⑭──砦にて······
本日五回の投稿予定です。
最初の五話はおさらい的なやつです。本格的なのは明日からになります。
──ミッスル地方のとある砦にて──
「うわあああああ!!」
「ギャアアアアアアアア!!」
「ぐわああああっ?!」
『グオオオオオンッ』
天をつんざく咆哮。そして堅牢な砦の石壁をビリビリと震わせる地響き。踊り狂うような炎が低く唸りをあげて青藍の夜空を紅く爛れさせた。
星々の海を真っ暗な翼が不気味に覆い隠す。
漆黒の翼がはためけば突風が巻き起こり、再び炎の閃光が辺りの闇を引き裂いた。
そして恐ろしい断末魔と悲鳴が交差し、泣き叫ぶ声すら夜を震わせた。
「く、くそっ!!」
「こ、これが、ブラックワイバーン!!」
「ば、化け物だ!!」
砦を守る兵士らが震え上がる。
彼らの剣槍の先にそびえるのは、漆黒の鱗に覆われたワイバーンの亜種。ブラックワイバーン。
通常のワイバーンは暗緑色をしているが、突然変異により、深紅と漆黒が確認されており、亜種として認識されている。
ワイバーンはただでさえ驚異的な力を秘めているが、亜種はさらに強大であった。
そう。モンスターとの戦闘が専門ではない兵士の人間にとっては尚更──
「だ、駄目だあ!に、逃げろおおぉ!」
「ひいいいいいっ!!」
「待てっ!逃げるな!!」
実戦の機会が減った昨今の兵士にとっては尚のこと、この相手は恐ろしかった。
しかし、逃げる背中は残忍な爪と牙に容赦なく引き裂かれ、血の雨が降った。
「く、くそっ!」
深手を負った兵士長がその場に膝をつく。もう戦う事も、逃げる事も叶わない。進退を窮まっていた。
『グオオオオオッ』
勝鬨のようなブラックワイバーンの咆哮に兵士長も、残った兵士らも絶望して死を覚悟した。
凶悪な牙が彼らに迫る──
その時であった。
『秘術、ライトレイ・ラストレイ!浄化の光よ魔を滅せよ!』
どこからともなく美しく澄んだ詠唱がひびきわたり、その声が終わると同時に夜空に無数の流星群が出現した。
いや、それは流星ではなかった。光輝く矢。何百何千という光の矢であった。
矢の大群は、光の豪雨の如く落ち、ブラックワイバーンに降り注いだ。
『グオオオオオンッッ』
兵士達の矢も、剣も、槍も弾いた強固な鱗を光の雨は貫いていった。
竜の雄叫びが辺りを震わす。
兵士達が瞠目して騒ぎ出す。
「な、なんだ?!」
「なんだ、あの光は?!」
「か、神の加護か?!」
混乱する前線に早馬に乗った伝令が駆けつけて叫ぶ。
「伝令!冒険者ギルドへの応援要請が受理!たった今応援が到着しました!」
その伝令の声に、指揮官も怒鳴り返すように応えた。
「本当か?!来てくれたか?!何人だ?!」
「そ、それは、四人ですっ!」
「なんだと?!」
伝令の回答に指揮官が思わず耳を疑う。
「そ、それは先行隊だろう?」
「いえっ、間違いなく主力かと!」
「ば、馬鹿な?!ブラックワイバーン相手にたった四人で何が······!」
そんな問答をしている間にも、渦中のブラックワイバーンをいくつもの上級魔法が圧倒していた。
(す、凄まじい攻撃だ!これだけの上級魔法をこんな短期間に続けて放つとは、援護に来た四人は全員高名な魔術師か?!)
指揮官は伝令の情報と、目の前に展開されている光景の差異に戸惑いながらも、すぐに命令を下した。
「負傷者を今の内に運び出せ!動ける者はバリスタ用意!!」
その命令と同時に、夜風を震わせた長槍が宙を駈け、ワイバーンの首に深々と刺さった。それは槍ではなく、特別製の矢であった。
その矢は部下の兵士が放ったバリスタだと思った指揮官が叫ぶ。
「おおっ!やったぞ!誰だ、誰がやったのだ?!」
「あっ!あそこです!こ、子供のようです!」
「何?!」
離れた見張り台の櫓。その上に立ち、弓を構える少年が一人。
今しがたの矢はその少年が放ったらしかった。
「あ、あんな少年が?」
驚く指揮官を他所に、また兵士の間から驚きのどよめきが起こった。
「な、何だ?!あの影は?!」
「?!」
轟きを上げ続けるブラックワイバーンの身体を靄のような、影のような何かが纏わりついていた。
その影は時折鋭く細い光を瞬かせた。
『オオオオオオッッ』
ワイバーンが暴れだす。その度に血の雨が降った。身体中に刻まれた細い切り傷から飛び散った物であった。
巨体が一段大きく震えると、身体を這い回っていた影がサッと身を翻して離れる。それはあやふやな影から、確かな人影へと変わった。
「少女です!あれは少女です!エルフ?竜人か?!」
亜人の少女はふわりと地面に降り立つと、ワイバーンの吐く炎をすれすれに避けながら退いていった。それを恐ろしい牙が怒り狂って追う。
亜人の少女が姿をパッと眩ます。
ブラックワイバーンが目標を見失い、凶牙を空に遊ばせた。
そこへ──
「おりゃああああああ!!!」
物陰から飛び出した人物が一人。細身長身の、戦士とは言えない体格のその男は、身の丈程もある巨大な剣をブラックワイバーンの腹部に薙ぎ払った。
再び辺りを咆哮が震わせる。寝静まったはずの森が、山々が、ビリリとその静寂を引き裂かれていく。夜は恐怖に狂っていた。
しかし、そんな恐怖に怯まず揃った者達が居た。
「お待たせしました」
「?!」
それまで半ば呆然としていた兵士らの後ろから、落ち着いた声がかかった。
指揮官を始め、兵士らが振り返る。
そこには、白いローブに身を包んだ小さな魔道師の少女が立っていた。
指揮官がハッと我に返る。
「き、君は?ここは危険だ!早く逃げなさい!」
「······いえ」
スッと一歩前に出る少女。杖を天高く掲げる。
「私達が援軍です。ギルドの要請で来ました」
「何?!」
ブラックワイバーンを、男の大剣が斬り断ち、亜人の少女の影が惑わし、少年の矢が釘付けにする。
そんな三人に少女が大声で呼び掛ける。
「みんな!行くよ!」
「おう!」
「ええ!」
「ああ!」
「トミー、アイ、コリン!私の詠唱まで時間を稼いで!」
『おおっ!!』
トミー、アイ、コリンの三人の返事を受けて、その魔道師の少女、チェニアが魔力を漲らせる。
「みんな、頼りにしてるよっ!」
たった一匹で、数百人の兵士が守る砦を壊滅まで追い込んだ強大なモンスター、ブラックワイバーン。
そのブラックワイバーンをたった四人だけで制圧し、討伐したその四人の名前を、この砦の兵士達は後世に語り継いだと言う。
「昔な、伝説の冒険者達が居たのだ。そのパーティーの名前は幸運を意味する『四葉』。最強のSランクパーティーだ」
しかし、それはまた未来の話。
これは、そんな伝説に残る最強の四人の意外な一面と、裏の奇妙な日常の話である──。
お疲れ様です。次話に続きます。




