エンジェルライフ・もう一つの真実②夜の街で知り合ったカミラとディープな夜に迷い込む朋美。怪しい夜は深い。
一人で繰り出したトルコ、カイセリの夜。ステージで歌っていた女とディープな夜に迷い込む朋美。ワイルドな女には、ワイルドな夜が待っていた。
②
ういかを残して夜の街にまぎれた朋美。怪しい夜がまた始まりそうだ。
朋美と合流して、トルコ入りしたういかは、トルコ南部の街、カイセリに泊まっている。公演明けで疲れているのか、夕食がてら飲みに出る予定だが、朋美が電話をしても出ない。ういかをホテルに残して朋美は、夜の街に一人で繰り出した。怪しげな地下への階段を降りて行き、バー、ジプシーローズの扉を開ける。扉の陰から中年の女が声をかけてきた。
女:あら、女性?1人?
朋美:一人です。
女:どうぞ!
ステージにバンドらしき演奏者が、ギターが2人センターに派手な化粧の女性が一人ボーカリストなのか
後ろにウッドベースの大男。するとまた演奏が始まった。
右のギターがリズム感を出しカッティングでバッキングコードを引き出した。ベースも間を刻みだした。
♪ベサメベサメベサメムーチ♪ 派手な女が歌い出した。 聞いたことのあるスタンダードだが曲名は思い出せない。
カウンターに座った朋美に店の女が
女:なに飲む?
朋美:ビール コロナ有る?
女:有るよ
朋美:レモンは、要らない。
コロナビールが出てきた。レモンがビンの中に入っている。
朋美:すいません!レモン要らないと言ったのにと、言いたかったが、
女に声を掛けようと思ったが音楽に夢中で聞こえない。
朋美:ま、いいか 私の英語が通じなかったのか・・・
そのままビールを喉に流し込んだ。
軽快な音楽が、終わりバンドの連中がカウンターに座った。何も言わないけれど、次々と飲み物が出さた。
何も言わずグラスを合わせる男3人。ウッドベースの男が朋美に気が付いた。髭もじゃの大男は、朋美に笑いかけ
大男:日本人?
朋美:はい わかりますか?
大男:いや ここの店、最近、日本人が多いから
朋美:そうなんですね。
そういえば朋美も最近見た旅行雑誌の情報でここへ来た。たしかにこんなダークな店に日本人の観光客が来るのはおかしな感じだ。
大男:女一人は珍しいな。だいたい2,3人でやってくる。写真をいっぱい撮って帰っていくよ。
朋美:もう、バンドは終わりですか?
大男:今日は終わりだよ。
派手な女が大男と朋美の間のカウンターに割って入った。
派手な女:私も一杯!ロックで!
ウイスキーのロックが出てきた。
派手な女:あんたも日本人?
朋美:そうです。
派手な女;いつまでいるの
朋美:明後日までです。
派手:ずいぶん短いね。みんな1週間ぐらいは居るから。
朋美:まあ仕事なんで夜くらいしか時間ないし来週はまた次の街へ行くので。
派手:サーカスかなんか?
朋美:まあーそんな感じです。もうライヴやってるところって無いですか。
派手:有るけど結構ディープなとこだよ。女一人で行けばそういう女だと思って客が寄ってくる。
飲んでいた客の帽子の男がカウンターに声をかけた
帽子:また来る!
派手:トルコは初めてなの?
朋美:昔2年ほど住んでました。
派手:へーっ どこにいたの?
朋美:イスタンブールです。
派手:都会だね。仕事で?
朋美:いやぁ、、ちょっと
派手:男か・・あんた、もてそうだからな・・
朋美:そうですかね?・・
派手:実はさぁ私の元カレ日本人看護婦にいかれちゃって取られちゃった。トルコ人の男は日本人の女が大好きで、トルコと日本は昔から仲がいいけど、祖父の代から日本人の女はいいぞって言われてきてるから日本人の女はトルコでは、取り合いになる。既婚、未婚関係なくトルコの男は日本人の女と知り合うとアタックするのが当たり前なんだ。別れても男にとっては日本人と付き合ってたことは、自慢話なんだ。私の彼も日本人の女を追っかけて日本にまで行って・・・今はどこで何をしてるのか・・・
朋美:イスタンブールではそんなに、もてませんでしたけどね。
派手:あんたさ入国してすぐに一緒にいた男とくっついたでしょ。?
朋美:はあぁ?? あっ そお言われれば、レンタカー会社の人だから最初に話した人でした。
派手:ああやっぱり。それにレンタカー会社ならその後のドラマもワンパターンだろ
朋美:ワンパターンって?
