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8.彼と彼女と私の事情

ブクマ登録ありがとうございます。

きっと誰も読んでないと思っていたので、驚愕と感謝でいっぱいです。

適当に書き始めてしまったので、読んでくれる人がいるなら続けよう!と嬉しくなりました。

「貴様らは、何者だ!」


 突如、誰もいないと思われていた室内に、深い怪訝を含んだ渋い声がこだまする。

 一体どこから?

 驚きのあまり、思わずミギエさんと顔を見合わせた。視界の範囲に人影はない。

 作業の手を止め、ゆっくりと音を立てないように机の下へと身を隠す。


「あれだけ堂々と派手に荒らしておいて、今更コソコソ隠れても遅い!」


 どうやら全部見られていたらしい。声には軽い苛立ちが含まれている。

 うーん、一体どこから? いつから見られてた?

 こちらからは相手の姿が認識できないのに、あちらからはしっかりと我々の行動を把握できるらしい。非常にまずい。


「答えろ!」


 このピンチをいかにして切り抜けようかと思案していると、戦闘態勢に入ったミギエさんが、口から愛刀を取り出した。

 なんてとこに、なんてモノをしまってるんだ、この人は!


「立て! そして答えろ! 貴様らは、何者だ? 何故ここにいる?」


 謎の声に焦りの色が滲み始める。

 一触即発の空気が流れる。このまま一斉攻撃! 

 ーーなんてことになったら、目も当てられない。

 とりあえず何とかごまかしてみよう。

 仕方なくその場に立ち上がり、両手を上に掲げた。

 しかし、この人いい声だ。本当、実にいい声だ。低く艶を含んだ渋さが堪らない。

 こんな状況でなければ、是非一度一緒にカラオケにでも行きたいのになぁ……と、今はそんな場合ではない。

 危うく逃避しそうになる思考を、現実へと引き戻す。


「怪しい者じゃないです。敵意もありません。道に迷ったので、出口を探していただけの普通のゴブリンと右手です」


 我ながら苦しいにも程がある言い訳である。

 そもそも私達は、怪しい。確実に怪しい。怪しさしかない。

 洒落た幼児服を着たゴブリンの子供と、その右肩に乗る緑の右手首。これ以上の不審者がいるだろうか?


「ゴブリン? 敵意がないだと!? 本当か!?」


 アレ? 素直に信じた。嘘でしょ?

 だってミギエさんてば、思いっきりノコギリ握って戦闘態勢準備万全じゃない! これを見て、どうしてそう思えるの?


「も、もちろんです。ここには、出口を探しててたまたま。それでつい何の部屋なのかなぁ?って、ちょっとした好奇心で……」


 嘘は言っていない。言ってはいないが、少しだけ心が痛む。

 何故なら好奇心ではなく、この部屋のもの全てを強奪するためにここにいるからだ。


「そうか…… 大声を出して、すまなかった。少々気が立っていた。非礼を詫びる」


 ええええぇぇぇぇぇ!!

 詫びちゃうの? 大丈夫? 私がいうのも何だけど、ちょっと警戒心なさすぎない? てか、バカ高いお布団買わされたりとかしてない? 超心配なんだけど……


「あっ、あっ」


 え? ちょっと待て。

「お前こそ何者だ? 姿を見せろ」ーーとか、今何となく丸く収まりかけた空気に、何故いきなり火炎瓶を投げ込んだ?


「ちょっと、ミギエさーー」


 ん? そういえばミギエさんの言葉は、他の人には通じないか。

 ーーと、ホッとしたのも束の間ーー


「そ……それは失礼した。今そちらに!」


 ええええええ! 普通に通じてるがな。

 テレパシー? テレパシーなの?


 意識覚醒後、初めて(生きている)人間と対面するという事実に、軽く緊張が走る。


「お待たせした。改めて、先程の無礼を詫びる」


「…………」

「…………」


 声はすれど姿がない。


「え? どこ?」


 まさか透明人間? この世界、そんな魔法もあるの?


「ここだ。目線をもう少し下に落としてくれ」


「!!!!!!!」


 ーー目の前の机の上、そこには銀色に輝く毛をなびかせる小さなハツカネズミが立っていた。





 思えばここは、これまでの部屋とは色んな意味で様態が違った。

 まず扉に鍵があった。それもかなりしっかりしたthe鍵!

 扉と一体となったそれを開けるには、さすがにミギエさんの愛刀でも荷が重い。

 仕方なく『銀の匙』先生にお出まし頂いた。

 私としては、この部屋をスルーするという選択肢もあったのだが、何故かうちの暴君は「全てを根こそぎ奪わねば、気が済まない!」とーー ほんと「どこの山賊だよ?」というような持論を振りかざした。

 まだ1度も使っていない【腐食した出来の悪い片刃のナイフ】を【腐食した出来の悪い屋敷の鍵の束】へと変換し、私の経験値は残り19となった。

 なんて勿体無い……

 等価交換の掟により、必要な鍵ががたとえ1本だったとしても、出来上がりはやっぱり10本。

 そして10本目にして、ようやくその扉を開くことに成功した。

 何故だろう?

