アムカって後々にかゆくなるから嫌だ
僕は取り調べ室にずーっと拘束されていた。これ、人権侵害なんじゃないかな?って思ったけど、僕に人権なんてありはしないから納得した。
「何故、西海 朔良と一緒にいた?」
それは僕とサクちゃんは恋人同士だからだよ。なんて僕が嬉々として言ってしまったら、サクちゃんまで変な容疑をかけられてしまう。僕は目を泳がせながら、ゆっくりと口を開いた。
「……僕がサクちゃんのことが、好き、だから。脅したの、僕のことを匿うように」
「それであの空き家に?」
「サクちゃんの秘密基地なんだって。サクちゃんの身体、アザだらけだった。暴力を受けてるみたい……」
思い出すだけでもイライラして、アムカ跡をつねった。サクちゃんのこと、僕が守ってあげたいな。という感情とともに浮かんでくるのは、サクちゃんを傷つける誰かさんへの殺意だ。
「そうか。それは住居侵入罪で処罰しないとな」
「は?なんでサクちゃんの処罰なの??」
「家庭の問題は児童相談所に任せるしかないんだ」
諦めたようにその話を終わらせようとする警察官。僕はその態度にイライラが止まらない。
「列記とした暴行事件だよ?何で動かないの??」
「被害者からの相談なしに動けるわけないだろ」
って若干叱られた。僕は不貞腐れて、暴力を受けているサクちゃんよりもサクちゃんの父親を、いじめられていた僕よりもあのクズ教師を大事にする警察官に呆れて、僕は目の前にいる警察官を蹴り飛ばして逃げた。手錠で手首が擦れて痛いけれど、そんなの気にしてる暇なんかなくて必死に逃げた。
空が青かった。逃げ切った先で大きく息を吸って、吐き出した。お金も制服も全て奪われた僕だったが、何故か、身軽で自由だった。
「おぉ、君!ここの屋上は立ち入り禁止だよ?」
一人の老人がほうきを杖代わりにしながら、僕の方へと歩いてきた。きっと目が悪いんだろう。僕の手錠に気が付いていない。
「僕、自殺しようと思うんです。だから、ここに来たんです」
「へぇ、そうかい……。自殺はダメだ。地獄に堕ちるぞ!」
一旦、和やかに頷かれたと思いきや、態度が急変して、取り憑かれたように迫力のある顔して僕の腕を掴んできた。
「えへへっ、僕はもう地獄行き確定だから……」
「君、愛する人や家族はいないのか?」
「え?」
「最期に会いたい人はいないのか?」
そう言われて、ずーっと想っている彼に無性に会いたくなった。寂しくて寂しくて泣いてしまいそうだ。
「おじいちゃん!携帯借して!」
死のうとしていた奴とは思えないほど、生き生きとして清掃のおじいちゃんに両手を差し出していた。
「……おぉ」
おじいちゃんはらくらくフォンを僕の手のひらにゆっくりと乗せた。僕は太ももの文字が見たくて、ズボンを脱いだ。手錠をしている手ではうまく脱げなくて、歯も使いながら滑稽な姿を晒してまで、僕はサクちゃんと会いたくて必死だった。XXX-2413-39X0。よし、できた!
「もしもし?東山 晦悪だけど───」
「ミア?」
「うん、サクちゃん?」
「あぁ、ミア!電話してきてくれたんだね。声が聞けて嬉しいよ」
電話口のサクちゃんはとっても嬉しそうな声をしていて、その声を聞いていると僕も胸が高鳴った。
「サクちゃん……!僕もサクちゃんの声、嬉しい!!」
「ふふっ、可愛いね。ミアは」
「会いたいよお、サクちゃん」
最期に一目見るだけ。それだけにする。そしたら、僕は地獄に行くから。どうか神様、それだけは許してください。
「わかった。今から行くね」
その彼の言葉に僕は大粒の涙を零した。