3.転生スキルとステータス
「あっ……あっ……」
切り落とされた右手は悪い奴ではなかった。
むしろ、いつまでもボーッとしながら足枷をガッチャガチャやっている私を心配して、手伝おうとしてくれたらしい。
その結果、痺れを切らして足枷を噛み切ろうと行動したはいいが、勢い余って滑って転んで思わず私の右足を噛んでしまうという事故を起こしてしまったんだそうだ。
「あっ……あっ……」
「うんうん、そうだったんだね。私も、叩いたりしてごめんね。あ、体大丈夫?」
「あー……あっあっ……」
果たしてソレを体と言っていいのかどうかという疑問は残るが、切り落とされた右手は全身を使ったオーバーなアクションで大丈夫だと返事を返した。
この切り落とされた右手、言葉はゴブリンのそれしか発することができないのだが、知能に関してはその限りでない。
言いたいことは手に取るようにわかるし、なんだかもう1人の自分と話しているような妙な錯覚を覚える。
というか、当たり前のように馴染んでるけどよく考えたら恐ろしい光景だよね?
「あっ、あっ」
「え、ステータス表示??」
切り落とされた右手の言葉に、私は前世の記憶を改めて検索した。
確かレベルやらスキルやらといった状態を表示するゲーム画面を指す言葉だったようなーー
「あっ、あっ……」
いつの間に移動したのか、切り落とされた右手が私の視界の端、右下方をしきりに指差していた。
確かに言われてみれば、何やら小さく点滅する赤いボタンが一つ。
言われるままに視線をそちらに移動させようとした瞬間ーー
ーーピコン!
半透明なステータス画面が視界前面に表示された。
「うわっ! ナニコレ、なんかすごい!」
そこには、今の私の状態の全てが表示されていた。
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名前:なし
種族:ゴブリンモドキ
レベル:3(MAX)
HP:15 MP:0 経験値:5,004,525
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とりあえず、絶句……
どこから突っ込んだらいいのか、わからない。
なんなのさコレは?
まず名前ーーないの? 名なしなの?
そしてゴブリンモドキって何? モドキ?? ゴブリンじゃないの? 偽物なの?
あとレベルもおかしいよね?
レベルが3しかないのは仕方ないとしても、その後ろの(MAX)てのは、これ以上は上がらないってこと?
HP15って、え? いや低過ぎない? こんなものなの?
あーもう、この世界の基準が分からないから、この結果に対してなんとも言いようがない!
それにMPもおかしい! MPがゼロって。ーーてことは何? 私はこの剣と魔法の世界でせっかくの魔法が使えないってこと?
はぁ〜? そりゃ頼んでここに来たわけじゃないけど、折角なら使ってみたいって思うもんでしょ。
何から何まで残念すぎる! なんなんだ、一体。
そしてこの経験値! これに関してはもう、あまりにも意味不明すぎてーー
「…………」
ステータス画面を意気揚々と覗き込んできた切り落とされた右手すら、このあまりの結果に絶句している。
哀愁すら感じさせるその背中に、何だか罪悪感がーー
「なんか……ごめん……」
決して私が悪いわけではないのだが。そんながっかりした姿見せられると……ほんと、なんか……残念でごめん。
「あっ……あっ……」
シュンとした空気が流れたのも束の間、切り落とされた右手が、まるで慰めるように私の肩へと飛び乗り、軽くジャンプした。
そして、残念なステータス画面の下部で青く光るスキル表示の文字を指差す。
切り落とされた右手、何気にすごいいいやつ。
「そうだよね! ステータスは低くてもスキルさえ良ければ、きっと問題ないよね!」
私は促されるままスキル表示ボタンを押した。
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スキル一覧
『富江』
『銀の匙』(未解放)
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「…………」
「…………」
あああああああああああああ!!
そう来たかぁぁぁぁ!!!!
嗚呼、もうこれは本当に嗚呼しか言えない!
ああしか言えない!!
アアしか言えない!
これ、完全に前世の影響だ!
