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story4(4)_side春一




「ねぇねぇねぇねぇねぇ!」


 突然、マルが小声で騒ぎ出す。


「何だよ、どした? 可愛い子でも見つけたか?」


 そんなマルを突然何だよ、と思ったのは俺だけではなかったらしい。コメが驚いた顔をしながらマルに問いかける。


 今日、シノは用事があるとかで朝から別行動。だから、騒がしい二人の面倒を俺一人で見なくてはならない。


「ちげェーよ! いや、違くないけど違ェーんだよ」

「いや、意味分かんねーよ」


 いつも変だけど、いつも以上に変なマルの様子に俺の眉間には自然と皺が寄っていた。


「何? 分かるように説明しろ」


 俺がマルに言うと、マルは「あれ! ほら、あれ!」と言って公園内のある場所を指さす。


「シ!」


 “ノ”と続くはずだった言葉を遮り、俺は叫びそうになっていたコメの口を塞いだ。


 声抑えろよと目で訴えかけると、コクコクと頷くコメ。それを確認した俺はそっとコメの口から手を離した。


「シノが女と二人でいるなんて……珍しい」

「な! 何かいつもみたく女の方が無理矢理くっ付いてってる感じでもなさそうだし」


 マルとコメに言われ、改めてシノ達を見る。


「あれって……前行ったカフェにいた店員じゃないか? ほら、この前絡まれてた……」


 俺があやふやな記憶を辿りながら言うと、そうだ! と言って二人が騒ぎ出す。


「あん時も思ったけど、シノあの女性(ヒト)にマジなのかな? だって、シノが自分から女助けに行くのも珍しかったし、極力面倒くさい事には関わりたくない派じゃん? みんなあのゆるーい感じに騙されてるけど」


「それ、シノに言ったらボコられるぞマル。でも、まぁお前の言いたい事も分からんでもない」

「だろー?」

「だって……」

「「あの顔だもんなぁ……」」


 勝手に繰り広げられるマルコメの会話に耳を傾けながらも、俺もシノをじっと見つめる。


 “あの顔”というのは、何も整っている顔立ちの事を言っている訳ではなく、(いや、確かに男から見ても整っているとは思うけど)いつもはあんな優しい目を女には向けない。誤解を生まないように、彼奴は彼奴なりに頑張っているらしい。ま、それが原因でいつも女にキレられているのだが。冷たいだとか酷いだとか。ある意味、可哀想な奴。本人は気にしていないと言うが、酷い言葉を投げ付けられて多少は傷付いているはずだ。


「なぁ、もうちょっと近くで見たくね?」


 なんて言っているマルコメ達を止めるべく、俺は声をかける。


「止めとけ。本気で彼奴にキレられんぞ」


 何となくあの女性(ヒト)も鋭そうだし、バレる前に(邪魔する前に)ここを離れた方がいいだろう。


 キレた彼奴は俺でも止めるのが困難になるから。


「ほら、行くぞ」と二人に声をかけた時には既に遅かったのだと気づくまであと三秒。


「あの――」


 綺麗なソプラノの声が聞こえてそちらを向くと、首を傾げるカフェ店員と不機嫌そうなシノがいた。


 ……気付かれた。こいつ等を止められなかったのは悪いが、不可抗力なんだから、そんな目で俺を睨むなよ。


 彼女に気づかれないように、笑顔で俺等に圧をかけてくるシノに面倒くせェと溜め息を吐きたくなる。


 騒いでたのはこいつ等なんだから、こいつ等に言えよ。と目で訴えかけると伝わったのか、マルコメに照準を絞ったようだ。


「お前ら、何してんの~」


 シノの奴、顔は笑ってるけど、目は笑ってない。


 これは後で完全にシメられるな、こいつ等。と他人事のように傍観する俺。


「あっ、あれー? シノ、こんな所で偶然だなー」


 マルは態とらしく言ってのけるが、もう何言っても意味ないと思うぞ。覚悟決めろ、と俺は心の中で合掌する。


「あの、この間篠塚君と一緒にウチの店に来てくれてましたよね?」


 俺達に気を遣ったのか、カフェの店員が声をかけてくれた。


「うん、そう! 俺等、シノと同じ大学で。つーか、高校から一緒だったんだけど――」


 一度喋りだすと止まらないマルとコメのどうでもいい話を嫌な顔一つせず、聞いている彼女。高校時代は喧嘩三昧だったとか、シノや俺ばっかり女にモテてマルとコメは全然なんて事も言っている。そんな事聞かされても彼女は困るだけだろうが、とは思ったが当の本人はそうなんだね、と言って普通に聞いてくれている。いつまで経っても止まらないマルコメのトークに痺れを切らしたのか、シノが我慢できなくなってマルコメの話に割り込んだ。


「お前ら、喋りすぎだから」


 そして、彼女にごめんね、なんて言っている。


 何度も言うが、こういうシノは珍しい。女からのアプローチを面倒くさそうに(それを表には出さないが)のらりくらりとかわしているところは何度も見てきた。それなりにモテる容姿をしているから、寄ってくる女は沢山いたし、それは現在進行形でもある。それ以外の奴等は俺達を見て怖がるから近付きさえもしない。厳ついナリや危なっかしいオーラは自他ともに認めているから、別に今更何とも思わないが。それはきっとシノも同じで。自分の興味を持ったモノ(それが人でも物でも)にはとことん優しいが、興味のないモノには分かりやすく冷めている。ある意味それがこいつの優しさだとも言える。お前には興味ない。だから俺に近づくな。近付いても傷つくだけだ、と。分かりやすいと言えば分かりやすいのだが、それを理解する奴は少ない。自分達が受け入れられ難い人間だということは、俺達が一番よく分かっている、つもりだ。それはマルもコメも、勿論シノも。


 ……あのシノが、自分から興味を持つなんてな。


 彼女の一挙一動にピクリと反応したり、堪えたりしているのを見て、俺は親友のいい方向への変化を感じていた。


「っていうか、お前らはいつまでここに居るつもりなのかなー? 俺と葉月さんの邪魔しないでくんなーい?」


「あ、そういえば俺等この後用事あるんだったー」


 マルコメはシノの笑顔に負けてそそくさと俺を置いて去っていく。


「悪かったな、邪魔して」


 本気なら、頑張れよ。


 そういう意味を込めて、俺はシノの肩をポンっと叩き先に行ってしまった彼奴らの後をゆっくりとした足取りで追った。



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