story4(3)_sideキミ
その後何度か店に通ったけれどタイミングが悪かったのか、会えなくて。結局、あのコンビニの前で待つことにした俺。そしてやっと会えた葉月さんにこの間の一個だけのお願いを早速持ち出す。
そして、戸惑いながらもOKと言ってくれた葉月さん。もちろん、待ち合わせ場所も決めた。
で、今日がその約束の日。彼女の休みに合わせて大学の近くの公園まで来てもらうことになっている。
昼間の時間帯だし、人もそれなりにいるし、彼女を怖がらせる要素はない。……はずだとこの場所を選んだ。俺に対して果たして彼女がどれ程警戒心を解いてくれているかは分からない。分からないからこそ、出来る限り不安を感じさせたくはなかった。彼奴らには適当に言って今日は朝から別行動。一度顔を合わせてしまうと面倒くさい事になるのは目に見えている。
待ち合わせの時間よりも少し早めに着き、ベンチに座って彼女を待つ。今日現れた彼女が視えていたとしてもいなかったとしても、どちらにせよ俺が先に着いていた方がいいと考えたからだ。
俺の予想では恐らく彼女は杖を付いては来ないはず。それでも、俺があの時の男だとは思っていないだろうからここに着いても困ってしまうだろう。俺がどんなナリをしているのか、自分の特徴を敢えて彼女に伝えなかった。
怖がるか……、それとも幻滅するか……。
今までの彼女を見ていて俺にすり寄ってくるタイプではない事は分かっている。
だからこそ、篠塚公人が俺だと認識した時にどういう反応を示すのか。興味が湧いた。
思考の沼に沈んでいて気付かなかった。自分の目の前が陰になったと思ったら、心地のいいソプラノが耳の奥を撫でた。
「あの……篠塚君?」
パッと見上げるとそこには待っていたその女性が。
昼間の時間帯だったから大学の奴等とか学生含め、沢山の人が公園を訪れていた。さっきから関係のない女ばかりに声をかけられて正直うんざりしていたのだ。やっと、待ちわびていた本人が来てくれたと俺のテンションは分かりやすく上昇する。
「葉月さん、来てくれてありがと」
へらりと笑って見せると「ううん、大丈夫」と葉月さんも笑ってくれた。
元々ベンチの半分を空けて座っていたがもう少し端に寄った方がいいかと思い、腰を浮かせ少しだけ端にズレる。
そんな俺を目で追いながら、彼女はゆっくりと隣に座った。いきなりガン見するわけにもいかないので、ちらりとだけ視線を向ける。俺の予想していた通り。やっぱり、彼女は杖を付いてはいなかった。
突然、踏み込んだところを質問するのは失礼かとも思ったが、気づけば俺は聞いていた。
「あの、今日はというか……今は視えてるんだよね?」
彼女はきっと自分から自分の話をしない人だと思ったから。
俺のストレートな質問にも嫌な顔をする事なく、「うん、視えてる」と葉月さんは答える。
自分からは話さないけど、聞けばちゃんと答えてくれる。葉月さんらしいな、なんて彼女の何を知ってるわけでもない俺が思うのは可笑しいだろうか。
「俺と会った時は視えてなかったんだよね? 杖、付いてたし」
「うん。夜になるとね、視えなくなるの。どうしてかは分からないんだって。何年か前からこういう体質になっちゃって医者にも行ったけど、精神的なのか身体的なのか、それすらも不明だって言われた」
「色々と困るんじゃない?」
「んー、それがそうでもないんだよね。仕事も知り合いのお店で働かせてもらってるから私の事情は知ってるし。だから、明るい内に帰らせてもらえて。念の為に杖も持ち歩いてるし、それなりに人の気配とかも分かるし。だから、すごく困ることはあんまり……ない」
絡まれてる現場に遭遇してるキミに言っても、あんまり説得力ないよね。なんて言って笑う葉月さん。
彼女は気づいているのだろうか。ここに来てから、敬語じゃなくて砕けた言葉になっていることを。それって少しは俺に対しての警戒心を解いてくれてるって事だよね?
基本的に何でも自分で出来ちゃう人なんだろう。他人に頼るという事が苦手なのかもしれない。というか、どう頼っていいのか分からない。とか?
