなくもないけど)


 チェニアはゆっくりと背もたれに体を埋めるようにしてもたれかかった。





 チェニア含めたウイードス所属の冒険者達は今、このミッスル地方を治める貴族オティケット伯爵の屋敷内にあるパーティー会場で丸テーブル席に着いている。


 チェニア達四葉を含め、ウイードスの上ランクのパーティーがいくつか招待されており、会場には高級ワインと豪華な食事が溢れていた。

 各パーティーの中枢メンバーをそれぞれ招待して開かれた場であったが、四葉は四人しか居ないので全員出席していた。


 なぜこのようなパーティーが開かれ、冒険者が招待されるのか。その理由はギルドと貴族の微妙な関係があるからであった。


 ギルドは民間運営の組織であるものの、その支援者は貴族などの有力者が多く、これは言わばスポンサーである。そのスポンサーにとって、自身の運営する領地内の高名な冒険者などは大いに自慢になるのだ。よって労いと話のタネ、そして箔をつけるためにパーティーへ招待するのだ。


 もちろん強制ではないが、この招待はギルドからも()()()()()報せと共に言い渡されるので、大体のパーティーは出席する。そう、今回のように。



(まあ、美味しい物をタダで食べられるし、そんなに悪い話じゃないしね。退屈だけど)


「はあ。退屈ね」


 と、チェニアの心情を代弁するかのようにワキーナが呟いた。


「さっさと美味しい物食べて帰りたいわ」

「ふん、ならさっさと帰ったらどうだ?」


 すぐ隣のテーブルに着いたエキストが声をひそめて言う。


「元よりここは野良犬の集まる所ではない」

「あら、あなたも早く厨房に行った方がいいんじゃない?もうすぐ豚料理よ?ほら、出番よ?」


 挑発的な応酬を繰り広げる二人を横目に、チェニアが小さくかぶりを振る。




「ええー、であるからにして、諸君をこうして招けた事は我がオティケット家にも箔が付き、ますますの繁栄を──おっと、もうこんな時間になってしまっていたか。では、食事にしよう」


 気を利かせた使用人の一人がオティケットに見える位置に時計をずらしたお蔭で長話が終わり、晩餐会がやっと始まった。



「モグモグ······おいしー」


 流石に貴族の家の出す料理はレベルが高かった。チェニアも思わず手を伸ばすこと多々。


「みんな、どう?」

「うまいっ」

「美味しいっ」

「美味しいよっ」


 トミー、アイ、コリンの三人も夢中で食べていた。そんな三人を眺めながらチェニアは微笑んだ。


 ·········と、打って変わってすぐ近くの席では


「よお、女狐。今日は随分と群れが小せえじゃねえか、ああん?」

「あら、あなたも随分寂しげだけど?烏合の衆も絶滅間際かしら?」

「ふん、小物どものウジャウジャした姿が無くて清々するわ」


 モバド、ワキーナ、エキストの三人がふてぶてしい笑みとグラスを交わしながら火花を散らしていた。

 各々の取り巻きらも好戦的な眼差しで相手陣営を嘲笑ったり睨んだりしている。


 彼ら三パーティーはウイードスギルドの中ではトップ3に入るパーティーで、四葉が台頭するまではこの三つが最強なのであった。故に、ライバル意識は強かった。


「ま、いいさ。お前らなんて眼中にねえ」

「たまには意見が合うわね。あたしも同じくよ」

「ふん、小虫などどうでもいい」


 ジロっと三人の目が一斉に自分へ向けられるのを感じて、チェニアは気づかないフリをしてジュースを飲んだ。


(知らない、知らない。関係ない、関係ない)

「おい、チェニア」

(······という訳にもいかないかぁ)


