story5(1)_side葉月
◇
篠塚くんのお願いを何だかんだと聞いてしまっている私はきっと、この何とも言えない状況を楽しんでいるに違いない。ゲーム感覚っていうのかな。友達でもない恋人でもない。私たちの関係を表す言葉は何なんだろう。
店員とお客さん?
社会人と大学生?
臆病者と……。なんだろう。
きっとそのどれにも当てはまらない不思議な関係。だからこそ、近くて遠い彼が分からなくて、分からなくて。知りたくなるのかもしれない。でも、自分から近づくのは怖いから彼から提案される“お願い”を利用する。難しく考えすぎてしまう私。私は単純に彼のことが知りたいのだと思う。
今回のは難題だった。だって、“夏祭り”だもの。
人が多くて音が多くて楽しいなんて想像が全くつかない“夏祭り”だもの。夜、真っ暗闇のなかで一人喧騒に紛れて聞く花火の音はきっと風流なんてものじゃなくて、ただただ一人を実感してしまう哀しみの音で。そんなイメージしか持てない私には“夏祭り”も“花火”も縁遠いものだと思っていた。
どうしよう。
私の相談できる相手なんて限られた人しかいない。ユキさんに相談したのが間違いだった。ユキさん伝いに何を聞いたのか、ユキさんの奥さんであるリヨさん(通称リョウさん。本人曰くリヨって言いづらいでしょってことらしい)が張り切ってしまって。浴衣やら髪飾りやらを準備し、私の意見なんて完全にお構い無しであれよあれよと着付けをしていき、メイクも髪も何もかもを完璧に整えられてしまった。下駄は危ないからと浴衣に合うペタンコ靴まで用意している周到さ。流石としか言いようがない。
普段着で行くつもりだった私にとってこれはとてもとても想定外なことであって。こんないかにも“夏祭り楽しむぞ”感いらないよ。
そう言うと、リョウさんは少し顎をクイッと上げて私を見下ろしながら得意気に話すのだ。
「今回のお洒落はね、一緒に行く人のためにするのよ。その人のテンションが上がれば、葉月のテンションだって上がるでしょ! 別に難しいことなんてないわ。ただその場を楽しむってことをあなたは覚えてきなさい」
リョウさんのお言葉。いつもは助かっているけれど、今回ばかりはどうだろう。楽しめって言ったってそれが難しいんだもの。
「大丈夫よ、葉月。ほら、彼に身を任せてみるのも一つの手よ」
大丈夫だと言いながらいつも以上にテンションが高いリョウさんを見ながら私の心はぐるぐるぐるぐると渦を巻いていた。
待ち合わせ場所。私の方が先に着いたようだ。
杖を握りしめながらまだ明るい空を見上げる。
篠塚くん、まだかな。
辺りにお洒落な金髪くんは居ないかと見回してみるが、お目当ての彼は居そうにない。
ふぅー、と息を吐き地面を見ていると目の前に人が立ったのが分かった。何だろうと思い、顔をあげるとそこには全く知らない男の子達。三人。
「おねえさん、これから祭り行くッしょ? 俺らもなんだけどよかったら一緒に行かない?」
嘘でしょ。バリバリ待ち合わせして
ますよ感出してる女に声かける奴とかいるの?
「待ち合わせしているので、ごめんなさい」
断ると、
「あ、そうなの? じゃあ、連絡先だけでも教えてよ」
ヤダ。
と、即答できたらどれだけいいのだろう。
こういう時、私は嘘をつく。
「彼氏がいるので、できません」
彼氏らしい彼氏なんていたことないのにね。
「彼氏の相談とかのってあげるし」
結構しつこいこの男達。彼氏がいたとしてもあなたには相談しませんので。
どうしよう。移動して巻くかな。
なんて考えているところにヒーローはやってくる。




