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⒑獣人①

「わ~!」

あの屋台で売ってる美味しそうなお菓子、何かな?

あのキラキラしてて綺麗なの何かな?


「はしゃぐお姉さま…天使ですわ…尊いですわ…」


「?」

ソフィが両手で顔を覆って何か呟いていた。聞こえなかったけど。


「ねぇフィル、あれ何かな?」

甘い匂いを漂わせている、綺麗な何か。

謎に悶えているソフィには聞けなさそうだったので、冷静無口な義弟のフィルに聞いた。


「あれはリコスの実を飴で包んだものだよ」

親しいものにしか見せない、フィルのふわりとした笑顔はやっぱり綺麗だ。

普段の無の顔とレアな笑顔のギャップ萌えがハナネガのフィルを人気にさせていた。


フィル推しではなかったけど、こうしてみるとフィル推しの気持ちが分かるような…。



「姉さま?」

黙っていたからか、心配させてしまった。


「ううん、教えてくれてありがとう。」


「うん」

固い蕾が綻んだような微笑み…可愛い。


「フィルは可愛いわねぇ」

よしよしと頭を撫でる。


するとフィルは不貞腐れたような顔をした。


「可愛いって…」

可愛いは男の子に失礼だったかな?


「フィル、かっこいいわ!」

「姉さまのほうが可愛い…」

「フィルス、私の婚約者に向かって何を言っているのですか?」

いつの間にかルイシス様が背後に立っていた。


「久しぶりですね、レヴィ」

「はい、久しぶり…ですね?…二日前に会いませんでしたっけ」

「姉さま、この貴人サマは感覚が他とは違うんだよ」

…そんな特徴、ハナネガのルイシスにあったっけ?…まぁ、そんなこともあるんだろう。


「フィルス、嫌味とは失敬ですね」

「嫌味?はて、何のことでしょうか」

「残念ながら、私には嫌味は効きませんよ」

「いちいちうるさいんですよ、王太子殿下」


…ルイシス様とフィルがお喋りしてる。…多分、仲良しになってる。


…私だって、ソフィとイチャイチャお喋りするもん!


―――けれども、ソフィはまだ、両手を組んで夢見心地状態だった。



()ねてなんかない!別に、拗ねてなんかないから!



「…フィルス、レヴィが拗ねているので、一時休戦としましょうか」

「…そうですね」

――拗ねてないってば!



「…それとレヴィ、私のことは、町ではシスルと呼んでくださいね」

「シスル…ですか?」

「はい。王太子だとバレてしまう恐れがあるので」

「分かりました!」

「うっわ…殿下、ただただ自分の略称呼ばせたいだけでしょ」

「…なにか言いましたか?フィル?」

「いいえ。ただの独り言ですよ。耳鼻科行ったらどうですか?」

「あいにく、それほど年老いていませんので」


…なぜか饒舌になったフィルがまたお喋りが始まってしまった。あー暇だなー。



…あ。蝶々?


私の目の前を、黒い蝶々が横切った。鱗粉が微かにキラキラと舞った。


…蝶々を追いかけるほど、私はそこまで幼くはなかった。だけど…気になって、私はその蝶々を追ってしまったのだ。


◇◇◇

「…ここ、どこだろう」

蝶を追いかけていると、道に迷ってしまった。蝶もいないし…。


それに、人が全然いない…。



誰か人を見つけて、道を聞こう!そう思って歩くけど…全然いない。


「…あ!」

ようやく、人影らしきものを見つけたので駆け寄る。しかし、足がぴたりと止まった。会話が聞こえて来たから。


「おい…この国でちゃんとやるんだぞ。あいにく返品は受け付けないんでなぁ。」

「…分かっています。」

影と言葉遣いからして…巨体の男が一人と…子供だろうか、誰かが一人いる。


「おいおいおい、なんだその言いぐさはよぉ!自分は獣人だから他とは違うってかぁ!?」

ドッと鈍い音がして、人がこちらに転がってくる。

…殴られたようだ。出血もあるし、過去にも暴力を受けて来たのだろうか、傷跡もある。


ふいに、ちらりとその深緑の瞳が見えた。虚空を見ている、全てを諦めているような、そんな色の瞳だった。


その瞳を見た時、誰かとこの子が重なった。


――似ている。どこかが、よく似ているから。


その深緑の瞳を見ていると、目があった。…ますます、似ていると思ってしまう。

全てを恨んでいるような、憎んでいるような、誰もかれも拒絶するような、そんな雰囲気が出ているから。


「……あなたは。」


「一目ぼれしちまったかぁ? まぁそいつは見目はいいしなぁ。…あんたが大金出せるっつうなら売るぜ? まぁ出せねえだろうがなぁ。」

「……あなたにとって、この子はただの商品なのね。」

「それ以外に何があるっていうんだ。親に売られて俺が買ったんだから、俺の商品なんだよ。」

「…あなたの商品なの?」

「あぁそうだよ。…おや嬢ちゃん、お綺麗な顔してんなぁ。…こいつぁ上玉だ。くくっ、売れば金になるなぁ。」

手が、私の顔めがけて伸ばされる。…あなたはその手で、今の今まで、この子を苦しませてきたのでしょうね。


のびてくる手が、過去の記憶と重なる。…私の、大嫌いだった手と。


そのとき一瞬、私は悪役令嬢なのに、悪役令嬢らしくない顔になってしまったのだと思う。


…だけど、それも一瞬。


のびてきた手を、ガシリと掴む。


「――わたしは、あなたのモノにはならないわ。」

……もう、モノの私ではないから。弱さを見せることなく、悪役令嬢さながらの雰囲気で相手を睨む。にっこりと、あくどい微笑を称えて、眉を寄せて。


「おいおい、上等にも喧嘩売ろうってか? 大人しくしとけば痛い目はあわせなかったんだけどなぁ!!」

飛んできた拳を避ける。攻撃が頭をかすり、帽子は落ちてしまったが、拾うことなくあの子の手を掴む。男は追いかけようとしてきたが、お財布を顔面に投げつけると、こぼれ落ちたお金を拾うのに手間取って、立ち止まってしまった。


「立って!逃げるわよ!」

流石に私では運べないので手を引っ張って立たせる。


あの子の手を握って、あの男から逃げる。あれがどれだけの時間稼ぎになるのかも分からないから。それに、悪役令嬢であっても非力な私には、弱り切っているこの子も守り切れるか分からないから。


「――レヴィ!」

聞き覚えのある、ルイシス様の声が聞こえて、少し力が抜けた。


私はあの子の手をしっかりと握って、ルイシス様の方へ駆け寄っていった。



ブクマなどなど、ありがとうございます(*- -)

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