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7.氷魔法は永久に不滅です

更新、遅くなってしまった。

少し短め。

 監禁部屋を出て最初に目にしたのは、薄暗く湿気のこもった長い廊下だった。

 廊下の左右にそれぞれ2部屋ずつ、奥の階段脇に1部屋分の扉が目に入った。監禁部屋同様、壁床天井の全面がレンガよりも二回りほど大きな石で構成されていて、それなりの手間暇がかかっているように思える。

 長い廊下には一定区間で壁に松明が設置され、窓らしきものは一つもない。奥の階段は上階へと続いているようだ。

 どうやらここは地上ではなく、地下に存在しているらしい。

 これだけ立派な造りとなると、それなりのお屋敷の地下室か? それともーー

 そういえば、確かこういった異世界にはダンジョンという名の地下アトラクションが存在すると、前世のヒモ男その2が言っていたような……確かそれは魔物の巣窟で、経験値を稼いだり、レアアイテムを手に入れたりできるという話だった。

 経験値よりもレアアイテムよりも、今は一刻も早く安全にここから脱出して、心穏やかに平和に暮らせる場所へと逃げ延びたい!


「ミギエさん、ここから先は何が起きるか分からないから、絶対私のそばを離れないでね? 人間以外の魔物がいる可能性もあるし、とりあえず他の部屋はスルーして、奥の階段から上の階を目指そう」


 いつになく真剣なトーンで右肩へと話しかけてみたが、返事がない。


「ーーミギエさん?」


 おどおどしながら定位置へと視線を向けるも、彼女の姿はなかった。


「え? ミギエさん、どこ?」

「あっ、あっ」


 慌ててその姿を追う私を尻目に、さっさと1番目の部屋の前で愛刀を抱えて仁王立ちしている右手が、嫌な微笑みで私を呼びつけた。




「開けない方がいいんじゃないかな?」


 色んな想像でそれを躊躇(ちゅうちょ)する私には一向に目もくれず、何故かやる気満々で扉を睨みつけるミギエさん。

 どうしてそんなに好戦的なの?

 私、弱いんだよ? 自慢じゃないけど、最弱だよ? すぐ死ぬよ?


 その扉は、足枷と同じような鉄素材で作られていた。こちらは前者と違い腐食した様子は見られない。

 鍵という鍵はなく、扉には大きめの(かんぬき)がかけられている。

 この世界にも、こういった大きい鉄類を作る技術はあるらしい。案外進んだ文明社会なのだろうか?


「あっ! あっ!」


 ミギエさんは、どうしても扉の中が気になって仕方がないらしい。


「まぁ、そこまで開けろって言うなら、開けるけどさぁ…… もし何かが飛びかかってきたり、開けた途端爆発して死にましたなんてことになっても、知らないからね!」

「あー?」

「開けた途端、最強の竜が火を吐いてくるかもしないからね?」

「あー?」


 バカにされた。悔しい。そして、恥ずかしい。


「あー、あっ、あっ」

「え? 他にも?」


 ーー確かに。

 ミギエさんの言うように、ここにも私と同じように監禁された何かがいるかもしれない。

 そうだ。もしそうなら、それを救うのも私たちに課せられた義務なのかもしれない!

 …………いや、そんなことはないな。

 例えいたとしても、別に助ける義理はない。それがそいつの運命。呪うなら自分を呪うがいい。


「あっ、あっ」


 どちらにせよ、開けないと言う選択肢はない暴君に促され、私は半ば嫌々閂に手を伸ばした。

 背伸びすれば、なんとか持ち上げられそうな絶妙な位置。これなら外せるはず。

 ーーと、思ったのだが、何故か全く持ち上がらない。か、かたい…


「ミギエさん、ムリ……私の力じゃ……持ち上げられない」


 どれだけひ弱なんだ! ゴブリンモドキ!

 いくら幼児体型とはいえ、これくらいの木の棒ひとつ持ち上げられないとは、これから先が思いやられる。こんなことで果たしてやっていけるのかーー

 しかし、今はまずこの閂をどうするかだ。ミギエさんは、すでにイラついておられる。

 ミギエさんは……右手のみだから論外か。さてどうしたものか?

 うーん……と、しばらく悩んで気がついた。

 どうもしなくてよくない? そもそも私は開けたくないんだし!


「ミギエさん、無理だわ。ここはあきらめーー」


 よう。ーーと言いかけた瞬間!

 彼女の愛刀【腐食した出来の悪い小型ノコギリ】が、美しい跳躍と共に閃光した。

 そしてーー


「あっ……あっ……」


「また、つまらぬ物を切ってしまった……」

 ーー例のあの聞き慣れたセリフが、右肩から漏れ聞こえた。






 どうやら、私の分身は化け物らしい。

 あれから4度、同じ衝撃を経験した。

 そもそも何故、ノコギリでアレが一瞬でスパッとああなるのか! しかも【腐食した出来の悪い】ソレで!


 そしてーー


「またかぁぁぁぁぁあ!!」


 4番目のドアを開け中を覗いた瞬間、あまりの光景に思わず心の声が大音量でダダ漏れした。


「あーッ!」


 すかさず「でかい声を出すんじゃねぇ」とミギエさんの鉄拳制裁が飛んでくる。


(ミギエさんこそ、声でかいよ)


 なんてことは口が裂けても言えるわけない。


「ごめんなさい。でももう、いい加減心が折れそうで……」


 見たくなかった光景が、私の精神を削り取る。

 しかし、空気を読まないミギエさんは、容赦などしない。


「あっ! あっ!」


「早くしないと日が暮れる」と、こちらのメンタル問題などお構いなしに催促が飛んでくる。

 私は、半泣きのまま仕方なく作業を開始した。


 その部屋いっぱいに詰め込まれていたのは、氷漬けにされた私の身体の一部。

 かれこれ4部屋目。これまでの3部屋にも同じように私の一部が、6畳分丸々一杯ギュウギュウに詰め込まれていた。


 いろんな意味で(うつ)になる。手も心も凍りそう……

 何という世界なんだ! 素が平和ボケした元日本人な分、余計にくるものが大きい。

 しかし、ミギエさんには私のそれとはまた違う感情が湧くらしく、大切な家族でも殺されたかのようにえらく憤慨している。エノキ足で何度も地団駄を踏んでいた。

 なんだか、そこまで怒ってくれると……私自身をすごく大切に想ってくれてるような気がして……


(凶暴右手とか思っててごめんね)


 ーーと、心の中で謝った。


 そしてミギエさんの言う通り、それら全てを『トランクルーム』へと収めていく。

 彼女は、優しい右手なのだ。たまに化け物じみてる時もあるけれど、根は優しい女の子……のはずーー

 だからーー


「そうだね。このままじゃ後味悪いもんね。どこかに埋めるなり、お焚き上げするなりしないとね」


 そう言って振り返った私に、「何を言ってるんだ? こいつ」という顔をしたのには、気づかなかったことにしておきたい。

 私がそれらを詰め込む間、せがまれて表示したスキル画面で何やら一心不乱に調べていたのも、決して見なかったことにしておきたい。

 彼女がソレらを、素材として認識している気がするなんて、夢にも思っていないのだから……


 私は何も、何も知らない…… 何も気づいたりなんかしていない。



 そして私達はこちら側の全ての部屋の探索を終え、この地下最後の部屋である階段脇の扉へと向かった。


「何これ… すごい、冷凍庫?」

「あっ… あっ…」

「え? 永久凍土の氷魔法? あー、そう…だよね」

「あー…」

「やめて!残念なモノを見る目で見つめないで!」


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