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⒎婚約騒動

ごきげんよう、わたくしレイヴィア・シャルラムですわ!

今…王太子殿下の麗しいお顔が至近距離にありますの!わー、なんてうれしいんでしょーかー!


……って、うれしいわけがない…。しくしく…。


…なにがどうしてこうなったの~?!


◇◇◇

「レイヴィア。王太子殿下と婚約しろ。拒否権はない。今日が対面の日だ。王宮に行け。」

そう突如やって来たお父様に淡々とそう告げられたのは、のどかな朝食の席でのことでした…。


私、レイヴィア・シャルラム!王太子殿下の婚約者になるの!


――は?


いや、私、普通のご令嬢みたいに喜べないので…。

王太子殿下と私が婚約することで、私の死亡率高まっちゃうかもしれないから…。



――いやすぎる!!!



…いっそのこと、王太子殿下よ、いま開発途中のデミグラスソースになっちゃえ!



――けれども、私の願いもむなしく、対面への準備をメイドに高速でさせられるのだった…。…しくしく。


◇◇◇

「お姉さま、いってらっしゃいませ!」

「…いってらっしゃい」

「レヴィ、気を付けていってらっしゃい。」

そう言ってくれるのは、ベージュブロンドに輝く髪に、鮮やかな菫の瞳の美少女ソフィーユ、愛称はソフィと同じ色の容姿でこれまた美少年のフィルス、愛称はフィルと、綺麗なフィ―お母様に見送られて、屋敷の玄関から出て、用意された馬車に乗り込む。


「い、いってきます…。」


そして、王宮(私の中で地獄になりつつある)に向けて馬車が発った。


王太子殿下…デミグラスソースになっちゃえ!ハンバーグにかけて、美味しく食べてやりますわ!


デミグラスソースの呪いを心のなかで唱える私は、完全なる変人と化していた。


◇◇◇


――ルイシス・レ・ユーリ王太子。イメージフラワーは青いカーネーション。

金髪に、王家の色である、青い蝶ユリシスの瞳を宿した、美貌の王太子。


若くして、その美貌と、類まれなる知能、そして何より、正室の息子であり、嫡男であったことから、王太子に任命された。

そんなルイシス王太子殿下は、幼き頃に、レイヴィア・シャルラム公爵令嬢と、政治的な事情から婚約させられる。


『レイヴィア…私は、君を愛したことなど一度もない』


そう冷たく言い放って、レイヴィアを自らの手で処したルイシス。ルイシスの瞳は、王家の特別な瞳である、ユリシスブルーに冷たく澄み渡っていた。



◇◇◇

「……。」

馬車がピタリと止まった揺れで起きる。


王宮に、着いちゃった……。


王宮の門が開かれる音が、地獄の門の開閉音にしか聞こえない…。




◇◇◇


イリアたち侍従と共に、対面場所に来た。

「行きたくない…。」

婚約者である王太子殿下がいる部屋の扉の前で駄々っ子のような呟きが漏れた。

王宮に着く前にあった多少の勇気は早々に折れたぜ。


「…お嬢様、この先には、王族御用達のお菓子と紅茶があります。」

専属メイドイリアの言葉(エサ)に私は易々と引っかかったのだった。



「初めまして、遅れて申し訳ございません。シャルラム公爵家が令嬢、レイヴィアです。婚約者としてどうぞよろしくお願いいたします。」

立派な淑女のカーテシー。

けれど頭の中は王族御用達のお菓子と紅茶でいっぱい…。


「初めまして、ユーリルキ王国の王太子、ルイシス・レ・ユーリです。これからよろしくお願いします。」


ルイシス王太子殿下の顔をチラリと見やる。国の象徴とされる青い蝶ユリシスの色をした瞳に、輝かしい金髪の美形。ゲームのルイシスを幼くしたような顔だなぁ…。


ちなみに、レイヴィアの藍色の髪が嫌われているのは、ユリシスの色のような澄んだ青ではなく、濁った青だから。つまり、王家を濁らせる存在=悪ってこと。


とこれで、いつまで立ってるのかな…、そう思って再度チラリと顔を見る。

すると、バチッと目が合った。こちらを凝視していたのであろう。


…凝視してしまうほど藍色の髪がお嫌いなら、今すぐ婚約破棄をお願いします!

婚約はんたーい、死亡はんたーい。


「…失礼しました。それでは席へどうぞ。」

ずっと立っていたことに気づいてくれたみたい。


…楽しみですわー、王族御用達のお菓子!


私が席へ座ってお菓子を凝視して観察している間、王太子殿下がまたもやこちらを凝視していたことを、私は知る由もなかった。


◇◇◇

王太子殿下のお茶会?が終わって、私は今、庭園を案内されている。

しかし、私の脳内を埋め尽くしてることはただ一つ。


王族御用達のお菓子…美食食べなれてるからかは知らんけど…美味ではありませんでしたわ…。


まず生地!手にくっつくから手拭き布が必須!食感はパサパサ、ボソボソ!

中のクリームは甘ったるいし…。私のレシピで作ったお菓子、売ろうかしら?


だけど紅茶は美味でしたわ…。豊満に広がる香り、のどごしも良い、パーフェクトでしたわ!


…あの最高級紅茶に合うのは、ケーキ系ね…。あ、タルトとか、王道のショートケーキとかどうかな!見た目も可愛いだし、フルーツ入れれば彩りも良くなるし!

