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デリンクエンテ・ボーイズ  作者: 小判鮫
10/12

メリーさんのひつじ

警察の五月蝿いサイレンで目を覚ます。寝惚け眼で隣りに目をやると、そこにいるはずの彼がいなかった。それを脳内で認識した瞬間、背筋に霜が降りて目が一気に冴えた。バッと後ろを振り返った。


「サクちゃん!!助けて!!!」


という脳に劈く声。二人の警察官に両腕を拘束されているのを、泣きじゃくって暴れて抵抗している東山が見えた。俺は飛び起きると無我夢中で警察官に殴りかかっていた。けれど、俺は無力だった。警察官の数の暴力には敵わない。すぐさま取り押さえられて、身動き取れなくなった。


「ミアを離せ!!ミアは俺のだ!!!」


と暴れまくって、思い付く限りの暴言全てを吐いて警察官を罵倒し続けた。けれど、大人というのは聞く耳を持たない。東山とは違うパトカーに無理矢理乗せられて、取り調べ室へと連行された。


「君と一緒にいた人物の名前は?」


「東山 晦悪です」


ここまで来る途中に冷静さを取り戻して、虚無感が押し寄せてきた。今までのが非現実だとぶん殴られて気づかされたみたいだった。


「東山 晦悪と君の関係性は?」


「クラスメイトです」


「君は事件があった当日、何をしていましたか?」


「……覚えていません」


さっきまでは確かにあったのに、目が覚めると消えてしまう夢のように、記憶が曖昧になっていた。衝撃的な光景を見たという記憶があるのに、その衝撃的な内容までは覚えていない。あんなにも感情が高ぶったのにも関わらず。


「これは事件現場の写真です。これらを見て、何か思い出すことはありますか?」


目の前に置かれた教室の写真。黒板に書かれた A taste of your own medicine という俺の筆跡。東山とここで何か喋った気が……


「あ、ピザを食べました。お腹いっぱいになるまで」


と思い付いたことを口にした。けれども、警察官はふざけているの?と言いたげな表情を浮かべた。


「ここに二種類の洗剤の原液が混ざっている写真がありますよね?」


「はい」


「これによって教室内には有毒性のあるガスが充満していました」


「たぶん塩素ですね」


「これは貴方がやったことですか?」


「わかりません」


と俺が言うと警察官は悔しそうな顔をする。それがちょっぴりおもしろくて、ついニヤけてしまった。


「何がおかしい?」


「別に特別な意味はないですよ。ただ俺を犯人に仕立てあげたいんだろうなぁ、って思って」


「いいや、犯人は東山 晦悪だとほぼ確定している」


「え?……そうなんだ!じゃあ、何で調べているんですか?」


東山 晦悪は殺人犯。それを知った瞬間、俺と東山が何故一緒にいたのか、何となく理解できた。


「君が証拠隠滅を図った疑いがあるからだよ」


「へぇ、そうなんですね」


「何が思い当たることはない?」


「そう言われても、記憶にないです」


そんな水掛け論的な長い尋問が終わると夕方になっていた。迎えに来ていた母に出会った瞬間、抱きしめられた。


「朔良、朔良が無事で良かった」


「いつも大袈裟なんだから」


俺が父に殴られた時も家出した時も死にたいと言った時も心配性な母はいつも優しかった。けれど、父のことを愛しているのも同様に母だった。だから、俺にはこの優しさが虚偽に思えてならない。俺が虐待されているのを黙認してしまっているのだから。


次の日の朝には、何事もなかったかのように学校へ行けと言われた。教室に入るとクズ教師が殺された話で持ち切りだった。東山 晦悪が犯人だと、みんな口を揃えて言っていた。俺にはそれが何故かとても寂しく思えた。

プルルルルルル。電話が鳴った。知らない番号からだった。ここの教室の雰囲気が何だかつまらないので、俺は何となくその電話に出ることにした。


「もしもし?東山 晦悪だけど───」

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