⑲──相応しい装備を
「······うーん」
自室にてチェニアは自分の杖をさすりながら唸っていた。
(だいぶ傷んできたなぁ。コリンの作ってくれたオプションパーツのおかげで長持ちするはずなんだけどなぁ。いや、普通に考えたらあんなに高等魔法バカスカ撃ってたらこうなるか。むしろ今まで壊れなかったのが不思議なくらいだし。そろそろ替え時かなぁ。クエスト中に壊れたらシャレになんないし。うん、よし)
「新しい杖買おっと」
チェニアの使っている杖は二年程前に購入した極一般的な品であった。
武器の寿命は種類や使用頻度によって大きく異なるため、一括りで語る事は出来ないが、チェニアの杖に関しては明らかに使用限界を超えていた。普通ならもう数ヶ月前には使い物にならなくなっていたであろう。
それでも壊れなかったのは、コリンのクラフトパーツのおかげと、チェニアの使い方が上手かったからである。
とは言え、やはり限界ではあった。
(この間新しいオーブン買っちゃってかなり出費しちゃったもんなぁ。それにその他もろもろの家具とかで散財しちゃったし。でも、まだ余裕はある)
チェニアはパーティー共用の財布を取り出し、中の金貨や銀貨を数えた。
(うん。結構ある。これだけあれば高級品だって買える。わーい。あー、新しいモンセシリーズの杖欲しかったんだよなぁ。私は幻獣素材より宝石素材の方が魔力供給合ってるみたいだし。この際だから良いの買っちゃお)
そして資金を懐に入れると、部屋を出て一階の居間へとチェニアは下りた。普段は食事を摂ったり、談話室となっているその場所に、他のメンバー三人も集まっていた。
(あ、ちょうどいい。出掛けてくる事みんなに言っとこ)
「みんなー。私ちょっと出掛けてくる······ん?」
「うーん······」
「えーっと······」
「ふーむ······」
トミー、アイ、コリンの三人はそれぞれ思い思いの場所に座り込んでいたが、皆なにか考え込むように真剣な表情をしていた。
それぞれの手元には自身の使う武器があった。
「?」
(何やってんだろ?)
一番近くに居たアイにチェニアが声をかける。
「アイ、どうかしたの?」
「あ、チェニア。ううん、大した事ないんだけど、武器がちょっと傷んできたかなぁって」
「武器が?」
言われてチェニアが覗き込む。
「あ、本当だね。かなり刃こぼれしちゃってる」
「うん。それに」
アイが二本ある短剣の内の一本を手に取り軽く振ってみせる。カタカタと刀身が鍔に当たる音がした。
「この短剣さ、刺突用じゃなくて刃の薄い切断用に特化してる特殊な構造してるから接合部にガタがきちゃってるみたいで」
「ありゃりゃ」
数多くの修羅場を潜り抜けた短剣はボロボロであった。切っ先も欠けている。
「さすがにコリンのパーツでもカバーしきれないだろうし、これは買い替えだね」
「そうだよね。はぁ、せっかくコリンがカスタマイズしてくれたのに。あたしの使い方が悪かったのかなぁ」
「うーん。単なる寿命だと思うよ。私達の相手してるモンスターって大体お硬いし」
新調が必要なのは自分だけではなく、アイもそのようだと思いながらチェニアがトミーの元へ行く。
「トミーは何してるの?」
「うん?あ、チェニア」
トミーは振り向いて苦笑いした。
「いやー、実はさ。俺の剣なんだけど、そろそろマズイかなぁって」
「え?」
「あ、いや。ほら、ここ」
トミーは剣の腹を傾けてチェニアに見せた。幅広な刀身の真ん中に細いヒビが無数に入っていた。
「うわぁ、これはなかなかだね」
「ああ。多分、この間のベヒーモスの攻撃防いだ時だと思うんだけどさ。あー、でも前々から無茶な使い方してたからな。これまでの無理が祟ってきたってとこかなぁ」
「そっかー」
最前線で常に相手の攻撃を受け続けている大剣は盾としての役割もあり、最も負担が集中する。それはチェニアもよく分かっていた。
「せっかくコリンが衝撃を吸収するグリップを作ってくれたのに。こんなにしちゃって申し訳ないよ」
「いや、しょうがないよ。一番得物が壊れやすいポジションにいるんだもん。むしろ良くもったほうだと思うよ」