 どうも残念であることが、ステータスになりつつある今日この頃。恨めしい。


 部屋の中は、どこぞの研究施設を彷彿とさせるような、異様な空間だった。

 これまでの部屋の5倍はあろうかという程の広さで、奥の壁一面には大小様々な檻が所狭しと積み上げられている。

 しかし、その中に生物の気配は、一つもなかった。大きめの実験テーブルと思われる台が10台と机が6脚。所々、青や赤の血痕らしきものが付着している。古いものからごく最近のものまでーー

 それぞれの机上には、様々な武器や器具、壺や皿といった物が雑然と放置されている。

 さっきまで確かに人がいた気配があるのに、それはまるで慌てて逃げ出したかのような有様だった。

 そしてそれを見た私達は、特に思案を巡らせるということもなく、まぁとりあえずここにあるもの全部『トランクルーム』へぶっこもう! ーーという結論に至ったのだ。



「あ、あなた方は一体……?」


 改めて我々のその姿を目の当たりにしたハツカネズミが、目を丸くして言葉をつまらせた。

 どうやらそのサイズからして、物色する私達の様子をしっかりと捉えていたわけではないらしい。


「あっ、あっ、あっ!」


「人に尋ねる前に、まず自分が名乗れ!」と、相変わらず喧嘩腰の右手がメンチをきる。

 一体いつからこの人はこんなに好戦的なキャラになってしまったのだろう……?

 出会ってすぐ戦闘開始とか、正気の沙汰とは思えない。

 ふと、初っぱなで右足を噛まれたことを思い出した。


(最初(はな)からこうだったか……)



「そう……ですね。すみません」


 ハツカネズミは、また謝った。


「私は、ハツカデモルモトという魔物の王です。もちろん魔物ですので、名前はありません。本来なら貴方と同じくらいの大きさなのですが、この研究室で監禁され実験台にされてから、このような小さき者へと変貌してしまいました。力もほぼ失いましたが、代わりにこの知性を得たような始末です」


 小さくなって賢くなった。何だろう……このバーロー感。

 てかやっぱり、魔物って名前ないのがデフォルトなんだ。安心した。


「仲間も共に捕らえられ、同じように実験台に……」


 ハツカデなんとかの顔がひどく歪んだ。

 そっか。彼らも被害者なんだ…… 最悪だな! 脂ギッシュメタボ!


「妙な魔物の手や足やその他の体の一部を、我々に埋め込んだり食べさせたり…… 繋げたり……」


 小さき王の身体が、小刻みに震える。小さな手を握りしめてーー

 あー…… うーん。


「大勢いた仲間は皆、その魔物に侵食され死んでしまいました」

「え? 死んじゃったの?」

「え? はい。今日まで生き残っていたのは、私だけという有様で。ですが数時間程前、突然その仲間の死骸が復活し始めてーー」

「「あー……」」

「ただその姿は、見るに耐えないもので…… しかも普段より凶暴化していて……」

「「あー、あぁ……」」


 リアクションが、ミギエさんと完全にシンクロする。


「いっそこの手で介錯してやれたら、どんなにいいか」

「でも、ほら、姿や気性が多少アレでも、生き返ったんならまたみんなで暮らしていけるんじゃ?」

「酷い痛みに襲われているのです」

「え?」

「かくいう私も、数時間前から酷い頭痛で自我を保つのが精一杯なのです。自分では抑えきれない憎しみが湧いてきて、今にも誰彼構わず襲いかかりそうで……」

「…………」


 何を言っても上滑りしそうな気がして、うまく言葉が出て来ない。

 突然の覚醒と侵食。

 これはきっと、私の責任ーー


「復活し凶暴化した仲間は皆、先程人間達に運ばれて行きました。こんなことを頼むのは、筋違いだと分かっています! ですが、どうかお願いです。私を、仲間の下まで連れて行っていただけないでしょうか? きっとまだ彼らは、この屋敷のどこかにいるはずです。どうか、どうかお願いします!」


 最初の態度が嘘のように、彼は深々と頭を下げ小さく震えている。

 こんな得体の知れないゴブリンに思いを託すほどに、追い詰められているのだろう。


「分かりました。私にも全く関係ない話ではないし…… 一緒に行きましょう。ただし、私、めちゃくちゃ弱いですから! 全く戦力になりませんからね!」


 そう彼に念を押し、ミギエさんへ視線を向けると、かわいそうなモノを見る目でこちらを見つめる目のない彼女と目が合った。



 え、なんでそのリアクション……?



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