32.アヴィ、あなただけを。
前半はアヴィ視点です。
馬車に揺られながら、窓の向こうの景色をぼんやりと見た。
しかし、景色が視界に入ってくるだけで、頭では他のことを考えていた。
――…どうしてなのだろう。
前々から、あの方が時折見せる、感情にフタをしたような笑みを、哀しそうな、辛そうな表情を、なぜ浮かべるのか理解できなかった。
……誰かが、あなたを傷つけられるわけもないし、罵詈雑言を吐けるわけもない。
なのに、あの表情は、まるで――。
「———ごめ……なさ…。」
小さいけれども、恐怖が感じ取られる声にハッとした。あの方を見ると、こまかに震えている華奢な身体を壁にもたらせ、目を閉じていた。…眠っているのだろうか。
「……め…なさ、い。」
…なぜ、謝るのだろう。
それを聞いたって、抱え込みがちなあの方が打ち明けてくれないことなんて、分かっている。…それが無性に、悔しい。
さっきだって…ほぼ、八つ当たりだった。自分ひとりでも大丈夫だと思っているあの方に、自分の身勝手な怒りをぶつけただけだった。
――…深いところでとても弱いこの方を、完全に守れるほどに、強くなろう。
「——死ぬなんて、許さないですからね。」
この方が死んでしまったら、なんて、考えられない。きっとまた、抜け殻のように淡々と生きる日々に戻ってしまうだけだろう。
この方には、幸せになって欲しい。…王太子殿下と。
そのためには、なんだってする。この方が、幸せに生きられるのなら。命だって、かけてやろう。
…これは、恩返し以上の感情ではない。恩返しの感情他ならないのだ。
まるで何かから逃げるかのように、考えを振り払っていると、あの方の藍色のまつ毛がかすかに動いた。
ゆっくりと、灰色の瞳が見えてくる。しばらく焦点が定まらない様子でぼんやりしていたが、俺が「体調の方はいかがでしょうか。」と声を掛けると視線を合わせて笑みを作り――。
「大丈夫だよ!」
絹糸のような藍の髪に、雪空のような灰色の瞳を持つ、この方を、俺は、守りたい。
…そう、これは、恩情だ。恩情、なのだ。
―――白いゼラニウムの花言葉は、『あなたの愛を信じない』。アヴィ…ゲームでのラスルは、まさに愛を拒絶するような、全てを信じないような雰囲気を醸し出す青年だった。だが、彼はそう簡単には『愛を信じない』からこそ、愛した相手にはとことん尽くす。…ただ、彼のルートのハッピーエンドでは、檻に閉じ込められて終わるか、溺愛されて彼なしではいられないようにされるか、などしかない。…要するに、彼はヤンデレキャラ。
つまり、レイヴィアは知らず知らずのうちにフラグをたててしまっていたのだ。
◇◇◇
レイヴィア・フィ・シャルラム。悪役令嬢になるであろう私は、なんやかんやで暗殺されそうになってなんやかんやで王宮で守られてて、なんやかんやで――。
――王家の方々とお茶会しております…。
ブクマなどなど、ありがとうございます(*- -)




