5. 平穏
「ただいま!」
今晩の戦果を手に扉を開き声をかける。
「おかえりシオン。怪我はなかった?」
「大丈夫だよ母さん。今日は久しぶりのドーハだよ」
「お、よくやったぞシオン!なぁママ酒開けていい?」
「だめよあなた。最近は狩猟はシオンに任せてるんだから飲んだくれてたら太るわよ」
「た、鍛錬はちゃんとやってるのに…」
装備を脱ぎながら、父さんの情けないセリフに笑い声をあげる。
最近の父さんは狩猟の数を減らして、村の人の家具を直したり武器を整備したりで運動が減ってるからなぁ
「じゃあ夕飯作るわよ。また興味あるんでしょ?シオンおいで」
家事は母さんが全般をおこなっているが、僕は魔法が見たくて手伝える時は手伝っている
「恵みの水よ。どうかこの手に」
鍋の上でボールを持つように軽く広げた両手の間から、水が発生し鍋を満たす
「やっぱりすごいなぁ。空気中の水蒸気から集めてるわけでもなく無から発生してる。僕も使いたいなぁ」
「こんなの大した魔法じゃないわよ?詠唱は最もポピュラーで手軽な代償だしね」
村では魔力や肉体の成長を待つために、18歳までは魔法の習得方法を教えてないが魔法は誰でも使えるものらしい。
自分に制限を課し、支払う代償を決めることで魔法は行使できる。
生まれつきの魔力量など代償以外にも作用する要因はいくつかあるが、詠唱という時間と労力を支払うだけで水を出せるというのはシオンからすれば物凄いことだ。
「どんな魔法も面白いよ。魔法はこの世界のルールを覆す唯一の奇跡。みんなそれを分かってないよ」
「子供はみんな魔法に夢を見るのさ。魔法は解釈や制限次第で可能性は大きく広がるからな。便利なものではあるよな。だが代償がいる」
「重い代償で強い魔法を、なんて考えたりしないでよシオン。この村でそんな魔法必要ないんだから」
母さんの心配そうな声に一瞬言葉が詰まる。
村を出る以上、ある程度のリスクを背負って強い魔法を得ることは必須だから
「あはは。まぁ18までには考えとくよ。ところで父さん、この森の散策範囲に関してだけどさ」
任された手伝いを終え、テーブルに向かい父さんに何度目かの相談を持ちかける
「またその話か?だめだ。危険だし、どうせ森が続いてるだけで理由がないだろう」
「それを確かめに行くんじゃない」
「とうの昔に確かめ終わってるよ」
森の終わりや変化を確認してないのに、確かめ終わってるなんて矛盾してるじゃないか。
仮に調査したなら、調査の末に諦めたと言うべきだろう。
明らかに秘密がある。しかし、それ以上話す気がないのがシルバの目に表れていた。
「きっと、止められないよ。数年後、僕らをきっと大人達は止めきれなくなる」
父に対し、大人に対し、村に対する宣戦布告。
「だとしても、止めるしかねえさ」
言うことを聞かない子供達。
そのこと自体を喜ぶように口角をあげながら、父はそう締めくくった
「ほら、2人ともご飯ができたからその話はまた今度にして楽しく食べましょ」
「そうだな。父さんが華麗なナイフ捌きで切り分けてやろう」
「「わーかっこいいー」」
「適当に流すんじゃないよ…」
あぁ、穏やかで刺激的な毎日。
それはまるで、幸せの形そのものみたいで
この世界で前世と同じ時間を過ごすまで、あと2年