こんなとこまで引っ張るとか、どうかしてるよ。
昔からの愛読書と、たまたま死ぬ前に買った本。
伊藤潤二先生! 荒川弘先生! ほんとに、なんか、ごめんなさい!
私は遠い目をしたまま、スキル『富江』を選択し、詳細を表示した。
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『富江』
何度死亡しても蘇る(但し、要細胞片)
分身体の作成(本体との意思疎通可能)
-習得済み派生スキル一覧-
状態異常無効(OFF)
打撃耐性(OFF)
斬撃耐性(OFF)
痛覚軽減(OFF)
死亡経験値獲得(ON)
意識覚醒・知能活性(ON)
-未習得派生スキル一覧-
富江の欠片(要:銀の匙解放)
派生スキル解放条件:100万回死亡(達成済)
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凄いんだか何だかーー
いや、凄いんだろうけども。もう、どこをどう突っ込んだらいいのか、大渋滞だわ!
まず、痛覚軽減? 無効ではなく、あくまで軽減!? しかも重要スキルをOFF設定!
何から何まで残念過ぎる。
切り落とされた右手も、きっと同じ表情でこの画面を眺めているんだろうなぁ……
大体、私、いつの間に100万回も死んだのか。そんなに死んで魂の劣化とか大丈夫なんだろうか? 100万回も死んだら、猫になるんじゃないのか! 何度死んでも、やっぱりゴブリン。
「あっ! あっ!」
頭を抱えたり、天を仰いだり、五体投地してみたりと忙しい私を尻目に、さっさと気持ちを切り替えたらしいドライな右手が、早く次の問題児の画面を見せろと急かしてくる。
「なによ。ちょっとくらい現実逃避させてくれたっていいじゃん……」
ブスくれ顔で画面表示を戻し、次の問題児の詳細を選択、ついでに憎まれ口を叩く。
「あっ、あっ」
「え……?」
言われてみればその通りで、いつここに他の人間がやってくるとも限らない。
目の前で死んでいる脂ギッシュなメタボが、いつからここに籠もっていたのかは定かでないし、帰りが遅ければ心配した誰かがやって来ないとも限らない。
「そうだね! 色々残念がってる場合じゃないよね。早くここから脱出する方法を見つけないと」
私は慌てて詳細表示をタップした。
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『銀の匙』 未解放
解放条件:経験値5,000,000
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はぁぁぁぁあ!!
経験値5,000,000!!
それってもう私の保有する経験値のほとんどじゃん!
ステータスレベルだって3までしか上がらないくせに、解放条件に500万も要求するって、どこの悪徳金融よ、それ。
そもそも『銀の匙』って、確か農業高校が舞台の漫画だったはずーー
買ったばかりで、読みこむ前に天に召されたから、話の内容まではよく分からないけど。
でも『富江』の例から推察するに、 恐らく畑を豊作にすることができるだとか、家畜を上手に飼育できるだとか、そういう系統に間違いないと思うんだけど。
「うーん、果たしてコレに経験値500万も突っ込むほどの価値があるのか」
躊躇する私を、切り落とされた右手が早くしろと小突く。
確かに迷っている暇はない。
所詮レベル3のゴブリンのスキル。今更、何を期待するというのか。
私は小さくため息を吐くと、意を決してスキル『銀の匙』に経験値をぶっ込んだ。
《スキル解放条件を満たしました。固有スキル『銀の匙』が解放されました。これにより固有スキル『富江』の派生スキル、富江の欠片の使用が可能となりました》
脳内に無機質な声が響く。コレが噂の天の声というやつだろうか?
なんだか、妙に感動してしまう。
私はもう一度、改めて『銀の匙』スキル詳細表示を選択表示した。
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『銀の匙』
指定した物質を、他の物質へと変化させる
(但し、原則等価交換、容量は魔法陣の範囲内)
-未習得派生スキル一覧-
トランクルーム
素材鑑定
???
???
???
???
未習得派生スキル習得条件: 経験値上納
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「…………」
「…………」
もはや、私に言えることは一つだけだったーー
「タイトルが違う!!」