 チェニアが気だるそうにモブドへ振り向く。


「なに?」

「四葉はいいよなあ、少ねえから全員出席で。おめでてえこったな」

「ありがとう」

「皮肉だ。真に受けんな」

「あ、この鳥皮おいしいよ」

「んな皮肉(かわにく)なんざどうでもいい!」

「おいしいのに~。モブドの偏食~」

「やっぱイラつくっ!」


 とモブドが歯ぎしりした所で、今度はワキーナがチェニアの背もたれに艶かしく肘を置いた。


「ねえ、チェニアどうかしら。あたしの所に来れば毎日でもこういう食事にありつけるわよ?」

「私、家庭派なんだ。毎日食べたいのは豆のスープにチーズグラタン、玉子サンド」

「あ、あら、そう?別に貴女の好みを聞きたい訳じゃないのだけれど?」

「えっと、嫌いなのはグニョリとした生モノかな」

「嫌いな食べ物も聞いてないわよっ!」

「ここの料理おいしいね」

「やっぱりこの子あたしの事舐めてるでしょ!」


 ワキーナが頭を掻きむしったところでエキストがズイッとチェニアの横にそびえ立った。


「チェニア」

「なに?」

「我のパーティーに入れ」

「やだ」

「なんでだ?」

「怒らない?」

「怒らん」

「エキストがむさ苦しいから」

「なんだとおぉ?!」


 三人のリーダー達が歯を剥き出しにし、チェニアを睨んでいると、それぞれの取り巻き達もチェニアを睨んで口々に悪態をついた。


「俺らのリーダーになんて態度だ!」

「ほんと失礼な子!ガキンちょ!」

「控えおろう!小娘!」

「何様だテメェ!」

「あたしらの事なめてんの?!」

「なぜそんな偉そうなのだ!」


「Sランクですから」

『むっかつくっ!!』



 Aランクパーティーによる盛大なムカつく大合唱が響きわたったところで、主催者のオティケット伯爵がそこへやって来た。


「おお、これはこれは。Aランクパーティーの面々にSランクパーティー『四葉』。凄いな。ウイードスギルドの主力が揃い踏みじゃないか」


 そうそうたる面子を前にして伯爵が子供のようにはしゃいで言う。


「いやはや、こんな強者達と酒を交わせるなんていよいよ私も大物だな。はっはっはっ!」


 全員が白けた顔で「どうも」と言うのを満足そうに受けながら、伯爵は別のテーブルへと回っていった。


「さて」


 ギロリと、モブド、ワキーナ、エキストの三人がチェニアに向き直る。


「チェニア、良い機会だ。今夜はとことん語ろうぜえ?」

「エッチ」

「なんでだよ!誰がエッチだっ!」

「チェニア、女の子同士仲良くしましょう?」

「エッチー」

「なんでよ?!あたしにそっちの趣味は無いわよ!」

「チェニア──」

「エッチっ」

「まだ何も言ってなかろう!」


(あーあー。こういう所くらいは仲良くご飯食べようよ~。も~)


 と、チェニアがウンザリしている所へ。


(ん?)


