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⑪──ついに追放

 


『グオオオオーッ!!』


「とどめ」


 巨大な氷柱が何本も降り注ぎ、キュクロプスの身体を貫く。

 巨体が地響きをたてながら地に臥す。



「ふう。すこしオーバーキルだったかな」



 そう言いながらチェニアが杖を下ろすと、トミー、アイ、コリンら三人も戦闘態勢を解いて周囲を見回した。


「周りりにモンスターはいないみたいね」

「うん。じゃあ証拠品の素材回収しよっか」

「あ、僕やるよ」

「ん。任せた」


 いつものように滞りなくクエストをこなした四人はモンスター討伐の証拠品を採取した後、帰路についた。険しい山道の岩肌をゆっくり下っていく。



「けっこう登ったな」


 トミーが崖下を覗きながら言う。


「どこまでも森の海だ。絶景だな」

「そうね。綺麗」

「自然豊かだからモンスターも多いんだね」

「みんな落ちないでね」



 ゆっくりとしたペースで下山していく四葉の一行。

 一時間ほど経った所で、山道は終わり、木々の立ち込める森へと変わった。

 少し開けた日の差し込む場所を見つけると、四人はそこで昼食を摂る事にした。近くには川も流れていて、自然音が心地良い場所であった。



「はい、トミー。燻製肉」

「お、サンキュー」

「チェニア、はい、ジュース」

「ん。ありがとう」



 香ばしい匂いと、果実の甘い香りが漂い、緩やかな時間が流れる。メンバーの表情も和んでいた。



「ねえねえトミー」

「ん?なんだチェニア」

「私もその肉食べたい」

「お、そうか。ちょっと待っててくれ、今切るから」

「わーい」

「ねえ、チェニア。その包みなあに?」

「これはキャンディだよ。今時女子に人気の。アイもいる?」

「うん、ちょうだい」

「コリンもいる?」

「ありがとう。ちょうど甘いのが欲しかったんだ」

「そーら。チェニア、肉だぞー」

「ありがと、トミー」

「お、アイ、肩に蝶蝶が止まってるぞ?」

「え?あ、本当だ。気がつかなかった」

「はは、アイの事を綺麗な花だと思ったのかもね」

「そうだな。きっとそうだ」

「もう、コリンもトミーも調子良いこと言って」


「·········」


 和気あいあいとしている穏やかなメンバーの様子を見て、チェニアはそっとほくそ笑んだ。



(今日は良い連携とれてたし、みんなも自信持てたみたいだ。良い顔してる)


 リーダーとして、常日頃からメンバーの様子を気にかけているチェニアはいつもよりリラックスしている三人を見て安心した。



(うんうん。こうやって仲が良いのが一番だね。なーにが追放だ)



 三人の前世の記憶から、追放系小説なる分野の情報を読み取っていたチェニアだったが、その内容には懐疑的であった。パーティー脱退の話は実在するものの、小説にあるような凄まじいまでの悪質な追放なんて見た事なかったからだ。



(異世界人の想像する事は良く分からないや。この人達の居た世界では他人にメッタメッタな罵詈雑言を浴びせるのが日常茶飯事だったのかな?)


「あ、コリンほっぺにマスタードついてる」

「わ、恥ずかしい所を見せてしまった」

「あたしのオリジナルサンド、どうだった?」

「そりゃあ、すごく美味しかったよ」

「ふふ、良かった」

「お、コリンモテるなー。このこの、羨ましいぞ」

「ト、トミーからかわないでよ」


(······いや、そういう文化があったようには思えないし、所詮創作物は創作物か)


