王国で醜女と呼ばれていましたが、誘拐された帝国では絶世の美女のようです〜ついでに全能の聖女の力が開花しましたが、誘拐してくれた帝国の皇子の為だけに使いたいと思います
私はこのままでは婚約破棄される。
そう私、ミィレス・オーリス思ったのは7歳の時だ。
それは6人いる姉妹の中でも私だけが明らかに見た目が違っていたからだ。
5人は既に嫁ぎ先が決まり、後は私だけだったけれど、婚約していた相手は長女のアディリシアと関係をもっていた。
結婚出来ない、子供を授かることが出来ない女は価値がないと言われていた中で婚約破棄され醜女と罵られるだけならまだましだけれど、最悪奴隷にさせられる可能性だってある。
男に生まれれば良かったと何度考えたことか。
男であれば不細工でも国を守り築く力があれば何の問題も無かったから。
とは言え今更男の振りをするなんて無理なこと、どうしたらと私は考え、1つの結論を出した。
「……誘拐してもらおう」
どうせ王国にいても私を心配してくれる人はいない。
ならばいっそのこと誘拐されてしまえばいい。
死んだ振りか黙って出て行くこと考えたけれど、私にはまだ1人で生きていく力はない。
とは言え私にも人生というものがある。
空気と土、水が綺麗な場所、そこで果物を育てそれでジャムを作り皆に食べて貰いたいと言う小さな夢があった。
野盗盗賊に誘拐して下さいと言った所で良いように使われて捨てられるか殺されるだけ。
誘拐した側にも利点がないといけないわけだ。
「あるとすればこれかなぁ……」
私は膝をつき天に祈りを捧げる。
すると目の前で枯れそうになっていた一輪の花がみるみるうちに元気を取り戻してゆく。
聖女の力だ。
一応王国の王族の血を継ぐ私にも力はあったけれど、どうにか頑張って花を元気にするくらいだ。
聖女の力はその人自身を信仰してくれた人の数に比例する。
王国の3割以上から信仰を集めていた1番有名な聖女、長女アディリシアなら1日あれば死んだ人すらも蘇らせることが可能だ。
あまりに弱すぎる力だけれど、これを交渉材料にするしか私に残された道はない。
まずはどこと交渉するかだけれど、夢の為環境の良い国と考えた時に思いついたのは帝国だった。
王国とは敵対関係だし、きっと聖女の力を欲しているはず。
誘拐された後に実験材料にされたりただ聖女の血を継ぐ子を産むだけの人生になる可能性も否定は出来なかったけれどそうならない様に対策はするつもりだ。
そうと決まれば誘拐してくれる相手を決めるだけだけれど、幸か不幸かわたしにはつてがあった。
彼に相談してみよう。
◇ ◇ ◇ ◇
「単刀直入にお願い、私を攫って」
「お前、自分が何言ってるのかわかってるのか?」
金髪碧眼にスラリと長い手足、そして白い肌と小さな顔が特徴的な帝国第八皇子、ジレニア・ユースニア
かつて帝国と王国が同盟関係にあった頃、私が唯一出会えた帝国の少年だ。
あの時も醜女は家から出るなと言われ、本来なら出会うはずのなかったけれど、ジレニアは私の家に断りもなく侵入して来たのだ。
それも、私の着替えの途中でだ。
でもその時は醜女の私が帝国の皇子に会ったことがバレてしまえば家の名誉を失墜させると私が怒られることは明白だったから何も言わずに追い返した。
でもその別れ際、何故か連絡する為の魔法の付与された手紙を貰ったのは不思議だったけど、それが今役に立つなんて。
「ジレニア、私の裸見たでしょう?あれはまだ許しているつもりは無いんだけど」
「待て待て!あれは10年以上も前のことだろ!?ただ裸を見ただけ、その代わりに誘拐しろだ?今にも帝国と王国は緊張状態なんだ、そんな真似出来るわけないだろ!?」
「大丈夫、私はもう王国に必要とされてないから。不細工だし絶対に婚約破棄されるし、このままじゃ奴隷として死ぬだけだから」
「……お前、その顔で不細工とかふざけてるのか?」
なるほど、不細工という言葉では形容しきれないほどに不細工すぎるということなのだろう。
でも負けるわけにはいかない。
「お願い、ジレニアしか頼る人がいないの。聖女の力も貴方のためにいくらでも使うから!今は私を信仰してくれる人は少ないけど、少しずつ頑張って増やすから!」
そう身を乗り出し互いの髪が触れ合いそうなくらいの距離で力説すると何故かジレニアは顔を赤らめて私から目を逸らす。
「わかったよ、でもな、そう頑張る必要はないと思うぞ」
それはどういう意味なのだろうか。
とりあえず受けてくれた以上余計な詮索はしない。
上手く行くことを願うだけだ。
◇ ◇ ◇ ◇
結論から言えば、誘拐作戦自体は予定通り大成功だった。
誘拐されても王国は知らんぷりだったし、私が帝国で奴隷扱いされることもなかった。
ただ……唯一の誤算が1つだけ。
醜女のはずの私が、帝国では絶世の美女
として扱われ始めたことだ。
最初は気を遣われているのだと思ったけれど、それが毎日となればいくら私でも嘘ではないと理解できた。
「ジレニア!帝国の皆はもしかして不細工好きなの!?」
「失礼な事言うな、だから俺は言っただろ。その顔で不細工とかふざけてるのかってな。王国じゃどうだか知らないがミィレス、お前は帝国じゃ誰が見ても美女なんだよ」
嬉しい誤算なのか悲しい誤算なのか。
確かに私の聖女の力は異常に強化されていた。
「あの時、俺とミィレスが初めて出会った時家に閉じ込められていたのは美少女だから帝国には渡さないと思った。でも……まさか本当に自分の事を不細工だと思っていたなんて驚きだ」
あまりに白すぎる肌、6人の姉妹の中でも一際大きな眼、そして鼻は高く気味が悪いと言われていた。
「ミィレス、お前にはこれから俺よりも皇位継承権のもっと高い第一皇子や第二皇子から求婚の申し出があるだろう、だから俺とはもう関わるな、それが互いのためで──」
「それは駄目、だって約束したから。私の力はジレニアの為にだけ使うって」
「あのなぁ、俺と兄貴達でどれだけの力の差があると思ってるんだ?俺がミィレスを迎え入れた所で兄貴達に嫉妬されて暗殺されるのが決まってるんだよ」
「それは、私の聖女の力を使ったとしても?」
全能の聖女の力。
死すら超越して奇跡を起こせるその力が今は私の中にある。
「約束は約束、貴方の為に力を使う。私は貴方を帝国の王にする。それまでは……私は貴方から離れない」
自分から言った約束を破るほど私は落ちぶれていない。
「茨の道だぞ、俺にとっても、お前にとっても」
「平気よ、だって2人一緒だもの」
部屋の窓越しにしか見ることが出来なかった男の子、それが偶然かも知れないけど私に会いに来て、不細工だと言わずにいてくれた。
それだけで、私はあの時救われた。
だから、今度は私が貴方を救う番だから。
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