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story4(2)_sideキミ



 今日は葉月さんがいない。


 折角来たというのに、肝心の葉月さんの姿が見当たらない。


 連日、厨房からちらちらと姿を見せていた店主が今日は接客も一人でやっていた。この数日間、ここに通い詰めている俺。その割りに彼女に話し掛けることもなく、ただただひたすらに読み進められることのない参考書を片手にコーヒーを飲んでいた。


 話し掛けないのは――いや、話し掛けられないのは何をどう切り出せばいいのか分からないから。だってさ、どっから話す? そもそも彼女は俺を認識していない訳で。カフェに来るどっかのチャラい大学生くらいにしかきっと認識されていない。話しかけてその辺のナンパ野郎と一緒にされるのもヤだし。結構な頻度で外で声をかけられているみたいだし、そういうのを喜ぶタイプではないことは、俺も絡まれているところに遭遇しているから分かる。


 というか、そもそも俺はマルやコメみたくベラベラと喋る方じゃないし、春一みたく器用でもない(……なんて、ただの言い訳でしかない)。


 ここに通い詰めて俺はいったい何がしたいのか。正直、自分でもよく分からない。


「いらっしゃい。昨日も来てくれてたよね? というより、ここ数日ずっとか」


 席に着いても一向に注文する気配のない俺を気にしてか、俺が呼ぶ前に注文を取りに来た店主はファーストコンタクトにしては少々馴れ馴れしい感じで俺ににこりと笑いかけた。ここ数日俺の頭の中に居座り続けている葉月さん以外の人物。


 アンタは葉月さんの何なんだ。


 最初にここに来た時から俺の頭の中に浮かんでいる疑問を現在進行形で浮かべながらも「あー、まぁ。はい」と曖昧に返事をする。

 

「ご注文は?」

「ホットコーヒーで」


「砂糖とミルクは……」

「要らないっす」


「あいよ。少々、お待ちを」と言って店主は一旦厨房へと入っていく。そして、また直ぐにコーヒーカップを持って戻ってきた。


「お待たせしました」

「どーも」


 コーヒーのいい香りが俺の鼻腔を(くすぐ)る。店主の馴れ馴れしい感じというか、必要以上に距離が近い感じ(特に葉月さんとの距離が近い気がするの)は気に食わないが(葉月さんも特段それを気にしているようには見えないのもまた、気に食わない)、ここのコーヒーは案外気に入っている。


 たとえ店主が気に食わない奴でもコーヒーに罪はないからね。そう思いながらも、俺は運ばれてきたカップに口をつける。


 そんな俺をじっと見つめる店主は何を見極めようとしてるのか。俺が店主を観察している間、俺も向こうから同じように観察されているのを感じていた。


 この数日間ずっと何かを見極めるようにこの店主に見られている気がするのはきっと、俺の気のせいじゃない。いつまで経っても厨房へと引っ込まない店主にちらりと視線を向けるとやっぱり気に食わない爽やかな笑顔を浮かべていて――。


「君のお目当ては俺の入れたコーヒー、って訳じゃあないよな?」


 案外ストレートに聞いてきたな、と思いながらもその質問にイエスを返す。


「まぁ、でもそんな客俺以外にもいるでしょ?」


 サングラスをずらし少し挑発的な態度を取ってみる。


「確かに、いるな。葉月はモテるからねぇ。でも、君は少し他の客とは違う」

「何が違うんですかねェ?」


 俺の挑発なんてこの店主はものともしていない。


「さぁな。でも、俺の勘がそう言ってる」


 一見爽やかそうに見えるこの優男が自分以上に挑発的な笑みを浮かべている。


 絶対、コイツ腹黒だ……。さっき葉月さんのこと葉月って名前呼びしたのも態とだろうし。


 そう思いながらもふいっと視線を逸らすと、クツクツと喉の奥で笑われた。


 完全にガキ扱いされている。それに反応を示してしまうのも何だか癪で、そのまま早く厨房に引っ込めと思いながら開いている参考書に目を戻した。


 ――――のに、やっぱりコイツは引っ込まない。俺が反応しない限りきっといつまでもそこにいる気なんだろう。そっちの方がよっぽど面倒くさいので仕方なくこっちから声をかけた。


「いつまでそこにいる気なんスか? お仕事に戻らないとヤバいんじゃないですかねぇ?」


 ――――のに、


「今はそんなに混んでないから大丈夫」と軽く返される。


 いや、そういうことじゃなくて俺はアンタにさっさと引っ込んでもらいたいんだよ。あー、もうイラッとすんな。


「――だけど、戻ることにするよ。学生さんならコーヒーのおかわりは自由だからいつでも呼んでよ」


 俺が苛立ちを表情に出したからか、直ぐに続けてそう言って気に食わない爽やかな笑みを浮かべながら、店主はさっさと厨房に引っ込んでいった。


 完全に遊ばれてんな。


 そうは思いながらも俺はその後何度かコーヒーのおかわりを注文してから、店を出たのだった。


 コーヒーに罪はないからね。



 

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