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⒋家族②

「…うーん、今日の夕食なににしよ。」

冷蔵庫に残ってたチーズとトマトとかをからめてパスタ?

それとも焼いたばかりのパンとシチュー?

あ、それに家庭菜園で作った野菜もそろそろ食べなくちゃ。

焼きたてのほうがパンは美味しいだろうし…。

ということで夕食は、家庭菜園で作った野菜のサラダとパン&シチューに決定!




ザー、と蛇口からでる水の音がキッチンに響く。野菜を洗い、包丁で切る。

ついでに菜っ葉も一枚食べる。味はないけど、シャキシャキ美味しい。



―――よし、あとはシチューを待つだけ!



……シチュー、か。


お父さんが機嫌が良い時たまーにやってくれたレトルト食品の中でも、一番に好きだったん料理だな…。



――私が物心ついた時には、母は家を出ていて、いなかった。

そして、ろくでもない彼女を家に連れてくる父も、年の離れた冷たい兄も、私にとっては家族ではない存在だった。


父は、家にいない日数がどんどん増え、兄は高校になると家を出て、独り立ちした。


父は、私が大きくなるにつれ、私と会う回数が減り、生活費だけを送ってくるようになった。父には感謝しているが、生活費だけを送ってくる親を、あまり好きにはなれなかった。

生活費を送ってくれるだけで嬉しいと思わなくてはならないのかもしれないが、私は父を、あまり好きにはなれなかった。


兄の記憶はほとんどない。

私の食べ物を奪われたこと、八つ当たりで殴られたことは、鮮明に覚えているけれど。


友達もいなかった。

家庭がほぼ崩壊している私に近寄る人もいなかったから。


…ま、過去のことはどーでもいいんだけど。今の私には楽しみもあるし!


―――そんなこんなで、シチューが完成。


シチューをお玉で皿によそい、再度焼いていたパンをオーブンから取り出す。

野菜の水をきって、皿に盛り、冷蔵庫を開けて、ドレッシングを選別する。


今夜はフレンチドレッシングに決めた!



――いただきます。

独りぼっちの食卓は、慣れている。

誰かと食べた回数なんて、仕事以外のプライベートでは数えるほどだろう。


んー。シチューのコクがたまらん…!パンもいつもよりフワフワに焼けた!


あっというまに食べ終わってしまった…。ごちそうさまでした!


食後の後片付けをして、食後のお楽しみのために、冷蔵庫から炭酸を取り出す。

…私、下戸なのよねぇ。


そして、パソコンの正面に座って、お楽しみの準備。


私の生きがいともいえるであろうことをこれからするのだ…!



画面に表示された『Flower(花に) Wish(願いを)』という文字を見て、私の頬は緩む。

これが唯一の楽しみみたいなもんよ…!――途中からスタートっと。


…大好きな乙女ゲーム、『Flower(花に) Wish(願いを)』、略してハナネガ。私の楽しみ。


今は、隠しキャラの悪役令嬢の奴隷かつ侍従を攻略中!これがまた難しいのだ…。


無課金さんでも楽しめるゲームだけど、私は課金勢だ。

アイテムとかあった方がいいしね。


プシューッと耳にいい音をたてて、ペットボトルのキャップが開く。

炭酸のしびれる感じが喉にジュワーッと広がる…!


フッフッフー。さぁ、娯楽の始まりよ!




「――あ、これ…死亡エンドの流れだぁ!」

暫く、カシャカシャという音だけが響いていたが、死亡エンドの流れになって、私は絶望で叫んだ。やっちまった…。


『レイヴィア:愛すると貴方様と一緒になれないなら…私の玩具も消えていくなら…』

『あなた:え…』

『レイヴィア:もう死にましょう…』

『そして、黒い閃光が轟いた。レイヴィアの自殺に巻き込まれて、あなたは死亡した』

『ーBAD ENDー』



「うぅ…」

やっぱり悔しくて炭酸をあおり飲みする。

隠しキャラルートって死にやすいんだよなー。…コンプするまで諦めないけど!…よし、リセット、と。


…そうして熱中していた私は、後ろの人影に気づかなかった。



背中に刃物が突き立てられて初めて、後ろに人がいることに気が付く。

刃物が抜かれる感覚と共に、血がドバッと溢れる感覚を知る。


熱い。体が、熱い。……こんなに大量の血を見るのは、いくらなんでも、初めて。


イスから落ちて床に転がった私を、私を刺した…漆黒の髪に凍てついた炎のような紅の瞳をした青年は、ぼんやりと私を見下ろして、うつろな瞳で呟いた。


「………また」


◇◇◇

「―――――――ッ!」

目が覚める。気づくと、肩で大きく息をして、ボロボロと泣いていた。


「――お嬢様、落ち着いてください。大丈夫です、大丈夫です」

駆けつけて来たメイドが落ち着かせてくれる。背中をさすってくれる手がありがたい。


「大丈夫です、大丈夫ですよ、お嬢様」


「お嬢様はいつもの悪夢で…。」


他のメイドの、小さい呟きが耳に入る。

いつも、と言っているあたりから、前世の記憶がないときのレイヴィアも、よく悪夢にうなされていたのだろう。


『………また』


耳に焼き付いているのは、あの声。そして、身体に染みついている、あの感覚。


―――あなたは、何故私を殺したの?


誰も分からない。本人が明かす限り、誰も、私に答えを教えてくれることは、出来ない。



◇◇◇

「…イリア、昨日はありがとう。」

そして本当にごめんなさい…。結局、私が眠れたのは、0時過ぎ。睡眠時間削ってごめんよ…。専属メイドの名前もレイヴィアは知らなくてごめんよ…。


――直接名前を聞くのはほんとに気まずかったのです。



『…お嬢様がお礼を言ってくださるなんて…!』

――そしてお礼を言うと、イリアは凄く感激し…。


…え、なに。レイヴィアどんだけ扱いひどかったの…?  なんか…ごめんよ。



そして私がイリアにお礼して学んだことは、レイヴィアがどれだけワガママっ子だったかです。誠に申し訳ございませんでした…。


◇◇◇

――今日は、フィルスとソフィーユとフィーリアがやって来る日。


「――――お嬢様、身支度が整いましたので、執務室に向かいましょう。」

イリアが身支度を整えてくれた。…鏡の自分をまじまじと見つめて、思うことが。


…これ、本当に私の顔?


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