 と、自己完結して茶をすすっていたチェニアの耳に突如として


『うう、だ、誰か······』


 という、かすれた声が聞こえた。


「?」


 チェニアがキョロキョロとして辺りを見回す。それに気づいたアイが声をかける。


「チェニア、どうかしたの?」

「えっと、今誰かの声がしたような」

「え?」


 トミーとコリンも話を止め、耳を澄ました。パチッという焚き火の音と川の流れる音以外何も聞こえない。


「うーん。気のせいかなあ」

「待ってて、今調べてみる。『探知』」


 と、アイがスキルを発動した。探知は周囲の生物の気配を察知する力だ。


「·········あ、誰かいる」

「本当?」

「うん。ここから近い。ここの川沿い。あれ?反応が、ちょっと弱い?」

「·········」

「よし。俺少し見てくるよ」


 すくっとトミーが立ち上がる。


「アイ、案内してくれるか?」

「うん。コリン、チェニアをお願いね」

「わかった」

「じゃ、行こトミー」

「おう」

「気をつけてね」


 トミーとアイの二人が木々の間に入っていく。

 チェニアとコリンの二人が、じっと見て待っていると、トミーとアイの二人はすぐに帰ってきた。正確には三人になって。トミーの背中にぐったりとした少女がおぶさっていた。


「え?その子どうしたの?」


 立ち上がったチェニアが迎えるとトミーは困った顔をした。


「分からない。そこの川辺で倒れていたんだ。チェニア、ヒールしてもらえるか?」

「うん。わかった」


 チェニアがヒールを施している間にアイとコリンの二人は手際よくホットミルクを作りにかかっていた。


「う、うう······ううん······」


 程なくして、チェニアのヒールが効き始め、意識の無かった少女が目を覚ました。


「あ、あれ······?ここ、は······」


 まだぼやけた目を辺りに這わし、上体を起こそうとする少女の体をチェニアが支える。


「あんまし無理しないで。怪我は治ったけど、あなたは随分弱ってるみたいだから」

「は、はい······」


 まだ顔色の悪い少女に、アイがホットミルクの入ったコップを渡す。


「はい、ホットミルクよ。砂糖入れて甘くしてあるから。熱いからヤケドしないでね」

「あ、ありがとうございます」


 四葉の一行が見守る中、少女はゆっくりと飲み、少しづつ生気を取り戻していった。


「美味しいです。とっても甘くて、温かくて······」

「それは良かった。ところであなたは?どうしてこんな所に一人で倒れてたの?」


 チェニアがそう尋ねると、少女は「えっと······」と言って口ごもってしまった。


「?」


 チェニアはこっそりサトリの目を使い、少女の記憶を覗いてみた。



『この役たたずが。わかんねえのか?お前はクビって事だよ』


(······え?)


『今まで荷物持ちとして使ってやったのに口答えしやがって。ふん。俺の言うことに逆らうからだぜ?』

『アハハハ!あんたって本当バカじゃん!自分の実力も弁えずに!』

『よーし、俺がこいつのアイテム有効活用してやるよ。オラっ、ポーチ寄越せ。クックッ、良いもん持ってんじゃねえか。ああん?返せだ?ガタガタ抜かすな!』

『かっわいそー!ほら、これあんたの弓。あ、ごっめーん。手が滑って滝に落ちちゃった!』

『おっ!自分から滝に飛び込んだぞ!バカだな!』


「············」

(なんじゃこりゃ······)


 まるでトミー達の記憶の中にあった追放小説の一場面じゃないか──チェニアはそう思った。


(あ、そっか。実際に追放された時の······)


 その他の少女の記憶を読み明かしていき、大まかな事情を飲み込んだチェニアなのであった。

 把握した上でチェニアは、少女の背中を優しくさすって言った。


「無理にとは言わないけど、もしよかったら何があったか話してみて?人に話すだけでも楽になれるから」

「······は、はい。えっと······」


 促されて少女が重い口を開く。


「実は············」



 少女は隣町のギルドに在籍する駆け出しの冒険者で、五人からなるCランクパーティーに見習いとして所属していた。後方支援のアーチャーと、荷物持ちなどでクエストに尽力していたという。