アイに続き、トミーまで武器が寿命を迎えたと知ったチェニアは横に目を走らせた。
(ひょっとして······)
そしてコリンの方に行ってみると、やはりコリンも苦い表情で弓に目を落としていた。
「う~ん。こっちのパーツをこうして······あいや、でもそうするとここが······いっそのこと弓本体を取り替えた方がいいかな······」
「コリン」
「ん?あ、チェニア」
コリンが顔を上げる。
「どうかしたかい?」
「いや、コリンも武器が傷んできたの?」
「うん、実はそうなんだよね。元々カスタムパーツのおかげで性能は上がってるんだけど、本体への負担は大きくて。あれ?『も?』」
「そっか。ふうむ」
チェニアは一度室内をぐるりと見回してから、頷いて声を上げた。
「みんなー、ちょっと集まって」
「お、おい。あれ四葉じゃないか?」
「あ、本当だ。あいつはリーダーのチェニアだ」
「またクエストか?」
「やっぱSランクって貫禄あるよなー」
町の一角に位置する職人通り。そこを四葉の一行は歩いていた。周囲からは好奇の目や羨望の眼差しが送られていた。
そんな様々な視線を堂々と受けて四人は颯爽と歩いた。
「いやー、私達もすっかり有名人だね」
と、チェニアが呑気に言う。
「そんな私達が武器不良で負けましたーなんて言ったらシャレにならないからね。しっかり装備を整えないと」
「あ、ああ」
「う、うん」
「そ、そうだね」
と、後ろの三人はあまり気乗りしない様子であった。
遡ること十分前。
チェニアの招集により集めらたメンバーは次のような会話を交わしたのだった。
「みんなの武器がだいぶ傷んできているので、これを機に各自新しい装備に買い替えて貰おうと思います。はい、拍手」
「えっと、チェニア、ちょっといいか?」
「なに?トミー」
「実は俺、今少し貯金の方が······あんまし余裕なくてさ」
「あ、あたしも。ごめん、ちょっと散財しちゃって······」
「そのー······僕も少し心許なくて」
「へー。みんな意外に使うんだね。でも、それなら安心したまえー」
『?』
「ちゃんとパーティーの共有費から出すから個人の負担額はゼロ。たーんとお使い」
『え?!』
「?どうかした?」
「い、いや、だって······」
「皆のお金をあたし個人のために使うなんて······」
「そ、それは申し訳なさすぎるって言うか······」
その後、いつものような心の声──つまり、『自分なんかのために金なんて使ったら絶対追放される!!』といった三人の訴えを聞いたチェニアであったが、命を預ける武器を粗末な物のままにしておくのはリーダーとして看過出来ず、強制的に三人を連れ出して武器屋へと向かっているのだ。
(みんな、まーたいつもみたく自分なんかーって考え始めちゃったからなあ。でも、ここは譲れない。武器の状態はそのままクエストの成功率や自身の生存率に繋がるから。木の棒で良いなんて事ないのトミー!フォークにしようかじゃないのアイ!パチンコで戦える訳ないでしょコリン!)
武器屋に着いて、チェニアは改めて三人を見回して言う。
「はい。と言うことで、さっきも話したように皆にはちゃんとした武器を買ってもらうからね。皆にはまず武器を選んでもらって、一回私が見てみて、良さそうならそのまま購入となります。いえーい、おおー」
『お、おおー······』
元気の無い返事が三方に別れていくのをチェニアは、やれやれと首を横に振って見送った。
「うん。よし」
(私はリーダーなんだ。たまには心を鬼にして、皆にはちゃんとした良い物を買って貰わないとね。ん?それって心鬼になってるのか?ま、いいや)
──三分後──
「決まったぞ」
「お待たせチェニア」
「ごめん、遅くなった」
三人はほぼ同時に戻った。
「お疲れ様みんな。それじゃあ、はい。トミーから見せて」
「ああ、これだよ」
ズイっとトミーは一本の大剣を見せた。
(おや?てっきり角材でも持ってくるんじゃないかと心配してたけど、とゃんと剣だ)
まともな物が出されたと思い、チェニアが胸を撫で下ろす。
(ん?)
