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1. この場所から

 「行ってきます!」




 やっと雪が溶け切った春先。日によって肌寒かったり暑かったりとせわしない気候が続く中、子供はお構いなしに半袖半ズボンである。

 庭で魔法をつかって洗濯と乾燥をいっぺんにしている母の返事も聞かぬまま、いつものように村の北にある門とそのそばに建てられた物見櫓下の広場へ向かう。今日は程よく温かい。




「遅いよシオン」


 顔を見るなり僕に文句を言ってきたのはショートカットの白髪を風に揺らす少女で、同い年のセレナ。気の強さが目力の強さと、何よりその仁王立ちの姿勢に表れていた。その隣でニコニコしている金髪優男はエン兄だ


「仕方ないだろ。軽く勉強してたんだ」

「また?勉強と遊びどっちが大事なのよ!」


「ギリ勉強だと思うよ…」


 臍を曲げる幼馴染に苦笑いを返す。何年経っても相変わらずのおてんば娘だ


「フォード達はモンスター討伐で森に出てますよ」


「あぁ、もうそんな時期かぁ。エン兄は再来年からだね」

「大物を取ってこれるように今のうちに訓練しないとですね」


 エン兄は一つ歳上の兄のような存在で、といっても村には人数が多くないのでみんな家族みたいなものだが、丁寧で穏やかな人だ。

 誰にでも敬語で、親にすら敬語を使ってるのを見た時は衝撃だったが今ではすっかり慣れてしまった。



 そう、僕がこの世界にシオンとして転生してもう10年が経つのだ。

 6年程は大したことはできなかった。脳が未発達なせいか思考がうまくまとまらないのだ。覚えたことと言えば言葉と文字と身近な人の名前くらいなもので、不覚にもウンチとオチンチンで爆笑する時期をもう一度迎えてしまった。

 それでも周りよりはやはり早熟であったが、残念なことにいわゆるチートと呼ばれるようなスキルや魔法は授かっておらず、前世で15歳で死んだ人間にチートできるほどの知識は備わっていなかった。

 思考が巡るようになってからはまずこの村について調べた



 ここはでかい山に囲まれた森の中にある小さな村だ。

 子供の数は11人しかおらず、大人は40人程。森には四季があり凶暴なモンスターが生息している。そのため村は円形に高さ2.5mほどの壁に覆われ、南北には頑丈な門がそれぞれ設置してある。

 こんな辺鄙なモンスターすら出る場所に立派な壁と門を作れたのはおそらく魔法によるものだろう。

 この世界全体の文明レベルは分からないが少なくともこの村は電気もガスも水道も通っていない。生活のいろいろな場面で便利な魔法を見るので、おそらく科学が発展していなくとも何とかなってしまうのだろう



 そして森の外の世界について。

 不思議なことに村にある文献には"森の外"に関する文言が一切ない。誰がどこからやってきてこの村を作ったのか、村の歴史書すらないのだ。あるのはモンスターや森の植物に関する図鑑類だけ


 村長や村の大人に森の外についてきくと「この森がずっと続いてるんだよ」と言われる。

 前世の知識をもつシオンからすると、そんなわけがない。自然災害1つで生態系は変わるし、気候が違う土地では動物の進化も変わるのだ。この世界に人類がこの村だけってこともないだろう。ないよね?世界が違うと天下の人間様もそこまで生息域を追い込まれるのか?

 なんにせよ、何か事情があって秘密にしているのだろうことは察せられた



 しかしここは新しい世界。魔力を内在する人食いモンスターが我が物顔で闊歩し、人類が狩猟で飯を食う剣と魔法の異世界。未知や秘密は俄然気になるじゃないか




 新たな世界を、見てみたい。

 エン兄やセレナ達に、世界の広さを見てほしい

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