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①──Sランクパーティー

ファンタジー世界の日常を描いた作品となっております。冒頭三話までは続いておりますが、以降は基本的に一話読み切りとなっております。

日替わり定食感覚でお楽しみ下さい。


※追記・本作には未成年による飲酒等の描写が含まれておりますが、法律違反を推奨するものではありません。お酒は二十歳になってから。

 

 ミッスル地方のほぼ中央に位置する町、ウイードス。


 雄大な自然に囲まれ、大陸の東と西を結ぶ大河を有したこの地は古くから交易所として栄え、やがては商人や巡礼者達の旅路として定着していった。


 人が集まれば必要な物も集まる。食料から始まり、木材とそれを切り出す木こり、建築家に大工、石工士、職人、医者······やがては巨大なコロニーとなり、いつしか町へと変貌した。


 町に必要な物。その中には冒険者も含まれていた。


 雄大な自然に囲まれたウイードスは、常に自然の脅威とモンスターと戦わなければならなかったのである。



 時は流れ、今では地方都市にまで成長したウイードスのその中心部には冒険者ギルドの建物が堂々とそびえていた。


 学や身分に恵まれないような若者達にとっては、その佇まいは夢と憧れの象徴でもあった。

 実力さえあれば誰でも冒険者になれ、実績さえあれば大きな対価を得られたからである。


 それは富か名声か、あるいは己の夢か。


 彼ら冒険者は大抵パーティーを組む。その方がより多くの功績を上げられるからだ。そして、ほぼ例外無くパーティーはある目標を持つ事となる。


 それは高ランクパーティーの称号を得る事。


 冒険者ギルドにはランクというシステムが存在する。いわゆる成績、そのパーティーのレベルだ。

 Fランクから始まりAランクを最上とするグレード制だ。誰もがAランクを目指した。


 しかし、パーティーランクにはもう一つ上のランクが存在する。Aランクの上······いや、別物として扱われる特別なランク。


 それがSランクだ。


 それは全ての冒険者の憧れであり、夢であった。ただし、手の届かない夢物語のような······。









 ──冒険者ギルド──



 中は入ってすぐ酒場になった空間で、薄汚れたテーブルとイスが軋んだ音と共に木の床を叩いて冒険者らと共にタップダンスを踊る。


 壁際に積まれた酒ダルの横には斧と槍がもたれかかって、弓や杖が隅で寄り添う。

 ジョッギの噛み合う音、膨れあがる酒の香り、薄霧のように漂う焼けた肉の匂い、破裂するように産まれる笑い声。


 そんな独特な空気の漂う場所が、クエストの受注場であり報告を行うカウンターでもある。



 バカ笑いの合唱を響かせる荒くれ者達をよそに、受付カウンターに立つ若い受付嬢がそわそわした様子で時計と出入口をと見比べていた。



「大丈夫かなぁ」

「どうしたの?」


 先輩の受付嬢が声をかけた。


「妙にそわそわしてるわね。トイレなら今の内に行ってきなさい」

「違います。ただ、先程クエストに行った方達がまだ取り消しに来ないんで······」

「さっきの?ああ、()()()()()?」


 先輩がそう言うと受付嬢は不安そうに頷いた。


「だってあのクエスト書を見ましたか?レッドワイバーンの討伐ですよ?ただでさえワイバーンはAランクパーティーにとっても強敵なのに、それの亜種となると······」


 そう言いながら受付嬢はまた時計の方を見やった。


「もう四時間も経ちます。なんで戻って来ないんでしょう。まさか本当に挑みに行ったんじゃ······」

「当たり前でしょう、受注したんだから」


 先輩が呆れて言う。


「受けといて、ダメでしたーってパターンはあるけど、やっぱり止めまーすってパターンはあまり無いわよ」

「でもっ、()()ですよ?ワイバーンは普通十人以上で挑むのが常識なのに。それだって選ばれた精鋭での話ですし」

「なら心配は要らないわ」


 先輩の受付嬢は意味ありげに笑ってみせた。


「貴女はまだ入ったばかりで知らないだろうけど、さっきのパーティーはね──」