が、しかし。よく見るとその剣は随分とお粗末な物であった。
くすんだ刀身、刃は付いてないに等しい程に研がれていない。
大剣ともなれば切れ味は二の次ではあったが、さすがにナマクラもいいところ。おまけにグリップ部分に至っては滑り止め加工すらされていなかった。
「え、えっとトミー、これは······」
「ああ。なんでも若い職人が練習用に作った剣らしくてさ。非売品だったから格安で譲ってくれるって」
「え」
「あ、あたしも」
「僕も」
「?!」
横で待っていたアイとコリンもそれぞれの得物を出す。
「あたしも似たような感じ。なんか型取り用に作られたやつだからって格安······」
「僕のも店頭の見本用のやつで······」
「······ということは」
どれもタダ同然の非売品。性能もクソもない。
「·········」
サトリの目が心の声を聞く。
(よっし!こんだけ安ければ迷惑にならないだろう!)
(一応武器だし、チェニアも納得!)
(ふう!良い買い物したなぁ。これで無事終了)
「······な訳ないでしょーっ!」
『?!』
突然のチェニアの叫びに三人がビクリと身を震わす。
「みんな!真面目に選んで!自分の命を預ける武器なんだから!クエストでの活躍に直結する物なんだよ!?」
「俺はほら、何だって同じだから······」
(何使ったって役立たずだし······)
「あたし、武器は選ばないの」
(どんなの使ってもザコはザコだし······)
「僕もこれで十分だよ」
(使用者が僕じゃ変わらないよ······)
『·········』
(さ、流石二人だ。何だって強いってか?!)
(こういうの『弘法筆を選ばず』って言うんだっけ?!)
(得物じゃなく、自分自身が最大の武器って事か?!)
互いに感心しあう三人をチェニアはじっとりとした目で見ていたが、やがて名案を閃いたらしく、顔色を明るく変えた。そして、コホンと一つ咳払いしてからニヤリと笑った。
「そうそう、そう言えばさー。武器にまつわる面白い話を最近聞いてねー?」
『?うん』
「なんかさー、この間とあるAランクパーティーですごいミスしちゃった人が居たらしくてー」
『!』
「そのミスってのがー、なんでもー、使ってた武器が安物だったからクエスト途中に壊れちゃって周りにすごく迷惑かけちゃったていう事らしくてさー。他のメンバーに『そんな安物使うとかふざけてんのか!!』ってそれはすごい剣幕で怒られたらしく──」
『ガタガタガタガタ』
「リーダーもカンカンだったみたいでねー。ものすごく怒って怒鳴って罵倒した挙げ句、『お前みたいな役立たず追放だー!!』ってなって、その人はクビに──」
「チェ、チェニア!ごめん!俺ちょっと替えてくる!」
「あ、あたしも別のやつ持ってきちゃってた!替えてくる!」
「そ、そうだ!もう一つ候補があったんだ!替えてくる!」
──ダダダダダダッ──
持ってきたガラクタをひっ掴んで駆け出す三人。またそれぞれ別れて売場に戻っていった。
(いやー。ちょっと意地悪だったかなぁ。でも、これも皆のため)
もちろん、全てチェニアのでっち上げた作り話であったが、メンバーへの効き目は凄まじかった。
(これで皆もちゃんとした物を持ってきてくれるはず。うんうん、よかった)
──十分後──
「チェニアお待たせ!」
「遅くなっちゃった!」
「もう一度確かめて!」
再び三人が同時に帰ってくる。
「お、今度はどんなの持ってきたのかなー?」
「俺はこれだ!」
「あたしはこれ!」
「僕はこれだよ!」
「お、どれどれ──ふえぇ?!」
三人が持ってきたのは、どれも一目で最高級品と分かるような一品であった。何より、今回はきちんと値札が付いており、そこに驚愕の金額が記されていたのだ。
「えっ、ええっ?!に、20万ゴールド?!こ、こっちは?こっちも20万?!えっ!それも20万?!じゃ、じゃあ、合計60万ゴールド!!??」
チェニアが持ってきた予算──つまりは四葉の共有費の総額とほぼ同じ金額であったのだった。
その後、粘り強い交渉の末、少しだけ値引きしてもらい、なんとか三人の新しい武器を購入したチェニアなのであった。
チェニアは余った僅かな資金で自分用の杖も購入した。安物であった。
お疲れ様です。次話に続きます。