俺があれこれ勝手に考えたところで仕方ないんだけど。
「葉月さんはさ、俺達の事見て怖いとか思わなかったの?」
「怖い?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
「ほら、俺も彼奴らも見た目派手だし、高校時代とかも結構ヤンチャしてたから雰囲気怖ーいとかチャラーいとかよく言われるんだよね。今は大分落ち着いた方だと思うけど、それでも、まぁ~全然って訳じゃないし」
言葉は濁したが、要は今でも時々喧嘩のようなものをしているという事だ。
「お洒落な子達だなって思った」
「へ?」
「キミ達がお店に来た時の印象。あとは、別に――」
誤解されやすい見た目の俺達。だからと言って社会に馴染む為に自分を曲げられるほど器用でも素直でもない。
俺達の派手な見た目を“お洒落”だと言ってくれた。
何だか、それだけで認められた気になってしまう。
「綺麗だよね」
「ん?」
「その髪の色。よく似合ってる」
「本当に? チャラいとか派手だとかよく言われるけど」
「似合ってるよ。とってもよく、似合ってる」
「……ありがと、葉月さん」
「うん?」
「この髪ね、俺の憧れの人と同じ色なんだ。だから、似合ってるって言ってもらえて嬉しい」
「そう」
言葉数が決して多い訳じゃないけれど、葉月さんとのこの空間が何だかとても心地いい。
「どうして、ここに呼んだの?」
葉月さんから質問が飛んで来る。
「それは……」
「それは?」
俺の言葉を繰り返して、俺を見つめる彼女が可愛い。
「葉月さんに俺だって気づいてもらいたかったから。だって、気付いてなかったでしょ。篠塚公人が俺だってこと」
「うん……、今日ここに来るまで全然一致してなかった。でもね、ここに来てキミを見た時、あ、そっかって腑に落ちたの。お店でキミの声聞いた時に何処かで聞いたことある声だなとは思ってたから。でも、全然思い出せなくて。この前、助けてくれた時もやっぱり声聞いたことある気がするって思ったんだけど、こんなお洒落な知り合いなんて自分にはいないしな、って不思議だった」
ガン見しないようにって思ってたはずなのに、俺はいつの間にか彼女から目が離せなくなっている。やっぱり葉月さんの目、綺麗だ。
「ねぇ、気付いてる? 葉月さん、今日は俺に対して敬語じゃない」
「ん? あ、ホントだ。篠塚君が話しやすいからかな? キミは最初っから私に対して敬語じゃなかったし」
「あ、ごめん。馴れ馴れしかった?」
「ううん。別にそういうのは気にしない。どちらかと言えば、壁を作られたり、一歩退かれる事の方が多いから。私がそうさせないっていうのもあるかもしれないけど。他人に興味ないからとか、心を開かないからだってよく言われる」
「あー、ソレ俺もよく言われる。へらへらした感じとか、ゆるーい感じで誤魔化してるけど壁を感じるって。ある一定のところからは踏み込ませてもらえなくて、何で一緒にいるの? って思っちゃうとか、言われたかな」
「それ、言ったの女の子でしょ」
「分かるの?」
「んー、まぁ。キミ、モテそうだもんね」
「俺は別に興味ないし、これからも持つことなんてないよって初めにちゃんと伝えるんだよ? それでも一緒にいたいって勝手に付いてくるから」
「女の子は期待しちゃうんだよ。一緒にいればいつかは振り向いてくれるんじゃないかって」
「勝手に期待されても俺、困っちゃうよ。勝手に期待して、勝手に失望して。冷たいとか酷いとか暴言吐かれて」
「大変だね。放っといてくれって思うよね」
「うん、ほんとソレ。って言うか、意外だね。葉月さんは俺のことフォローしてくれるんだ」
「私はその女の子達の事は知らないけど、少ない時間の中でキミに抱いた印象からは、その子達が言うようなものすごーく冷たくて酷い人間には見えないから。どっちの気持ちも何となくだけど想像できるし、どっちの肩を持つわけでもないけど、だからって私がキミを批判する理由はないわけで……。んー、うまく言えないけど。……私はキミを否定はしない。否定されるのって思った以上にダメージ食らったりするしね――」
男とすぐに仲良くなれるようなサバサバしている感じでもなければ、男に媚びることに長けているほど、あざとくもない。
見た目は可愛らしくて女性らしい感じなんだけど、だからってThe女子感っていうか、変なねちっこさというか、そういうものも感じさせない。
俺の事を二人称で“キミ”と呼ぶのは、俺が年下だからなのか。でも、不思議と葉月さんに呼ばれる“キミ”が俺は気に入っていたりする。
何が言いたいかというと、それはつまり、俺はこの女性のことが――――。
「葉月さんって、変な人だね」
「よく、言われる」
にっこり笑う彼女に頼ってもらえる存在になれたらいい。なんて、俺の中で初めての感覚が生まれた。