 ところが、つい半日前に、ここより少し北へ行ったエリアのクエスト中にパーティーリーダーからクビを言い渡されたと話す。


「リーダーには前から言い寄られていて······お酒の席とかでも体をベタベタ触ってきたりしてて、それが嫌だって伝えたらその日から態度が急変して······」


 それからというもの、何か事ある毎に彼女を執拗になじって暴言を浴びせたという。


 役立たず。ザコ。無能。実力不足の恥知らず。荷物持ちのくせに一番のお荷物が。


「で、でも、本当の事でしたし······私みたいな半人前じゃあCランクパーティーには相応しくなかったし······」


 そして追放宣言の際に食料や貴重品の入ったポーチを取り上げられ、さらには父親からプレゼントしてもらった大切な弓も滝に投げ捨てられてしまったのだ。


「私、バカだったから。そのまま滝に飛び込んじゃって。なんとか命拾いしたんですけど、そのまま川に流されて······」


 陸に上がった所で力尽きて倒れてしまい、それをアイが発見した。という話であった。

 話が終わったところでチェニアが怒りを露にする。


「酷いね。冒険者の風上にも置けない輩だね。ねえ、みんな」


 と、チェニアが他メンバーの同意を求めて振り向くと、そこには顔を真っ青にしてガタガタ震える三人の姿があった。


「あ、あれ?みんな?」


『ガタガタガタガタガタガタ······』


(や、ややややややっぱりあるんだ······!)

(ホ、ホホホホホントの追放······!)

(ま、まままままさかこんな身近に······!)


「お、おーい。みんなー?」


「うが、うががががっ······」

「はわ、はわわわわわ······」

「あ、あばばばばばば······」



(すっかり忘れかけていたが、俺だって本来は追放される立場にいるんだった!!この少女のように!もう、終わりだああああああ!!)

(ああっ!今のこの子は将来のあたしの姿なんだ!そうだよね、いつ追放されてもおかしくないのに、あたしったら呑気に······)

(これが現実!そうだった、この世界は残酷なんだ!少しでも不要と思われれば酷い仕打ちを受けるんだ!ああっ······もう、ダメだ)



「············」

(しまった。聞かせるべき話じゃなかったか······)


 すっかり戦々恐々となり顔面蒼白の三人であったが、そのフォローよりも少女の保護を優先すべきだとチェニアは判断し、少女にこう提案した。


「私達さ、今から町に帰るところなんだ。一緒に行こう」


 チェニアがそう言うと少女が驚いた顔をした。


「え?!いいんですか?」

「うん。ちょうどクエストの帰りだしね。このまま一人にさせる訳にもいかないし」

「あ、ありがとうございます。すごく助かります」

「ん。決定」


 チェニアは立ち上がって他のメンバーに声をかけた。


「みんな、予定変更。すぐに出発して町に戻るよ」


『············』


 しーん。


「あ、あれ?おーい?みんな~?」


(も、もうダメだ······俺も追放だ······)

(あたし、死ぬのかな······)

(どうせ死ぬなら仲間の盾に······)


「·········むっ」


 チェニアは眉を寄せて大きな声を出した。


「みんな!」

『?!』

「話聞いてた?この子を無事に町まで届けるよ!はい、立って、きびきび動く」

「わわわわかった!」

「ご、ごめん!すぐに!」

「い、今っ片付けっ!」


 慌ただしく退却準備を終えた一行は少女と共に出発した。チェニアが少女の手を引く。


 道中、少女は申し訳なさそうにしていた。


「すみません。私のせいで······」

「ううん。困った時はお互い様」

「ありがとうございます······あの、皆さんはパーティー組んでから長いんですか?」

「うん?ううん、一年くらい」

「そうですか」


 少女がほろりと表情をほどいた。


「なら私と同じルーキーなんですね。ちなみにランクは?あ、差し支えなければなんですが······」

「Sだよ」

「そうですか、S······え?エス?」


 少女が首を傾げる。


「あ、あれ?Sなんてランクありましたっけ?」

「あるよ。一応Aランクの上にね。特別ランクだからほぼ例外ランクだけど」

「え、ええええぇ?!」


 少女がすっとんきょうな声を上げる。


「そ、そんな凄いパーティーだったんですか?!あ、そう言えば一回だけ話は聞いたことあるような······私の町にはいなかったし、都市伝説的なやつだったし······」

