4. 三年
木々に手をかけ潜り抜け、森を翔ける。
流れていく景色はこの数ヶ月で随分と見慣れたものになった。
モンスターが通ることでできる大きな獣道沿いの木陰、指示された地点で息を殺す。
そろそろのはず…、来た。
何トンあるのかという巨体が四足で歩く音が聞こえて来る。
フォードの予想したタイミング、地点にドンピシャで
あと少し。通り過ぎてから8歩だ。2,1、今
「ぶち殺せぇええ!!!」
フォードの号令を皮切りに四方八方から10歳のあの日見たものと同じモンスター、ドーハに向かって狩人達が一斉に飛びかかりそれぞれの獲物を甲殻の間に突き刺す
「!!!…オオオオオオゥ!」
身体中に突き刺さる剣や槍は流れる血も相まって一見大きなダメージを与えたように見えるが、所詮は殻の覆われてない部分に浅く傷をつけるだけだ。
防御が薄いということは重要性が低いということ。致命傷にはなり得ない。
しかし奇襲による効果は大きく、驚きと痛みによってでたら目に暴れ始めたドーハに対し、狩人達は一様に動きを止めた。
動けないのではなく、動かない。
狩人が上に向けた視線の先、ドーハのすぐ隣に立つ一際背が高い木の上から、大斧と重力加速度を装備した人影が降って来る。
「天斧」
胴体を縦一文字に両断するかのような一撃は、しかし硬い殻を粉砕するにとどまる
「ギャオオオオオオ!!!」
「やっぱ体重と筋肉が足りねえな。止めは任せた」
着地し斧を背に担ぎ直した狩人は大楯を装備する巨漢の背に身を隠す。
痛烈な攻撃を受け目の血走ったドーハは、いつの間にか周りに狩人がおらず、対面する1人を残すのみとなってることに気づかない。
己に痛撃を与えたものを背に庇うその獲物に対し、ドーハは命をかけた突貫を仕掛ける。
「絶壁」
巨漢の呟きは三度の爆音に掻き消される。
爆音。ドーハが地を蹴り砕く
爆音。大楯による真正面からの衝突
一歩たりとも押し込まれぬ絶対の壁
そして爆音。地を蹴り砕いたのは、最初から木陰で息を殺していたシオンだった
「居合、一閃」
☆☆☆☆☆☆
「いやぁドーハは突進ばっかだから楽だねぇ」
狩猟の帰り道、フォードが鼻歌を口ずさみながら上機嫌に呟く。
「それにしてもシオンの身体能力はずば抜けてんな。大人達すら追い越して森を走れる。13歳なんて信じらんねえよ」
「お前も見習って少しは戦ったらどうだ?フォード」
今日の狩猟担当の1人であるムツキの父がフォードに軽口をけしかける
「じゃあ代わりにおっさんがモンスターの位置把握して作戦立てて指揮しろよ。俺の時より効率落ちたら豚の餌にすんぞ」
「それを言われるとなぁ。作戦や指揮はまだしも、マジでどうやって複数のモンスターの位置を把握してバッティング回避してやがる」
「森と動物の状態を見て、あとは誘導だな。どこに来るかを予想するんじゃなく、ここに来させるんだよ。音、他の動物、罠なんでも使ってな」
「魔法も授かってない身でよくやるぜ」
2人の会話に、シオンは先ほどの狩猟を振り返る。
今回斧を使っていたのはバカのムツキ。派手なことを好むことと、思い切りの良さから作戦の危険な役割を担うことが多くなった。
バカと煙が高い所を好むのはこの世界でも同じらしい
イヴォールトは大楯を使う。
昔からの堅気な性格と大きな体により鉄壁の守りを敷き、最年長の貫禄備える守護の要は大人たちからも頼りにされる存在である。
そしてフォード。
前世で高度な教育を受けたシオンをして、フォードは明らかに自分より頭が良い。
そしてその振る舞いはあまりに特異だ。
驚くべきことにこの3年間、彼自身は戦闘において武器を一度も抜かずに指揮や作戦立案だけで狩猟隊の信頼を勝ち取った。
討伐に出ない生産組の村人などからは未だに木偶の棒だと舐められまくってるが
最後に自分の成長。獲物は刀
13歳になり筋肉は発達、四肢が躍動し、目の前の景色を一瞬で置き去りにできる。
魔法を授かれるのは18歳なので、それに合わせた村を出る日もあと5年を計画しているが、前倒しも考慮に入れられるほどの肉体の成長。
前世の常識から考えても13歳の体でこの身体能力はおかしいが、魔力が関係してるのだろうか
「それじゃあ各自戦功に応じた肉と山菜類持って解散だ。明日明後日の狩りは別の討伐隊だから次は3日後。それじゃ、解散!」
この先どうするかや魔法のことは考えなくてはならない。
でも、どうなってもきっとやっていける。
心強い仲間達と、今世の両親にもらったこの体があれば。
とりあえず今日は手に入れた食料で両親を喜ばせよう。
それがきっと、今1番考えなくてはならないことだから