竜との出逢い
ルークは1人で歩いていた。
別に逃げてきたわけでも、何かに追われているわけでもない。
ただ、全てに嫌気が差していた。
家では何をしても「優秀だ」「出来て当たり前だ」と言われる毎日。
退屈で仕方がない。何にも心が躍らない。見るもの全てが色褪せて見える。俺はこのまま大人になるのだろうか。
そう思って供も連れずに家を出てきた。
いつだったか家の図書室で読んだ竜の住んでいた泉とやらを思い出したからだ。
だが、その竜も今では絶滅したと言われているし、実際に在るとは思っていない。ただの気分転換に良いかと思っただけだ。しかもその住処らしき処は俺の家からそう遠くもないようだったから、もし在るならば歩いても行けるだろうとたかを括っていた。
―――――
随分と歩いたがやはり何もない。
無いだろうと思っていたが少し期待していたようだ。
流石に長時間姿を消していたら探されて面倒だ。帰るとするか。
「…………」
何かに観られている。
「…………………」
俺が気付いたことに向こうも気付いたようだ。
殺気なども感じん。なにがしたいんだ。
そもそも何処から観られているんだ。
あたりを見渡した時、ソレは居た。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ。み、み、み、み、見られた!気付かれただけじゃなくて⁉︎こっち見たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そんな間抜けな悲鳴に俺は溜息しか出なかった。
ソレは身体が透けていて、間抜けな悲鳴さえ聞かなければ俺の目がおかしくなったと疑っただろう。
ソレはいつまでも喚いていて、いい加減腹が立ってきた。
「おい、俺はルーク。お前は何だ。名はあるのか。その姿は何だ。幽霊か。」
ソレは問いかけが意外だったのか目を極限まで広げて口も開けるという何とも形容し難い間抜けな顔のまま固まった。
暫く待っても返答が来ずソレの前で手を振ったりしたが反応しない。仕方がない。大声でも出すか。
「おいっ。聞こえているのかっ。」
「ひゃぁぁぁぁぁぁ。」
反応したと思ったらまた悲鳴をあげられた。
一体なんなんだコイツは。
「わ、私のこと見えてるし、聞こえてるの?」
「何を当たり前のことを。それで、名は。なぜこんな所にいる。」
ソレはポカンとしたまま答えた。
「私はユーディア。ユーディア・ソペンリーズ。此処は私の家だから居るだけよ。」
「はぁ。その名は書物にあった竜の名だったように思うが。そもそもお前の家とはどういう事だ。」
「なんで知ってるのっ⁉︎」
「どれに驚いているだ。俺は質問しているだけだろう。」
「私が竜だってことよ!」
「ほぉ。竜なのか。絶滅したのではなかったのか。」
「なっ、絶滅なんてしてないわよ!竜の国にみんな帰っただけなんだから!」
「そうなのか。では、竜の国とやらにはまだ竜が沢山いるのか。」
「当たり前でしょう!いいわ!私の本当の姿見せてあげるわ。着いてきなさい!」
何やら、この透けているのは理由があるらしい。
それに竜をこの目で見ることが出来るとは。
着いて行ってやろう。面白いものが見れそうだ。
自分が面白そうだと感じた事に驚きながら、もしかしたら、ユーディアが居れば退屈しなくなるのではないかと思い始めた。
それほど進まないうちに、木々のないひらけた所に出た。さっきまで1人で歩いていた時にはこんな場所は無かったはずだが。
ユーディアが何か呟くと強い風が吹いた。思わず目をつぶってしまった。
風が治まったのを感じ目を開くと、大きな泉が現れた。
ユーディアを見ると偉そうに踏ん反り返っている。
そして泉に入った。
何事かと思い泉を注視すると、影がどんどん上がって来る。
思わず数歩後退ると、数メートルはある黒く艶のある鱗をつけた生き物が顔を出した。
「どうよ!これが私の本当の姿よ!恐れ入ったか。」
この間抜けな声は、
「ユーディアなのか。まさか本当に竜だとは。それに、泉は何処から出てきたんだ。」
「私の魔法に決まってるでしょ!ふふん。凄いでしょ。」
「あぁ、だが、あの透けた姿は何だ?人の姿だったではないか。」
「あれは、霊体だもの。この姿じゃ大きすぎて散策できないでしょ?それに霊体なら基本何かに気付かれたり襲われたりしないもの。気付かれたの貴方が初めてよ。」
「そうなのか。実体のまま人の姿になれないのか。なれるのであれば、俺と共に行かないか。お前といると楽しそうだ。」
「なれるけど、貴方と?私に何かメリットはあるの?」
「メリットか、ふむ。甘くて美味いものを食わせてやろう。」
「甘くて美味いって、サシャの実とか?」
「確かに木の実のなかでも熟したサシャは甘いが、あれよりも美味いものだ。ケーキなどな。」
「アレより美味しいの⁉︎行くわっ!」
言うなり、泉から巨体が上がってきたと思ったら眩い光に包まれた。目を開けるとそこには霊体だった時と変わらない姿のユーディアが居た。
「これで美味しいもの食べれるわねっ!」
そんなことを間抜けな顔で言うのを見て、これから退屈な日々とは無縁になりそうだ。
まずは、帰ったらすぐに料理長になにかデザートを作らせないとな。
お読みいただきありがとうございました
もしかしたら、今後の話を書くこともあるかもしれません。
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