30.枯れた花々①
「フィ、フィルス…。これって…?」
恐る恐る、無となって二人を傍観していたフィルスに声を掛ける。
「…姉さん、起きたんだ。」
「うん、ぐっすり寝たよ。…じゃなくて!」
「……王太子殿下とソフィが、勝負してる。」
「…な、なにゆえ??」
「………。」
沈黙したフィル。…よし、複雑な何かが起きたと納得しよう!深く考えては駄目、知らない方が良かったこともある、ってどっかの誰かさんも言ってたしね!
――それにしても、ソフィが剣の鍛錬に励んでたのは知ってたけど…。
…ソフィ、凄く上手に剣を操ってるなぁ。
ルイシス様も、流石王族の教育を受けてきただけあって、強い。
……だからこそ、見てるこっちがハラハラする!!
「……中々の腕前ですわね、王太子殿下。」
「ソフィーユ嬢も良い剣筋ですね。」
「ありがとうございますわ。…ですが王太子殿下、あなたにお姉さまはどう譲ったって任せられませんわ!!」
一度剣を止めたのは良いものの、再度攻撃を始めたソフィ。…というか、私関係してるの?? …ま、ますます分からなくなってきた。
「……ねぇソフィ、姉さま来て――」
フィルは姉さま来てるよ、とソフィに言おうとしたのだろうか。…しかし、ソフィはフィルの言葉を遮って――。
「お兄様は黙って…――。」
……そして、私を見て絶句したような驚いたような顔になった。…それから、ソフィが私に突進してくるのに五秒もなかったと思う。
「――お姉さま~!!!」
「わ、っと……。」
凄い勢いで駆け寄って来たソフィを、よろめきそうになりながらも抱きとめる。
「……さっきとはまるで別人。」
「お兄様は黙っていらして??」
はてはて、フィルは何て言ったのだろう。ソフィを抱きとめるのに必死で聞いていなかった。
「……レヴィ、起きたのですね。無事で何よりです。」
「ありがとうございます、ルイシス様。」
抱き着いてくるソフィの綺麗な髪を撫でながら、軽く笑みを浮かべ返事をした。
「…ところで、どうして闘ってたの?」
さっきからやっぱり気になってたことをソフィに聞く。
「……今日は、いい天気ですわね…。」
「今日は曇りだよ、ソフィ…。」
私からスススッと離れ、空を見上げたソフィ…。
ルイシス様は…とルイシス様に視線を送るも、目を逸らされた。
――私の‟教えてくれなさそうな気がする”という予感は的中したのだった。
ははは、何か勘づいていましたわよ…。…こうして真相は闇に葬られましたとさ。
「……レヴィ。」
真相の行方を偲んでいると、ルイシス様に声を掛けられた。何ですか、と聞き返そうとする前に――シュッと、風を切るような音が聞こえた。
反射で音の方を見ると、一本の矢が、私一直線に飛んできていた。
とりあえず…伏せる!
私の後ろの木に、矢は刺さった。
……舌打ちが聞こえたような気がしたけど、気のせい?
ソフィとフィルが、慌てたように駆け寄って来た。
私の身体には怪我がないと安堵した二人と、一体だれがこんなことを?と顔を見合わせる。
ルイシス様ならわかるかな、と先程から黙っているルイシス様の方を見ると、ルイシス様は木に刺さった矢を手に取り、唖然としていた。
「…どう、して。」
「…あの、ルイシス様。…どうされましたか?」
「――レヴィ。…屋敷内に避難してください。部屋の前にも護衛騎士を数人おいてください。それから、信用できる使用人しか部屋に置かないでください。食事の毒味も、必ずかかさずに。今日中に帰ることにしますが、しばらく王宮にて過ごしてもらうことになります。」
「ど、どうしてですか?」
「あの人が…レヴィの命を狙っています。目的は、分かりませんが。」
え、私の命を?? ていうか、誰が?? …急展開すぎて頭が追い付かない!!!
「えっと、あの人とは…?」
「話はあとです。屋敷内に戻ってください。警備を怠らず、窓はカーテンを閉めて、窓にも近寄らずに。」
「は、はい。」
「……お姉さま、部屋に、戻りましょう。」
ソフィも、この空気を感じ取ったのか、どこか焦ったような顔で私の手を握った。
「――うん。」
何が起きているのかは、分からない。だけど、誰かが私の命を狙っているかと思うと――背筋が、ぞくりとした。
◇◇◇
華やかなドレスを着て、絹の手袋を纏った、美しく艶やかな顔立ちの女性は、可憐な白い小花を手に、憎々しげな表情でつぶやいた。
「――幸せになるなんて、許さない…。」
ポタ…。
白い小さい花が潰れ、ポタリと雫が垂れる。その雫は、美しいガラス製の小瓶に、収まった。
ガラスの小瓶の向こうに映る、美しい女性の顔は――まるで彼女の捻じれた心を映し出すかのように、酷く、歪んでいた。
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投稿が遅れてすみません…。次の投稿は明日です。
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