派手:止まってるホテルの前でバッタリ会って、”地元のうまい飯屋教えてやるよ”って連れてかれて
もうちょっとおごるよって 2件目で飲まされて、お持ち帰りされて、昼過ぎまで溶けまくり。
君は運命の人だ!って同性生活。
朋美:真ん中以外は、その通りです。なんで分かるんですか?
派手:レンタカー会社で、連絡先もホテルも全部書いたでしょ。ホテルの前でバッタリも日本人女性を狙って待ってたんだよ。
朋美:偶然会ったんじゃないんですか!
派手:地元の飯屋も無茶苦茶安いようだけど先にいくらか払って安く見せてるだけ、
朋美:そういえば、そのあと一人で行ったら倍ぐらいになってました。彼に話したらトルコはインフレだからって、日本人には吹っ掛けてくるから一人で行っちゃだめだよって
派手:それもドラマの筋書き通りであんたは一人で出歩かなくなる。
朋美:はい・・・そうでした。
派手:2件目もそうあんたの酒は濃いめ、男の酒はほぼ水か紅茶、女はつぶれて腕の中。
朋美:そこだけ違います。
派手:えっ? どこが?
朋美:最初からボトル頼んだので。ブランデーのスリーバーレル。アフリカかこの辺でしかない安いブランデーです。最初から私がロックで頼んで、彼はショットでいいって言ったんだけど・・私お酒強いので、
最初の1杯作ってもらってるときに・・新品だったからボトル買いますって・・10ユーロ・・安いでしょ
派手:それは、男の誤算だったね。半額作戦で準備してたんじゃない? 最低でも20ユーロはするよ。
イスタンブールだしね。
朋美:それで、私が二人分作って飲ませてました。彼が酔ってステージで歌い出したんですけど・・・
カッコよくて惚れちゃったんです。その後も結構飲んで私もべろべろだったんですけど気が付いたらもう寝てる彼に話しかけてて、一人でぐいぐい飲んじゃってて・・・お店の人にもう締めるから帰ってくれて・・
ボトル持って帰るって言ったら・・これ持っていくのかって 空のボトル渡されて・・・花瓶にしました。
派手:とんでもない大酒のみだね。(大笑い)
朋美:何とか彼のうちまで連れて帰って・・
私も酔ってるし・・彼はかっこよかったし・・もう惚れちゃって・・やる気満々で・・服脱がしたんだけど
派手:野郎も小次郎もグロッキーか(Wahaha)
朋美:昼過ぎに起きたんですけど・・彼はまだべろべろで、晩までトイレでうなってました。
夜遅くに食欲ないっていうんで冷蔵庫の余り物のピラフを卵雑炊にして出してあげたらうまいって食べてくれてそのまま溶けちゃいました。
派手:結果としては、そいつはあんたを手に入れたんだから大成功か。あんたにとってもハッピーエンドだったわけだ。
朋美:結構幸せだった気がします。でも結婚の話と出なかったし、今思うと日本の女性を手に入れたかっただけだったかもしれません。彼女ができたって言われて、韓国人の女性なんですけど・もう覚めてたんで、私から部屋を出ました。
派手:あんたさ、あんまり持てなかったって言ってたじゃない。そりゃもてないよ。もてる前に最初にあった男とできちゃったんだろう。日本人の女性でトルコに住んでれば、すぐに有名になっちゃうから他の男は警戒するよ。男がいるのはわかっているし、トルコでは古い習慣の残っている部族も多いから他の男の女に手を出したら、殺されても仕方ないんだ。
朋美:何か彼以外の人って冷たいなって思た時もありましたね。
派手:その男と別れてからはもてたんじゃないの?
朋美:それが、こうやって話聞いてると・・・今思うとって感じですね。日本食レストランのブームだったんで、日本語も英語もできるスタッフは結構いい給料で雇ってくれて住むところも無かったんで住み込みで働ける日本食レストランで働いたんですけど・・・すぐにそこの店員とくっ付いちゃって・・やっぱりまわりは冷たいなって・・やきもち焼いてるんだと思ってました。
派手:あんたさ、惚れっぽいんじゃない?
朋美:そうですね。でも、トルコの男性ってかっこいい人ばっかりですよ。彫りが深くてワイルドで、、
派手:私は同じ下心丸出しでもイタリア人の方が品があっていいね。それで、、次のやつとはうまくいった?
