31.枯れた花②
屋敷の中に戻り、言われた通りにしていると、あっという間に夕食の時間がやって来た。
毒味は、ルイシス様の判断で、毒に気付くための嗅覚、味覚、視覚ともに優れていて、それから毒にも耐性があり、薬草・毒草の知識も他に比べてあるアヴィにやってもらうことにした。
「……問題ないです。…お嬢様、それから、ルイシス様からの手紙が添えられていました。」
アヴィの手から手紙を受取ろうとすると、イリアが――。
「お嬢様、お待ちください。…アヴィ、手袋を外して、こちらに。予備の手袋はあるかしら。」
「…はい。」
アヴィはハッとした表情となり、なぜイリアが止めたのか理解したようだけど、私はちんぷんかんぷん。はて、どうして??
そして、アヴィの付けていた手袋を袋に入れたイリアは、新たな予備の手袋を手にはめ、手紙の封を開け、中に入っていた手紙を机に置いた。
「――絶対に、触らないでください。念のため、口にも布を巻き、手袋も嵌めて下さい。」
こくりと頷き、口に布を巻き、手袋を嵌める。イリアとアヴィも、口に布を巻き、手袋を嵌めた。準備が整ったところで、手紙を見ると――。
手紙で申し訳ない。
くれぐれも、気を付けて。午後四時に、迎えの馬車が来ます。玄関まで移動する際も、護衛騎士を周りにつけてください。詳しくは、後ほど王宮にて話します。
――え、午後四時?! いまは…午後三時四十分。
「――お嬢様、急ぎましょう。…アヴィ、荷物をまとめて。私は手紙を処理してくるので。」
「かしこまりました。」
「あ、イリア。…気を付けてね。」
「ご心配ありがとうございます。私は強いので平気ですよ。…お嬢様、ご自分の命を、まずは最優先にしてくださいね。」
そうして部屋を出ていったイリア。強いって言ってたけど、やっぱり心配…。
そんな私の心情に気付いたのか、アヴィが荷物をまとめながら――。
「大丈夫ですよ、お嬢様。イリア先輩は本当に強いですよ。だってイリア先輩はもと……いえ、何でも。」
「もと、何…?」
「…口止めされているので、秘密です。」
「……。」
でも、アヴィは口が固いので、これ以上話してくれないのは分かっている。…大人しく諦め、私は荷物をまとめるのを手伝った。といっても、力仕事は出来ないので、香油とか装飾品を箱に詰めるぐらいのお手伝いだけどね。
「――お嬢様、万が一のときには、何が何でもご自分の命を優先してくださいね。誰かを守ることなど、しなくていいですからね?」
「……あ、アヴィ。カラの香油はどうすればいい?」
「…お嬢様。カラの香油は置いておいてください。あとで処分しますので。…お嬢様、話を逸らさずに、どうか、うなずいてください…。あなたは、いずれは……王妃と、なるのですから…。」
「…私が死んでも、王妃になれる人はいっぱいいるよ。」
アヴィが告げた約束が、破らないとは限らないものだったので、話を逸らしたが、余計に心配されるだけだった。
「ですが、貴方様に値するほどの人物は、ございません。」
「買いかぶりすぎだよ。…私は、そんなに立派じゃないよ。」
「……。」
アヴィは何かを言おうと口を開いたが、喋ることなく口を閉じた。
無言で、アヴィは荷物をまとめていく。…何やら、怒っているオーラが出ている。
変な空気をかえたくって、笑顔を作って明るい声でアヴィに声を掛ける。
「…香油とか、箱に入れ終わったよ!次は何すればいい?」
「――……て、ください。」
下を向いているアヴィは、こちらを見てくれない。声も、怒りを押し殺しているような声音だ。アヴィ、ともう一度声を掛けようとすると、アヴィの手に、肩を掴まれた。
「――大人しく守られてください!! 誰かを守るなんてしなくていい、案じるなんて、気遣うなんてしなくっていいから…どうか、大人しく守られてください。あなたが死んだら、俺は、どうすればいいんですか…。」
アヴィに真正面から、そう言われる。
――私が死んだら、どうすればいい?私が死んだって、アヴィの命には何も影響はないのに?
…どうすればいいかなんて、そんなの、また公爵家に仕えて、生きていけばいいだけ。
アヴィが仕えているのは、あくまでも私じゃない。見出して推薦したのが私というだけで、雇っているのはお父様…公爵家だもの。
―――もしや、アヴィは自分に、侍従としての情を抱いてくれているのだろうか。
分からない。断定はできないけど、もしそうなのなら――どうすればいいのだろう。
情、愛、恋なんていう気持ちは、身近には触れていなかったから、どうすればいいのか、分からない。
情とは、きっと春の光のような暖かい気持ちなのだろう。
恋とは、きっと燃え上がる炎のような気持なのだろう。
愛とは、きっと――。
――全部、推測でしか、考えられない。だって、感じたこともないのだもの。
『生まれてこなければ、良かったのに…。』
…目を伏せる。だけど、すぐに微笑みに変える。
「――アヴィ。心配してくれて、ありがとう。私は、大丈夫だよ。」
…「大丈夫」なんて。――まるで、自分に言い聞かせてるみたいね。
「……そう。私はずっと、ずっと…大丈夫だったから。」
――…昔、何度も自分に「大丈夫」と言い聞かせた。
不安な時、怖くて怖くて、どうしても逃げ出そうとしてしまう自分に、何度も言い聞かせて来た。
「――アヴィ、もう四時だよ。そろそろ下に降りよっか。」
…大丈夫。私は上手く、笑えてる。
ブクマなどなど、ありがとうございます(*- -)




