10. 叫び
「この世界には人類以外にも知的生命体が複数おりそれぞれが種族国家を形成している」
何の知識も与えていなかったのに、今急にこんな話をしても混乱することは分かっていた。しかし伝えなければならなかった。
「エルフはその一つ。邪竜もエルフが関わってのことだろう。すぐにエルフの国から掃討隊が来る。
酷なことを言ってるのは分かってる。立ち上がれお前た…ち…」
唐突に村長の体が力を失って傾く。
肥沃の地を砂に変えるほどの魔法。命を失わずとも魔力切れで倒れることなど当然だったということに、シオンは倒れてから気づいた。
「じーじ…!」
砂に体を沈めた村長のもとに、一番近くにいたテーレが体を引きずって近寄る。
当然外傷はなく魔力の回復を待つしかない。
唯一の大人に、頼れない。
一時の静寂。
そこで完全に糸が切れた。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
今度こそ大切にしようって。今世こそ愛に報いろうって。それなのに。まただ。また貰うだけ貰って、何も。立派な大人になるのすら見せられずに、たかが15年で。何がエルフ、何が邪竜、どうでもいい。あまりにも世界は理不尽に過ぎる。
全部全部全部全部ぶっ壊れろ。死ねよ、死ね。何もかも、俺も
「ぁぁぁあああああああああああ!」
絶叫の鎮魂歌
体震わせ大気を揺らす。まるで届かぬと知っていながら。
自分の声に重なって耳鳴りがしてる。甲高い耳障りな音が追い詰められた頭をさらに鈍らせる。
もう今自分が何をしているのかわからない。うずくまっているような気もするし、砂の地面を何度も殴りつけているような気もする。
物言わず涙を流し続けるテーレも、未だ現実を受け入れられぬエンも、血がにじむほど拳を握る
イヴォールトも、誰も立ち上がれない。
悲しみが胃からこみあげて、絶望が首を絞める。
何も考えたくない。死んでしまいたい。
死んで楽に
「俺たちは家族!!!」
「血よりも深く!鎖よりも硬く繋がっている!
まだ諦めるな。ここにまだ、家族が11人いる!もう誰も、犠牲にしない!
そうやって生き抜いて、俺たちがどうにか幸せにくたばらねえと、みんなに合わせる顔がない!」
叫び。邪竜襲撃から声を荒げることすらなかった”長男”の決断。
絶望に待ったをかけ、哀しみに吞まれぬように、無理やり顔を上げさせる。
この時だ。きっとこの時に、フォードは責任や重圧から逃げることをやめた。
のらりくらりと生きて来た男が家族の命を背負った。
幸せにするために。幸せになるために
「俺がお前たちを守ってやる」
力はない、息切れするほど動いているのすら見たこともない男の絶対の誓い。
「フォード…」
そうだ。全員を失ったわけじゃない。
家族が、俺たちの兄が立ったんだ。支えなきゃいけない、立ち上がらなきゃいけない。
まだここにある宝を、必死になって守らなきゃいけない。そうしなきゃまた
手から零れ落ちていくから
震えは未だ止まらない。悲しみがやむことはない。エルフから逃げる方法も今は考えられない。光は未だ、見えてない。
それでもあがけ。さっき自分でも言ったじゃないか。
死んだらそれまで。でもだからこそみんなで生きる努力をしようって。
理不尽でクソッたれなこの世界に、大好きな人達がいる限りは、暗闇の中も歩いて行こう。誰も寂しくないように
「第一回家族会議を始める」