⒊家族①
ラウゼル・ルキ・シャルラム公爵。
レイヴィアの時の記憶の中でも、ゲームの中でも、レイヴィアを睨んでしか来なかった、れっきとしたレイヴィア嫌いだ。
ま、レイヴィアが不吉な藍色の髪だから嫌いっていう理由もあるけど、なにより……。
‟シャルラム公爵夫人の死”という理由がある。
お母様は、不吉な髪色の私のせいで病んで、産後に精神的な理由で死んでしまったから。
以上二つの理由(まだ嫌いな理由あるかもしれないけど)から、お父様はレイヴィアが大嫌いなのだ。…記憶があってるのなら、多分あってる。
……礼儀上、仕方なく席から立ち上がり、挨拶をする。
「お父様。ご機嫌麗しゅう。」
レイヴィアの記憶と、前世で様々な小説やら乙女ゲームやらで見た礼儀作法を脳内で必死にかき集めたから、礼儀通りの挨拶になってる…はず。
「…。」
けれどお父様完全無視。
無視されたので、こちらもツンとすまして、席に着いて、再度紅茶を飲み始める。…父の態度が最悪でも紅茶の美味しさは変わらないしね。
そうしてしばらく紅茶を堪能していると、お父様が話しかけてきた。
「…レイヴィア。お前に義母と義弟、義妹ができる。」
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――は・い?
…話しかけてきたと思ったら、急に何ですか!? 紅茶吹き出しそうになったじゃないですか!
不満タラタラに紅茶を飲み込み、一応答える。
「…まぁ、お父様にはシルフィお母様がいたはずですが…。…私が、新たにすることはありまして?」
――精一杯の皮肉をこめて。ちなみに訳は、『前妻好きだったろ?なのに後妻入れるってどういうことですかぁ?けっ、へなちょこめ。浮気ヤロウ!でも私は否定しませんよー、言うこと聞いてあげますよぉ。』である。
……我ながら可愛げがゼロだな。でも、嫌われたっていいのよ!だって私は、結局は皆に嫌われる運命だもの!
「…一週間後、来る予定だ。身支度を整えてから、応接間に来い。」
お父様は私の嫌味にぶれることなく、ていうか無視してひとしきり喋って席を立って、扉の方へ向かった。
「…かしこまりましたわ。」
ちなみに、シャルラム公爵の訳は、
『一週間後来るから、せいぜいその貧相な見た目を整えて来い。』である。
扉の向こうに消えたお父様の背中に向かって、心の中でアカンベをする。……心の中で、ね。
…そうして、不満タラタラに部屋に戻ったところで、私は気付いてしまったのだ。
そういえば、レイヴィアの義弟と義妹って、攻略対象とヒロインの友人ポジションだった………っ!
◇◇◇
フィルス・ロィ・シャルラム。
魔力の有望さから、シャルラム公爵家の養子になった、柔らかなベージュブロンドの髪に、魅惑的な菫色の瞳の、顔立ちの整った容姿の少年。イメージフラワーは、瞳の色と同じ、紫のスミレ。
フィルスは、シャルラム公爵家の分家である、落ちこぼれ貴族のマロィ伯爵家の愛人だったフィーリアの子供だ。
フィーリアは、美しい歌姫と評判だったところを、落ちこぼれ伯爵に見初められ、愛人にされてしまったのだ。
…マロィ伯爵は、ゲーム画面ではシルエットしかなかったけど、体格が丸く、脂ぎった感じだった。フィルス、美形の母似で良かったな…。
そして、フィルスは愛人フィーリアの子として産まれ、その後、妹のソフィーユも加わり、三人で、質素な小屋の中で身を寄せ合って暮らした。
けれど、本来は十五歳で芽生えて使えるようになるはずの魔力を爆発させてしまい、正室・側室の子供たちに重傷を負わせてしまう。
ちょうど、跡継ぎのための養子を欲しがっていたシャルラム公爵は知識・容姿ともに優れているフィルスを養子にしようとする。
けれどフィルスは、養子になる代わりに、妹と母もつれていくことを条件にして……。
なので私には、義弟だけではなく、義妹・義母も出来るのだ。お父様もフィーリアが来ることで、後妻の座を狙う女性たちを追い払えるというメリット(効果?)があるしね。
そのあと、ゲームのレイヴィアは義弟を玩具にし、義妹を奴隷のように扱い自己肯定感ゼロにしたり、義母を虐めて自殺させたりしちゃう。…その義妹、ソフィーユもフィルスルート・逆ハールートで大事な登場人物で、黄色のスミレというイメージフラワーが付けられている。
――ハナネガでは、ソフィーユとフィーリアとフィルスが仲良く暮らしている過去の回想スチルが何度も出てくるほど、フィルスたちは仲睦まじい家族だった。
だから、その大切な家族がレイヴィアによってズタズタにされ、フィルスはよっぽど辛かっただろう。
フィルスルートで、レイヴィアがフィルスに殺されてしまうのも当たり前だ。
でも、私には家族の仇を討つ…という感覚が今も前も理解できなかった。
それほど愛していたから?大切だったから?
……分からない。
だって、知らないから。
家族って、何なのか知らないから。
私は一生知らないまま。
だから、私は一生、分かれない。
ブクマなどなど、ありがとうございます(*- -)