 トテトテと可愛らしいドレスを纏った小さな女の子が走りよって来た。

 他のリーダーらも


「あん?」

「あら?」

「む?」


 と気づく。


「こんにちは!」


 その少女は元気よく挨拶し、満面の笑みで一同を見回した。瞳がキラキラと輝いている。


「ねえ、あなたがチェニア?」


 と、少女がチェニアへ言う。


「白のダボダボローブってチェニアでしょ?」

「そうだけど、あなたは?」

「あたし?あたしはパパの娘!あ、パパっていうのはさっきあそこに立ってた偉い人っ!」

「てことは、あなたはオティケット嬢?」

「よく分かんないけど多分そう!」


 令嬢は「そんなことより」とチェニアの膝をパチパチと叩いた。


「ねえっ、あなたSランクなんでしょ?」

「うん、そうだよ」

「すごーいっ!あたし知ってる!Sランクって一番強くて凄いんでしょ?」


『一番?』


 チェニアの膝元ではしゃぐ令嬢の横から三つの影がゆらりと殺気だった。


「そいつは聞き捨てならねえな嬢ちゃん」

「いけない子猫ちゃんねぇ。少しお勉強させてあげた方が良いみたいね」

「小娘よ、間違いを正してやろう」


 モブド、ワキーナ、エキストの三人がチェニアと令嬢を取り囲むように立つ。


「あれ?あなた達は?」


 令嬢が不思議そうに首を傾げる。各リーダー達はそれぞれ名乗りを上げた。


「俺はモブド。町から町へ、さすらいの渡り鳥ナイトレイヴンのリーダーだぜ」

「あたしはその名も美しきワキーナ。麗しき灰狼グレイハウンドのリーダーよ」

「我こそはエキスト。強大な野山の長ティタノボアのリーダーなり」


「えっとねー、一言で紹介すると凄い人達だよ」


 チェニアが令嬢に言うと、三人はフンッと鼻を鳴らした。


「まあ、私達四葉の次くらいにね」

『むっかつく!』


 しかし、令嬢はあまり興味無さそうに


「ふーん」


 と言ったきりであった。

 その態度が気に入らなかったらしく、三人がムッとなる。


「なあ、嬢ちゃん。俺達ナイトレイヴンはすげえぞー?超イカすぜ?」

「うーん······」


 令嬢が困った顔で尋ねる。


「どのくらい?」

「凄くだ。最強だぜ?」

「でも、一番は四葉だよね?」

「ピキッ」


(お、面白い。モブドが令嬢の子にやられてるぞ。そうだ、たまにはこのギスギス三リーダー達の心でも読んで······)


 チェニアはこっそりサトリの目を使い、モブドの声を聞いた。


(こ、このクソガキ~!そこは『すっご~い!』とかガキらしくアホっぽい反応すりゃいいんだよ!)


(子供相手に何言ってんだか······あ、言ってはないのか。えらいえらい)


「じょ、嬢ちゃん。俺らはAランクパーティーの中でも屈指のチームでな······」

「えー。ガラ悪いし~、それにSじゃないじゃーん」

「なっ······!?」

(マセた事言うんじゃねえ!このガキ!グリフォンの餌にすんぞコラァ!)


「ふふ、下がりなさい小物」


 モブドを押し退けてワキーナが少女に向き合う。


「子猫ちゃん。あたしの所は女の子だけで構成してるの。貴女も大きくなったら入れてあげても良くてよ?」

「えー、あたし入るなら四葉がいい~」

「ピキッ」

(なんてナマイキなの?!だから貴族は嫌いなのよ!このボンボンのアバズレお転婆チンチクリン!)


「で、でも楽しいわよ?あたしの所は一番大きいパーティーだから」

「あたし一番強いパーティーがいいー」

「こっ······?!」

(キィーッ!チェニアよりナマイキ!なんなのこの子?!フェンリルのエサにするわよお!)


「ふん、退いてろ」


 ズイっと巨体のエキストが令嬢を見下ろす。


「我がティタノボアこそ最強最大のパーティーだ。よく覚えておけ」

「何ランクー?」

「Aランクだ」

「じゃあ最強じゃないじゃーん」

「ピキッ」

(上げ足とるな小娘!ランクなど形に過ぎんのだ!)


「いや、我らこそ最強だ」

「でもなんだかむさ苦しそうで嫌ー」

「ごっ······?!」

(この小娘ぇ!ベヒモスのエサにしてやるぞお!)


(なんでこの人達はこの子をエサにしたがるんだろう?)


「やっぱりー」


 トトっと令嬢がトミー、アイ、コリンらの周りを走る。


「四葉がいい!だってSランクだもん!」

『ピキッ』


(わーお。見事に逆鱗に)


 トミー達は静かに頷いているだけであった。

 チェニアは自分のパーティーメンバーらの心の声にも耳を傾けた。


(おおおいいいい!この子何余計な事言っちゃってくれてんのおお?!)

(ちょちょちょいーっ!よりによってあのAランクリーダー達が一番気にしてるであろう事をー!)

(なんだってわざわざ争いの種を撒き散らすんだー!おかげで僕らが睨まれてるぅーっ!)


 心の声は悲痛であったが、表情には出さずしれっとしている三人であった。


(うーん。同業者の前でのポーカーフェイスは素晴らしい)


 感心するチェニアなのであった。


「あ、パパが呼んでる。あたしもう行くね」


 手招きする父親に気づいた令嬢がパタパタと走り去っていく。

 残されたのは、額に血管をピクピクと浮かび上がらせたAランクリーダー三人と、そんなリーダー達の激しい睨みつけに涼しい表情を浮かべている四葉の面々であった。


「今に見てやがれ······」

「すぐに追い越してやるわ······」

「四葉ども······」


 凄む三人を見てチェニアが苦笑する。


(やれやれ。これがみんなの刺激になってくれるならいいんだけど)


 そっとトミーら三人の心を覗くチェニア。戦々恐々とするメンバーの声にもう一度苦笑したのであった。


お疲れ様です。次話に続きます。

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