⒐雑草
『貴方を買うわ。だって、いい玩具になりそうだもの』
そう、獣人の少年を引き連れた人相の悪そうな男に告げたのは、藍色の髪を帽子で隠している、灰色の瞳の美しい少女だった。
『あん?嬢ちゃん、こいつは買えないぜぇ?もう買い手がいるからなぁ』
だから諦めな、男がそういう前に、少女は言った。
『いくら?』
『は?』
『だ・か・ら、いくらって聞いてるの』
『いやだから、コイツは買えねぇって――ぐはっ』
バタり、男は前に倒れた。男の後ろには、ベージュブロンドの髪に濁ったアメジストの瞳の少年が、血濡れた剣を持って立っていた。
『あらぁ?喋れなくなっちゃった?ねぇ、コイツはいくら?』
『た…だで…や、る…。だ、から…助け…て、くれ…』
『タダね。分かったわ。ねぇルイシス様、愚かなコイツを助けてあげて』
『は…や、ク…助け、て…く、れ…』
『フフッ、あ、言ってなかったかしら?あなたを刺した剣には、毒がた~っぷり塗ってあるの。体内にどんどん染み込んで、すご~い痛みが走るわ!お父様は私を放っておくから、私、暇すぎて毒を作ったの!安心してね。勿論、他の人の人体で実験済みよぉ。』
少女は不気味にほほ笑むと、クルリと金髪碧眼の王太子殿下であるルイシスのほうを向いて、『は・や・く』と口を動かした。
そして、お芝居が待ちきれない少女のような顔をした。
『あ、剣に塗ってあった毒、解毒剤がないの!だから、痛みから解放されたいのなら、殺されるか、自殺するしかないの』
人が苦しんでいるのを実に楽しそうに見ながら、少女はクスリと笑った。
『ころ…し、て…くれ…』
この叫びを聞いて、少女はキャハハッと笑った。そして王太子を見て、『早く殺してあげなさいな、オ・ウ・ジ・サ・マ』と言った。
『すまない…』
王太子はそう言って、早く死ねるように、一刺しした。
『あ~、自国の国民殺してる~!ふふっ、イケナイ王太子様ねぇ』
『…ッ』
王太子は俯いた。こんな婚約者と結婚をしなければならないことが惨めで。
『俺を、どうするつもりなんですか』
ずっと黙っていた獣人の少年が困惑と恐怖の表情で言う。
『やっぱり綺麗ねぇ。あなた、名前は何?』
『…ない』
『そ。じゃあラスルね』
ラスル…ゴミ捨て場の端など、湿ったところに湧く、毒虫の名前。珍しいオッドアイの獣人の少年は、その虫の名をつけられたのだ。
『いーい?あなたはこれから私の奴隷。私の玩具。私に逆らうことは許されないの…。私の愚弟のフィルスや、哀れな婚約者の王太子ルイシス様のようにね…』
『…わ、かった。俺は、生きたい…。生きれるなら、何でもする…!』
『分かったわ。生かしてあげる。美しい私の玩具、これから宜しくね』
それから、ラスルと名付けられた少年は身を綺麗にされ、執事服を着せられ、少女の…主の執事として、奴隷として、玩具として、ヒドイ扱いを受けた。
身の回りは美しいものだけしか置きたくない、と言い張る主人のため、美しく珍しいものを集め、アイツがムカつく、と主人に言われればソイツを殺し、アレを盗め、と言われれば盗みに言った。
主が望めば全てを行った。生きるために。
時には実験台になった。時には玩具として拷問道具でいたぶられた。
全ては生きるために。生きなければ全てが終わりだ。
そして、主のたくさんの奴隷、玩具の中でも一番のお気に入りになった。
ずっと、従順な笑顔の仮面を張り付けていた。生きるために。
生きた。手を黒に染めてでも生きた。必死で生きた。偽って生きた。
そして、ラスルは出会った。主の付き添いでやってきた学園で。悪魔のような主とは違い、天使のような少女に。
『偽って生きちゃダメ。本当のあなたを、見せていいんだよ』
『主は従順な自分を望んでいますので…』
それでも心を開くことが出来なかったラスル。だけど、ヒロインに抱きしめられて、ぬくもりを久々に感じたラスルは、ヒロインの前だけで素の自分を見せられるようになった。
ガシャッ
お茶の入ったカップが床に落ちて割れた。
見ると、先程までそのカップでお茶を飲んでいた、ラスルの主である藍色の髪に灰色の瞳の令嬢――レイヴィアがカップの破片が散らばる絨毯の上に倒れこんだ。
『主…お前が今まで殺した奴隷の分だけ、俺がお前を殺してやる――ッ!』
ドクンッ
心臓が大きく鳴る。痛い、痛い―――。意識が朦朧とする。
『どうだ、主!今まで殺した奴の分だけ、せいぜい毒で苦しんで死ぬんだな!』
ラスルが勝ち誇った笑顔で主のレイヴィアを見降ろした。
彼の震える獣耳と、黒にみえる深緑の瞳。
珍しい容姿のせいで、今まで命を縛り付けられてきたラスルは、今、復讐を果たした。
ラスルのイメージフラワー、白いゼラニウム。花言葉は――「あなたの愛を信じない」。
◇◇◇
「お姉さま、見てください、綺麗ですわ!」
「わぁ…!」
町歩き楽しみ…! 前世は庶民だったから、ぶっちゃけ豪邸よりこういう場所の方がなんか落ち着くのよね…。
ガチャッ
ドアが開いて、眩しい光が流れ込んでくる。
「着きました。馬車をお降りくださいませ」
「えぇ、ありがとう。」
言葉遣いをさっと変えて、従者にエスコートされながら馬車を降りる。町に豪華な馬車で堂々と移動すると、物盗りなどに出会ってしまうかもしれないので、町から少し離れたこの場所で馬車から降りて、町まで徒歩で移動する。
「お嬢様、髪を帽子で隠してくださいませ」
藍色の髪は目立つからね。イリアに白い帽子の中に髪を入れて被せてもらう。
「さぁ、行きましょう。」
その頃――。とある船から、人相の悪い男に引き連れらて獣人の少年が降りてきていた――。
少年は呟いた。
「俺は、どう粗がいても、生きて見せる――」
ブクマなどなど、ありがとうございます(*- -)