『おおっ、帰ってきたぞ!』


 二人が話し込んでいると誰かの大声がした。

 その声に呼応するかのように、その場に居合わせた冒険者らが一斉に色めき立った。


「まじかよ!全員いるか?」

「本当にレッドワイバーンを倒してきたのか?!」

「おい、どうだ、その窓から見てみろよ!」

「逃げて帰ってきたんじゃないのか?」


 様々な声がギルドの入り口や窓にどよどよと押し寄せる。しかし、その人だかりはすぐに驚きの声を上げた。


「あっ、あれ見ろよ!レッドワイバーンの翼じゃないか?!」

「すげえ!灼熱の赤き翼!本物を見るのは初めてだ!」

「あ、こっちに来るぞ!」


 野次馬達は入り口から慌ただしく離れると、まるで王を迎える親衛隊のように、カウンターまでの通路を挟んで左右に別れた。


 すぐにギルドの扉が開かれ、一人の人物が現れた。


 少女であった。華奢で小柄な体、ダボついた白いローブを身に纏い手にはクリスタルをはめ込んだロッドを携えている。少し童顔で、髪は長く、前髪が目を片方隠すようにして伸びている。

 その少女の後ろからまた一つ、二つ、三つの影が現れる。


 巨大な剣を背負った長身の男。年は三十近い。顔に擦れた疲労感を滲ませた覇気の無い風貌が後ろの大剣をより際立たせている。

 その後ろから入ってくる少女は長く尖った耳にかかる髪を掻き揚げ、切れ長の目尻をさらに細めた。腰には二本の短剣を差している。

 その隣に居る少年は、一見少女と見間違えるような容姿で、手に持つ弓をしきりに気にしていた。


 この四人からなるパーティーは颯爽と歩き、他の冒険者が見守る中カウンターへと向かった。

 受付嬢が安堵して迎える。


「良かった。なかなか帰ってこないから心配したんですよ」


 そう言ってから受付嬢は笑いかけた。


「クエストの取り消しですね?依頼書にサインしていただければ後はこちらで処理します」

「?」


 その言葉に白ローブの少女が首を傾げる。後ろの三人も訝しげに眉を寄せた。


 少女が聞き返す。


「あの、取り消しって何の話ですか?」

「レッドワイバーンの討伐依頼ですよ。いくらなんでもたった四人のパーティーじゃ無理ですもんね。ごめんなさい、私まだこの仕事に慣れてなくて」

「·········」


 少女は受付嬢を少しの間見つめていたが、やがて首を小さく横に振った。


「取り消しじゃないです。報告に来ました」

「え?」


 受付嬢が聞き返す前に、少女はカウンターに大きな角をゴトっと置いた。


「レッドワイバーンの角です。他の素材は荷車に乗せて外に置いてあります」

「·········え?もしかして······討伐、されたんですか?」

「はい」


 少女が頷くと他の三人も無言のまま頷いた。


 受付嬢は唖然として、口を開けたままになっていた。


「失礼します」


 少女はクエストの受注書を角の横に添えて置くとそのまま踵を返して後ろの三人を見回した。


「みんなお疲れ。行こっか」


「ああ」

「うん」

「だね」


 四人がギルドの扉に戻り始めると、それまで黙って見ていた周囲の冒険者らがどっと歓声を上げた。


「うおおお!すげえ!」

「四人で本当に倒しちまいやがった!」

「一匹で百人の騎士を失うと言われるあのレッドワイバーンを!」

「しかも無傷じゃねえか!」

「さすがS()()()()!」


 あられのように降り注ぐ拍手や称賛を浴びながらその四人──Sランクパーティー『四葉(ラック・クローバー)』はギルドを出ていくのであった。



 冒険者なら誰もが一度は夢見る称号。Sランク。

 その称号をパーティー結成からわずか一年足らずで手に入れた最強パーティー『四葉』。

 彼らはこのウイードスギルドの冒険者達の憧れであり目標であった。



 しかし、誰も知らない。



 一見すると非の打ち所のない精鋭パーティーの知られざる苦悩を。




 これは、そんな最強でありながらも少しちぐはぐな問題を抱えた四人が織り成すちょっとだけ変わった日常のお話。




お疲れ様です。次話に続きます。

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