「正式なランクじゃないみたいなもんだしね。ギルド全体でも十組無いみたいだし」

「もう凄いとかそんなレベルの話じゃないじゃないですか?!す、凄すぎる!」


 少女が興奮してトミーら三人に振り向く。


「みなさんがそんな凄い人達だったなんて!私、感動です!」

「ハハハ。マアネ」

「デショデショ」

「テレルナァ」


 話を振られた三人は死んだ目をしたまま、カタカタと口だけ動かしていた。


(そりゃすげえよな。俺、やっぱダメだ······)

(そんな中に混じるクソザコナメクジがあたしです······)

(フフフ。僕はすぐに追い出されてしまうけどね······)


(······みんなもっと自信持とうよ)


 サトリの目で声を聞いているチェニアは小さく肩を落とした。


 そんな三人とチェニアの内心など知りようのない少女が寂しげに笑って言った。


「羨ましいです」

「え?何が?」

「いえ、そんな凄いパーティーで活躍出来るなんて。私とは違う。皆さん一人一人がちゃんとSランクの資格があるって事ですもんね」


(無いんだよおおおおおおお!!)

(無いのおおおおおおおおお!!)

(無いんだってええええええ!!)


 心の叫びがうるさかったので、チェニアは一旦サトリの目を閉じて、少女の話に耳を傾けた。


「私なんてCランクの実力が無かったばかりに······もっと強ければ運命は変わっていたんでしょうね。私には不相応だったんです。輝いた宝石の中に一つだけ石ころが混じっている。そんな感じだったんでしょう。周りの実力のおかげなのに、何も力になれてない自分が同じ称号を持つなんて変ですもんね。一人だけ役立たずなのに皆のおかげで強く見えていた。それだけだったんですね」

「ウン、ワカルヨソノイケン」

「イイエテミョウネ」

「ナルホドー」

「ごめん三人とも。少しだけ黙ってて」


 チェニアはすぅっと息を吸うと、少女に向いて言った。


「ハッキリ言うけど、その考えは間違ってるよ」

「え?」


 少女が思わず立ち止まる。チェニアも、後ろの三人も止まる。


「あのね。実力がどうとかなんて重要じゃないの」

「でも······」

「もちろん強ければそれに越した事はないよ。でもね、パーティーっていうのはそれだけで強くなる訳じゃない」


 チェニアはそっと目を閉じた。


「自分には無い何かを仲間に補ってもらって、仲間が苦手な所を自分がフォローする。支えあって助けあうのがパーティー。どんなに強くても気持ちがバラバラだったら一人で戦ってるのと同じ。だからね、役立たずなんて誰も居ないよ。心が一つで、他の人の為に一生懸命やってくれる仲間が集まれば実際の人数よりはるかに強くなれる。そう──」


 チェニアは後ろの三人に振り返ってウインクし、少女にも笑ってみせた。


「私達のように」

「······はいっ」



 少女の元気な返事を聞いてチェニアはニッコリと笑った。


「さ、帰ろうか。最後まで気を抜かないのもSランクの嗜みだよ」



 一行は無事に帰還し、何度も礼を言う少女と別れて自分らのクエスト達成報告を終えた。





 後日。


 ギルドの酒場で、新しい仲間達と楽しそうにクエスト受注をしている少女の姿を見かけてチェニアはそっと微笑んだ。










お疲れ様です。次話に続きます。

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