エンジェルライフ・もう一つの真実④ご機嫌で飲み明かしたカイセリの夜。爆睡中の二人は、さらわれるように赴任地に連れていかれた。
朋美と知り合った派手な女、カミラは、エンジェルライフ、ういかのファンだった。ご機嫌で飲み明かした二人は、ホテルで爆睡している。兵士が、早朝急に迎えに来てキャンプ地に連れていかれる。赤十字のバックヤードは、聞かされているより戦地に近い危険な場所だった。
④
カイセリの街で飲み歩いた、ういかと朋美、早い時間に切り上げたが、まだ、ぐっすり眠っている。
午前3時
ドンドン、ドンドン、すいません TOMOMI UDA!起きてください。
ドンドン、ドンドンドン TOMOMI! TOMOMI!
朋美:えっ何事?だれ?誰ですか・・
PS:赤十字のパトリック・スミスです。
朋美:パトリック・? あっパトリック!
赤十字の医療コーディネーターだった。
朋美は、ロックを掛けたままドアを開けた。
PSは、ドアの隙間から身分証を見せながら・・
PS:すいませんこんなに早く。緊急の血液製剤を輸送することになって、お二人を連れていく予定だったので、私が運ぶことになったんです。準備してもらって出発したいんですが・・お願いします。
朋美:わかりました。準備します。
朋美は、ういかの部屋に電話をした。
ういか:何やねんこんな時間に
朋美:ういかさん事情が変わってすぐに出発になりました。すぐ、準備してください。
ういか:事情って・・すぐって・・別に出れるけど・・
軍服姿の男たちが朋美の部屋の荷物を運び出した。男たちと、ういかの部屋に向かうと
朋美:ういかさん出れますか?
ういかがドアを開け、
ういか:いつでも出れるよ・・
男たちがういかの荷物も運びだした。
一人余った男がういかをひょこっとお姫様抱っこして
男:お連れします。
ういか:ありがと・・
エレベーターの中で
ういか:帰って来て備品も荷物に整理してたからいつでも出れる状態よ
朋美:いつでも出れるって・・・寝巻代わりのスウェットじゃないですか!
ういか:かわいいよな・・な!
男:はい そう思います。
ういか:こういう時、何着てくかわからんかったから他の服はみんなパッケージしてしまったの。
そう、何着てく? おおっジーパンにスタジャンか、かっこいいな!
と、ういかが、男にお姫様抱っこされながら
ういか:看護服も違うしなー、迷彩服ないからヒョウ柄かとも
男:看護服よりは、ヒョウ柄のワンピースの方が・・
ういか:お前の趣味か! なんでお前がボケてんねん。
ラウンドクルーザーの後部座席にういかを座らせると男は
男:お気をつけて!
二人を乗せたラウンドクルーザーは、シリアとの国境付近に向けて出発した。助手席にはパトリック・スミス(PS)が座っている。
PS:昨日、赤十字のキャラバンが何者かに襲撃され多くの死傷者が出ました。血液製剤が不足していて早く届けないと、
朋美:この車も安全じゃないですね。
PS:一応、前後に護衛車を付けてます。この車も防弾仕様ですし、対戦車砲じゃなければ中にいれば大丈夫です。
ういか:対戦車砲って、聞いてないですよ・・・
PS:我々は、中立の立場で政府軍も反政府軍の兵士も救助し治療、介護していますが前線の兵士からすると、元気になってくれば、また殺し合うわけで、赤十字も攻撃されることがあります。機材も豊富ですから売れば金になる。緊張の連続です。
朋美:私たちが赴任するのは、けが人が直接運び込まれる赤十字のベースキャンプじゃなくて、医師や看護師の待機場所があるバックヤードだと聞いていますが、
PS:その通りです。ただ、以前はバックヤードはベースキャンプまで、車で10分ぐらいのところで離れていましたが、今は警備要員の不足もあり・・・歩いても行けるくらいの距離で、有刺鉄線で区画しているだけですから、攻撃する側からすれば、同一の攻撃対象になります。
ういか:寝てるところにミサイルが来るかもしれないってこと?
PS:その可能性は、有ります。
ういか:聞いてないよ・な!
