そ、そーゆー……えっちなやつ(?)
XXX-2413-39X0。東山の白くて細い脚にマジックペンで書いた。スカートでギリギリ隠れる位置。
「俺の電話番号。何かあったらここに連絡して」
「うん!西海くん、捕まっちゃダメだよ?」
作戦としては、こうだ。東山がまず家に帰って、アリバイ工作をする。その間に俺は教室で証拠隠滅。それが終わったら、俺の秘密基地で合流だ。なんて簡潔で明快な計画なんだろう。
「俺が捕まるわけないじゃん!また会おうね」
「ふふっ、絶対二人で逃げようね!」
お互いが違う方向に歩き出す。教室に鍵をかけた、俺は東山の血だらけのブレザーを羽織った。血なまぐさくて気持ち悪い。どーせ死ぬんなら媚び売らなきゃ良かった。骨折り損。
「よくも散々、扱き使ってくれましたよねー?先生」
考えれば考えるほどムカついたので一回金玉蹴っといた。何だか心がスッキリとした。ガムテープ貼って密閉空間を作って、調査をなるべく遅らせたかったので、混ぜるな危険の洗剤二種を混ぜ合わせて、塩素を蔓延させた。あとは遊び心で
A taste of your own medicine
と黒板に書いておいた。
堂々と教室から出て、トイレで鍵を流した。はい、これで密室の出来上がり。非常階段から降りて防犯カメラを避けた。東山は今頃、何してるんだろう。と下校途中に思っていると、公衆電話から電話がかかってきた。
「西海くん、秘密基地の場所って何処だっけ〜?」
という東山の気の抜けるような声。本当に殺人犯なのか疑いたくなるくらいだ。
「えーっと、ちょっと待って、今、何処の公衆電話にいるの?」
「大型スーパーの近くのところ!」
「分かった。俺がそこに行くから、東山はそこで待ってて」
「了解、待ってるよ!」
ガチャン、と切られた。てか、あの情報量で分かるとか俺天才か。家出して歩き回ってるだけあるな。
「東山、お待たせ!」
「西海くんだ!はあ良かったあ、生きてるう」
彼が俺の方に子犬のように駆け寄ってきて、その勢いのままギュッと俺のことを抱きしめてきた。何か、彼女みたい。
「あはっ、大袈裟すぎ!」
「西海くんが僕のせいで警察に捕まっちゃって、僕のせいで拷問させられてたらどうしようって……」
「東山を逃がすためなら、俺は拷問如きじゃ弱音の一つも吐かないよ?」
って東山のサラサラな黒髪を撫でた。
「ううっ、西海くん、」
「何?」
「……好きになっちゃダメ?」
とっくに俺に惚れてるって顔してるくせに、今更。
「良いよ、もっと好きになって。その代わり、俺以外見ちゃダメだから」
ってその柔らかな頬に軽くキスをした。すると、一気に顔を真っ赤にして、
「西海くんしか、いないよ……」
と可愛らしく呟くから、俺さえも恋愛脳になってしまいそうだ。小さな頃はキスしたら妊娠すると思ってた。成長するにつれて、どんどんと下心が働くのは、汚れた恋愛しか大人達がしてこなかったからだ。
「ミア、ジュース何飲む?」
さり気なく名前を呼び捨てにしてみた。
「……(?)」
反応無し。
「ミア?」
「あっ!ごめん!!ぼーっとしちゃってた……」
俺から不自然に目線逸らして、いきなりの名前呼び捨てにパニクっちゃってんじゃないの?
「大丈夫?何か考え事してるの??」
って、東山の肩をさりげなく抱いて、俺は優しい彼氏っぽいのを演じている。
「ううん、大丈夫だよ!何の話してたっけ?」
東山は俺から一歩距離を置いて、泣きそうな顔に無理して笑顔を貼り付けていた。俺は殺人犯の気持ちは分からないが、何かが東山の心を蝕んでいるのは分かった。
「ミア、これ知ってる?」
「何それ」
コンドーム。
「やっぱ知らないかあ。純粋そうだもんね!」
「あ、その反応で分かったかも……」
「ふふっ、何でしょう?」
「そーゆーやつなんでしょ、どーせ」
下ネタに対して面白いと思ったことはないが、恥ずかしがってつっけんどんな態度を取る東山の反応は面白いと思ってしまった。
「そーゆーやつ、って?」
「そ、そーゆー……えっちなやつ(?)」
と頬を赤らめながら小首傾げて聞いてくる東山の、なんと可愛らしいことか。
「あははっ、可愛いな〜♡」
無知、は可愛い。ということを知った瞬間であった。