朋美:最悪ですよ。そいつ、妻子持ちで、奥さんがある日突然連れに来ました。
あきれちゃってはいどうぞって返してやりました。それからは恋愛というよりもジプシーローズでしたね。
知らない街でバイト探して、バーに行けば、その気の男がおごってくれるんでがっぷり飲んで飲ませて
みんなつぶしてやりました。恋愛対象じゃないからもてたって感じではないですね。
派手:なかなかのハードボイルドだね。あんた名前なんていうの 私はカミラ・カベラ カミラって呼んで
朋美:私は、宇田朋美です。TOMOでいいです。 日本語のともは、友達っていう意味です。
カミラ:朋!まだ飲めるだろ。Liveやってるところに連れてってあげる。さすがに朋でも一人では危ないから私が連れて行くよ
朋美:へーっ ディープなトルコの夜か・・わくわくしますね。
二人は店を出ると狭い路地を抜けて薄汚い階段を下りて行った。
音楽が下から聞こえてくる。強烈な低音が響き騒いでいる声が漏れてきた。分厚い扉を押し開けると、
爆音に押し戻されそうになった。スモークなのか、タバコなのか、いかがわしい煙か、かすんで前がよく見えない。カウンターで酒を見回した。朋美が・・
朋美:カミラ! あったスリーバーレル!
カミラ:今日は、ボトルは要らないだろ私をつぶしてもしょうがないし。
朋美:持って帰ってよかったらボトルがいいかな。自分で作る方が安心ってのもあるんで。
カミラ:25ユーロだって。やっぱり安い酒だね。私はジンのカクテル
乾杯をするとカミラが話し出した。
カミラ:さっき彼を日本人の女に取られたって言ったじゃない。どこに行ったか分からないって・・じつは、、嘘で私の家にいるの。空港の警備の仕事をしているときにシリアの強盗に打たれて下半身不随。娘が面倒見てる。働けないから私が夜の店で働いたり早朝の仕事をしたりして食いつないでるの。娘は、その日本人との子供。彼が日本にまで追っかけて行って一緒に暮らし出来た子で、最初は看護師の彼女の貯金で何とかしてたらしいけど、トルコ人の彼は仕事にもつけないから彼女がまた看護師で働くようになって、
稼ぎがいいからって海外に3か月ぐらいって言って短期で赴任したんだって。そのまま行方知れず。
子供も1歳ちょっとで、、仕事もお金もないから結局トルコに帰って来て、行くとこないから私ん家に居候
一緒にいればかわいくなるし、、まっいいかって、なんちゃって家族みたいになったってわけ・・
そうしたらやっと着いた警備の仕事で撃たれちゃって・・今は、娘も6歳だから・・トイレの始末とかやってくれて、私も少し長い時間外にいられるようになった。
朋美:カミラの話もディープですね。
カミラ:あっちのカウンターの男!
朋美:帽子の男性ですか。あー、さっきの店にいましたね。
カミラ:日本の有名なミュージシャンらしいよ。
朋美:へーよくわからないですね。
カミラ:さっきの店で日本のミュージシャンだって言うからバンドのギター貸してやって何曲か弾かせたんだけど・・結構いいじゃんてなって半年ぐらいここにいるって言うんで、この店紹介したの・・・
さっきの店はアコースティックだけど、ここは、ハードロックだからどうかなと思ったけど・・・
すごいパフォーマンスで、お客が大騒ぎ・・・今は、とりで弾いてるぐらいになっちゃった。
もうすぐ、ステージに上がると思うよ。
店内が暗転しドラムのフレームショットだけが響く
かっ・・・かっ・・・かっ・・・かっ・・・ZZBaan! 照明がつくと同時にギターの爆音が響く
客は、ステージに詰め寄りこぶしを突き上げてビートを刻む。やがて照明が絞られギタリストがピンに抜かれると
ディストーションの効いたロングトーンがマーシャルアンプを震わせる。
観客は、減衰するロングトーンに諭されるように静かになった。
アルペジオのイントロが流れ♪
歌い出した。
There's a lady who’s sure all that glitters is gold
And she’s buying a stairway to heaven
When she gets there she knows, if the stores are all closed
With a word she can get what she came for
ドラムのリフが繰り返されると、観客がうごめきだした。
リズムが倍転し観客も一緒に歌い!こぶしを突き上げる!
再びスロービートにロングトーンが響くと肩で息をしている観客の激しい息遣いが重なる
ギタリストが、レスポールを高々と掲げ大きく振り下ろすと・・割れんばかりの雄叫びと拍手が襲い掛かった。
朋美:すごい盛り上がりですね。1曲で終わりですか?
カミラ:彼は1曲しかやらないの 過去のミリオンセラーを1曲だけ イントロは想像させないようにアレンジして
独創的な転調からいきなりサビに入るの。不意を突かれた感が興奮を一気に高める。プロの仕事だね。
知らないの? 織田哲郎って言うらしいよ。
朋美:知らないですね。何歳ぐらいなんですかね。
朋美は、自分がいつもカラオケで歌っている大好きな相川七瀬のプロデューサとは知らなかった。
朋美:カミラ!ありがとう。今日は帰るは!
カミラ:明後日??もう明日か・明日はもう行くんだね。また会える日までさようなら。
軽くハグをして別れた。
ワイルドな朋美と意気投合したディープな女、カミラは、もっとディープ夜を生きていた。