朋美は、下を向いて震えてながら・・そんなところで、日本の看護師が何ができるんですか?・・・
ういか:ほんとやな・・
PS:バックヤードに付きました。まだ暗いですから足元に気を付けてください。
荷物はこちらで運びますからお部屋へどうぞ、案内させます。私は血液製剤を届けてきますので、後ほど伺います。
それぞれの個室に案内された。一応仕切りはあるが布で仕切っているだけで天井付近は仕切りはない。バネがむき出しの
シングルベッドが一つ有るだけで他に家具らしきものもない。バックヤードのスタッフがマットレスを持ってきた。
ベッドの上に敷くと何やら書類にサインするように言ってきた。
朋美はういかの部屋?を訪ね。
朋美:聞いていたよりも相当危険ですね。ここに入る時も銃を持った兵士がいっぱいいました。
ういか:私、先週までステージで歌ってたんだよ・ここでもレクレーションで歌うのかなぐらいの気持ちだったんだけど・
朋美:そこまでは考えてないですけど、従軍のレスキューとかに安全な場所で救急措置の講習とか、運ばれてきた重傷者の救急措置ぐらいかなと・まさかミサイルが飛んでくるところで・・何するんでしょう?
しばらくするとあたりが明るくなってきた。ブラインドを広げてみると赤十字のテントの周りは土だけで木も生えていない。車の出入りも遠くからよく見えそうだ。周りが騒々しくなり人が頻繁に動いている朝の勤務体制になったのだろうか。
救護長:失礼します。救護長のジェニファー・ウーです。
ういかの部屋にあいさつに来た。
ういか:早夏ういかです。よろしくお願いします。
声を聴いて朋美もういかの部屋にやってきた
朋美:宇田朋美です。よろしくお願いします。
ウー:早速ですが見て頂きたい負傷兵がいます。 ベースキャンプへお願いします。
二人は車に乗りベースキャンプへ移動した。有刺鉄線で区画しているので車で入口まで戻り遠回りし5分ほどかかったが、
有刺鉄線がなければ、隣あったテントで、歩けば1分もかからない。中に入ると赤、黄色の札を付けた負傷兵がたくさん
収容されていた。中には意識がない者もいて生死が混在しているのが一瞬で分かる重い空気が支配していた。
ウー:トリアージしても治療が進まないのでここで待機するしかありません。
ういか:私たちは、ここで何をすればいいんですか。
ウー:まずは、救急処置の改善点について観察してほしいです。
迅速に負傷兵を治療できる施設に移送したいのですが移送先も決まらず、怪我が悪化してしまいます。治療設備は持ってこれるのですが医師がいません。
医師は、最前線に近い軍の医療施設に優先的に回されるからです。もう一つは、トリアージのトリアージです。
日本政府から一定数の患者の受け入れを打診されています。こちらの医療で足を切断して義足を付けるような患者でも
日本の医療では、足が治療出来て歩けるようになる患者もいると伺います。どのような負傷の状態なら
足や手を切断しなくて済むのか指導してほしいのです。
ういか:包帯の交換とか毎日有りますよね。その時に状態を見させてください。
ウー:正直、毎日すべての負傷兵の包帯やガーゼを変える資材や人員はありません。お二人がそのような実務に従事しても、帰ってしまえばまた元のとおりです。
今から、残念ながら足の腐敗が進み足の切断と処置をする兵士がいます。その治療に立ち会っていただけますか。
カーテンで仕切られただけの手術室で、看護師が麻酔の注射を打っていた。患者の意識はない。足のよく見える場所にういかが移動した。ひざから下の部分は残っているが腐敗が進みどう見ても切断するしか命を救うことはできそうにない。
朋美は、看護師や医師が使う機材をチェックしていた。薬剤や資材は見慣れた日本製も多くみられた。切断した足の処置も終わり患者が運び出されて行った。
ウー:お疲れさまでした。どうでしたか、いろいろお気づきになった点もあったかと思います。後日、まとめてご報告頂ければと思います。
ういか:朋ちゃん、忘れないうちにまとめとこうよ。
朋美:そうですね。食堂の隅に話せそうなところがありました。行きましょう。
朋美:手術の感じはどうですか?