……いつか作ってもらおうッと。


悶々と考えていた私は、王太子殿下との会話の返事にも、相槌を打つだけだった。


うーむ、カカオがあるならチョコレートケーキも食べたいなぁ。


「わ!」


考えすぎて前が見えなくなっていた。止まっていた王太子殿下にぶつかる。


ゆっくりと王太子殿下が振り向く。夕焼けに照らされた青い瞳が、()()に似ている。…()()に。

キオクに残っている。あの、瞳――――。

ズキズキと頭が痛む。思わず頭に手をあてる。


ルイシス王太子殿下がこちらを心配そうなまなざしで見る。

覚えているあの瞳ではなく、元々の青い瞳だ。


「…レイヴィア、大丈夫ですか?」

「…心配させて申し訳ありません、王太子殿下。大丈夫ですわ。」


何故か乱れる心を隠すように、無理やり微笑んで、平静をたもって答える。


私の前世を殺したあの人に似た、紅の瞳に見えてしまったのだ。

じっと、王太子殿下の瞳を凝視する。ユリシスの青い瞳が変わることなくそこに収まっていた。


「レイヴィア、本当に大丈夫ですか?」

じっと見ていて不審がられてしまっただろうか。

「…はい、大丈夫です。」

「少し休みましょうか。」

王太子殿下が気を遣って庭園のベンチへと案内される。


ベンチに座る。…沈黙気まずいですわぁ。

ん?婚約破棄の話するなら今が絶好のチャンスじゃないのでは…?…ということで、当たって砕けろ~!!


「ルイシス・レ・ユーリ王太子殿下。私と婚約破棄をしてくださいますか?」

「…はい?」

…直球すぎたかも。


「婚約破棄です!婚約破棄をしたからには、未練がましく近寄ったりなどしませんし、金輪際ただの貴族として接すると約束しますわ!」

「僕と君が婚約破棄をすると?」

「はい、そうですわ!」

「婚約破棄を行いたいのはなぜですか?」

「私に王妃など向いていませんわ…!」

シャララーン。必殺演技!


「正直なところは?」

あう、コワイ…。さすが王族…。おもわず、本音を滑らせてしまう。


「……死にたくないからです…。」

「…はい?」

失礼な、大真面目です!

「はい?ではありませんわ!死にたくないのです!死刑にされたくないのです…!だって死んじゃったら、追放されて国外でハッピー(予定)ライフをエンジョイ出来ません…!」

「追放?死刑?」

「…八ッ。なななななななんでもありませんわっ!」

冷や汗タラタラで否定…。…や、やばかった…。


「…そうですか。それでは――。」

「信じられないようであれば、書面での契約をしますか?殿下の恋路は未練タラタラに邪魔しない、金輪際ただの一貴族として接する…。」



「婚約を続行しましょうね。」



「はいぃ?」

え、ここここここっ婚約続行するんですか!?!?


「レイヴィア、君は私の婚約者です。」

「ですが死刑が…。死亡が…。」

「では、書面にて契約をしましょう。一つ目、貴方をそれ相応のことがない限り死刑にしない、貴方を追放する場合は貴方の追放先で衣食住全ての環境を整える。職も用意する。これでどうですか?」

「でも、私にしか利がありませんわ。」

そんな都合の良い契約…。

「いえ、あなたと婚約を続行できることは、僕にとって利ですよ。」

「私との婚約が利ですか?」

「はい、それでは約束しましょうか。誰か魔紙とペンを持ってきてくださいますか?」

シュバッと魔紙とペンが傍にあった机に用意される。


魔紙にサラサラとペンが走る。

王太子殿下の字、綺麗だなぁ…。


「それではここにサインを。」

契約内容を再度確認し、ペンで名を記す。


魔紙は破っても簡単にはちぎれない、燃やしても燃えない最強の紙だから、契約などに結構使われる。高価だけどね。


サインをし終わって、王太子殿下に紙を差し出す。

「それでは改めて宜しくお願いします。」

私が座っているところの近くに王太子殿下が寄ってくる。

近いわ…至近距離だわ…美形オーラ半端ないわ…。


…何も考えるな私。無になるんだ。――すんっ…。


わー、れっつ現実逃避☆


「…王太子殿下、その、近いです…。」

でもやっぱり美形なお顔が近くにあるのには限界があったので、せめてもと反論。


「王太子殿下ではなく、ルイシス、と呼んでください。」

「はい?」

「僕も君をレヴィと呼びましょう。」

キラキラの笑顔で言われて、思考がフリーズする。

「…王太子殿下を名前呼びなど、恐れ多いですわ!寿命が縮みそう…。」

「…僕を何だと思っているのですか?」

おっと、いらないことを言ってしまったようだ。

「それに、僕が許可したのだから名前呼びでも問題ないですよ。」

「ですが…。」

ついっと人差し指で唇を塞がれる。

「次王太子殿下と呼んだら…、罰を与えましょうか?」

罰?!幽閉とか?!あわわわ……!!!


「王太子殿下、それだけは―――」

ご勘弁を、そう言おうとした所でハッとする。

王太子殿下はほほ笑んで――。

「言いましたね?」

「えとー、そのー、あのー」

王太子殿下…ルイシス様の顔が近づいてくる。

「さ、さすがに近いで――」


頬に柔らかい感触がした。


え、と思った頃にはもうルイシス様の顔は離れていて…。


バッと口づけをされた頬に手を当てる。

顔が熱を帯びている。


「罰ですよ、レヴィ。」


…確かに罰だ。恥ずかしすぎて爆発しそう…!ささささては、羞恥心で爆発させて殺す魂胆で…!!??


「さぁて、僕のことは何と呼びますか?」

「るるるるるる、ルイシス様です!」

「正解です。」

にっこりと微笑まられる。…これが悪魔で天使の微笑みなのね。



―――ドS腹黒王太子め…!!!



やっぱりデミグラスソースになっちゃえ!!!


ブクマなどなど、ありがとうございます(*- -)

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