ういか:いつも切断している。慣れた感じ、切断ありきって感じ傷ついた足に鉄片や異物が入っていて、
洗浄がしっかりできていないから腐敗も早いよね。消毒液塗って包帯巻くのが精いっぱいって感じかな。
ひょっとすると今の患者さんは、戦場の医療兵に応急処置されただけで今日の切断手術だったのかもしれないね。
朋美:私の方は、薬剤や機材の使い方を見てたんだけど、日本で使われてる見慣れたものも多くて量的には
十分な気がしました。ただ、使い慣れてないのか同じメーカーのものしか使わずにいて使い捨てが当たり前の日本のメーカーの物には手が出ません。セットの中に準備されているんですけど看護師さんも反応しません。縫合の部分なんかは日本製ならもっと早くきれいにできると思いました。
ういか:いろいろ改善点は見えるけれど、あれだけ不衛生に放置され腐敗していては切断は仕方ないところだね。
ウー:今日は、特別予定されている事は、有りません。キャンプ内を見て回ってください。
ういか:朝三時に起こされて走ってきたのでお腹減ってて何か食べるものはないですか?
ウー:食堂は24時間開いています。お口に合うかどうかわかりませんが、食べてみてください。
ういか:朋ちゃん行ってみよう。
食堂のバイキングコーナーに来ると、時間がずれているのでどのポットも火が落としてあるし片付けてあるところも多い。一つだけ大きな寸胴に火が入っていた。
ういか:これなんだあ・・スープだね。
朋美:これですよ! レンズ豆のスープ
ういか:食べてみるか・・・
近くにあったスープ皿によそってみる。
ういか:ぐぇーっ、変なにおいやな・・ぐwぁっまずっ、ちょっとこの豆無理・・
朋美:ふふっ、でしょ。昨日のレストランのスープ美味しかったでしょう。あれ!入門編。
なんか他にないかね。あっサモサ有るよこれならいけるは、冷たいけどしょうがない・・・ちょっと脂っこいけど、これも行けますよ。ドーナツみたいなもんです。
ういかが、かじってみた。
ういか:まっ、これなら食べれるは、スープは無理!無理です。
この日は、キャンプ内を見て回った。サッカーゴールや遊戯施設もあり楽しんでいる姿を見るとホッとする。
このまま安泰な日々が続けばよいのだが。
数日後
キャンプの医師や看護師が従軍の医療班に参加するために出て行った。
ういか:大きな戦闘が始まるみたいね。
朋美:依頼が有っても従軍の医務班なんかに参加しませんからね。あくまで指導役で来てるんですから。
ういか:戦闘訓練なんかしてないしな・・・
ウー:あっ今晩大きな攻撃になりそうです。反撃も受けますからケガ人が増えそうです。
指導役で来ていただいているのに申し訳ありませんがキャンプの医療関係者は、ほとんど出て行ってしまって・・
お二人に助けていただきたい場面もあるかと・・・
ういか:できることはしますよ。できることは・・
朋美:黙って、下を向いた。
ういか:まー けがした人が来たらほっとけんわな。
朋美:だんだん戦場の看護師にさせられますよ。いったん打ち切った方が良いんじゃないですか。あさかさんに連絡しましょう。
ういか:もうちょっと待ってみようよ。
忙しくなりそうなので、今のうちにしっかり食事しておこうと食堂にやってきた。
ういか:おおっ いっぱいポットに火が入ってるね。キョフテ、あったあったトルコハンバーグ、これうまいよ。味も毎日違うし、今日はトマトソースだね。イタリアーノ!
朋美:レンズ豆は、私も苦手ですけど、ほかの料理は結構おいしいですよね。
ういか:ご飯粒、コメが欲しくなってきてる。コメとみそ汁!豆腐の味噌汁!
朋美:バックパッカー時代も疲れてくると日本食が食べたくなりました。
猛スピードで敷地にジープが飛び込んできた。男たちが駆け付けケガ人を運び込んでいる。その後も次から次へとジープが走りこんできてケガ人がおろされる。重症者はいないようだ。足や手を打たれているようだが、自分で歩いている者もいる。
緊迫した空気が流れ二人の表情が曇った。
ウー:ういかさん!ういかさん!来てください!